第172話 エロ彼女はヘラる。

 ゴクリ……

 ボクはペラペラとお話をしている二葉さんの後ろを見ながら、唾を飲んでしまった。

 この緊張感。そして、戦慄を覚える。

 二葉さんの後ろには気づかれないようにどこぞのメジャーリーグの球団のキャップ帽子を深めにかぶって、いつもの金髪のロングヘアを束ねつつ、紅蓮の眼鏡を掛けている美少女がこちらに向いて、これでもかというくらい恐ろしい殺気を送り続けてくる。

 その殺気だけで、ボクは死んでしまいそうだ。

 いや、このあと起こることから言うならば、明らかに「デッドエンド」という血塗られた字幕を見せられるというのが、ボクに課せられた絶対命題のような気がしてならない。

 ああ、どうしていつもは女神さまのような微笑みを浮かべてボクに接してくれるこの子がこのような悪魔のような顔をすることが出来るのでしょうか…。

 ボクは今にも漏らしてしまいそうになるが、何とかこらえながら、二葉さんの話を半分ほど聞き流しながら、反応していた。


「ねえ、聞いてる?」

「え…ええ、もちろん聞いてますよ。その柊くんと上手くいくといいですね。来週には夏祭りがあって、再び学校生活が戻ってきますから、しっかりと二人でいられる時間を大事にしてくださいね」


 ボクはそう言うと、二葉さんは満足したようで、「うん!」と最高の微笑みを浮かべて、ともに席を立った。

 ボクらは精算を済ませると、店の前で別れることにする。

 いや、まだまだ彼女にとって話は尽きないのだろうけれど、このままボクが話を聞いていたら、ボクの身が持たない。

 お家に帰った瞬間に八つ裂きミンチにされて、本日の晩御飯はハンバーグぅ~とか言って、妹の腹の中に押し込まれてしまいそうだ。

 いや、もしかしたら、自分で食べるか!?

 て、想像するのは止めよう…。メンヘラ×ヤンデレの極みの遊里さんしか出てこない。

 ボクはひんやりとしたものを感じる背後を振り返る。

 あー、顔が引きつってる笑顔…。

 これは怒ってますよね?


「ったく、今日もバイト疲れたなぁ~って思いながら、アミュンザを出たら、まさかの隼が雪香と一緒にいるんだもん…。何だか、嫉妬しちゃうわよ!」

「ああ、ゴメンって…。これにはちょっとばかり深いわけが…」

「その深いわけを聞いてあげようか?」

「いや、それはちょっと…。二葉さんとの約束で話せない…んです…」

「へぇ~、彼女にも教えれないようなことを、爆乳美少女とお約束しちゃったんだぁ~。ふ~ん、ふ~ん」


 うわあ。ヤンデレ遊里さん、超めんどくせー!

 て、いつの間にか、ボクの腕、捕まえられてるし…。

 逃げられないじゃん…。


「ま、前の社会見学のときのようなエッチなことは一切ありません。これは正直に申し上げます」

「ふん。そういうことじゃないの! 私は隼が他の女に優しく接しているのを見るだけで嫌なの!」


 いや、本当にヤンデレが過ぎるんだが。

 正直、こんなキャラだったっけ…? 何か別のフラれた女の怨霊でも乗り移ってるんじゃねーのか…?

 ボクはかなり疑いの表情で遊里さんを睨みつける。


「あ…。もしかして、隼…ちょっぴり怒ってる…?」


 急に不安そうな表情をして、ボクの懐に入って来ようする。

 いや、あんたは猫か何かか…!?


「いいや…。怒ってはないけれど、驚いてはいるかな…。いつもの遊里とは全然異なるような反応をしてくるから、どこかのフラれたヤンデレ系メンヘラ女子の怨霊でも乗り移っているのかと思ってたりする」

「あう…。ゴメン…。ちょっと調子乗ってやってみたかったの…」


 何でまた!?

 どうして、急に「どこかのフラれたヤンデレ系メンヘラ女子」の真似事をする必要があるの!?


「あのね、今日職場で休憩中に他のバイトの子たちとそんな話になったの。隼がこの間、妹と来たのを見て、彼氏奪われたりしない? 大丈夫って。その時は、楓ちゃんがそんなことするはずないって思ってたから安心して、ヘラヘラ笑っていたんだけど、いざ、同級生の…しかも親友と二人きりってのを見かけるとちょっとね…」


 ああ、嫉妬しちゃったのか…。

 何だか申し訳ないことをしちゃったかもしれない。


「そっか…。ゴメンね…。すごく勘違いしちゃったんだね」

「う、うん…。でも、後ろで話を聞いていたら、だいたい何の話をしているかは分かってきたから、ホッとしてはいたんだけど、一回ちゃんと言っておきたいなって思っちゃって」


 ボクは、遊里さんの手を握ってあげる。


「ゴメンね、遊里。でも、嫉妬してる遊里も何だか可愛いな…。そんな気持ちになってくれる遊里が好きだよ」

「――――――!?」


 遊里さんは目を大きく見開き、頬を赤らめて固まってしまう。


「ちょ、ちょっと…。この辺、人通りが多いんだから、そういうことは恥ずかしいって!」

「あはは…。ボクにメンヘラ女子みたいなことをするから、お返しだよ」

「もう! やられたわ…。優しいと見せかけて、そういうところはズル賢いのよね!」


 何とでも言って欲しい。

 そもそもは遊里さんの演技が問題を引き起こしたのだから。

 辺りは夕陽に染まりつつある。

 ボクらも家に帰って食事を作らないと。近いうちに妹も部活から帰ってくるしね。

 遊里さんはその後、二葉さんの恋の話については何も聞いてこなかった。

 すでに色々聞いてしまった分もあるからということもあるけれど、それよりも親友の恋が実ってほしいという気持ちもあるのかもしれない。

 その時、ボクは遊里さんが怒っていなくて良かったと安心したが、それが間違いであったことを帰宅後に知る。

 今日の夜の遊里さんはいつも以上に激しく、エロく、嫉妬をすべてぶつけてくるくらいの攻めをしてきたのであった。

 うう。腰が死んでしまう……。

 まあ、会うことを秘密にしてたボクが悪いんだから、自業自得なんだけれどね…。

 ああっ!? また―――――うっ!(チーン)





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