第167話 ばっど・たいみんぐ!
マンションのドアがガチャリと開いた。
ボクにとっては誰が帰ってきたのかすぐに分かる。
きっと、遊里さんだ————。
て、マズい!?
ボクの膝を枕にして、楓が寝ているじゃないか!?
「ただいま~、あ~、今日は結構大変だったぁ~」
遊里のことだから、そのままダイレクトにリビングに入ってくるはずだ。
「ねぇ~、隼~、癒して…て、え——————っ!?」
「あ、おかえり…」
そりゃ、叫びたくもなるよね…。
帰ってきて、彼氏に甘えたいなぁと思ったら、その特等席が他の女(妹も含む)に奪われていた時の衝撃と言えば…、うん、言葉では言い表せないね…。
ボクは何とか妹を膝枕から剝がそうと必死に頑張ったけれども、必死な抵抗にあい、諦めてしまった。
そのタイミングを彼女は見たのだ。
ワナワナとボクの膝のあたりを指さしながら、震える彼女。
「あ、おかえりじゃな~~~い! そこは私の特等席なんだから…ううっ……」
ああ、泣かないでほしい…。
「せっかく、一生懸命働いてきて、癒してもらおうかなぁと思ったら、他の女が隼を奪ってたぁ~」
てか、そこまで言う!?
他の女っていうか、妹ですよ! 目の前にいるのは…。
て、いつからヤンデレ系女子になったの?
「ここにおいでよ…」
ボクは彼女をボクの座っている左をポンポンと叩く。
右側には妹の楓が膝枕をしたまま寝てしまっているから。
彼女は少し不満そうに横に座る。
両手をそっと頬に添えて、目を合わせる。
彼女は少し恥ずかしくなり、頬をピンクに染める。
「な、何よ…急に……」
「妹にはできないこと…お疲れ様…」
そっと唇を重ねる。
外を歩いて帰ってきたからか、少し汗ばんだしっとりとした肌。
そして、ボクは彼女の唇と少し長めにキスをする。
不意を突かれたからか、すごく恥ずかしそうに視線を逸らす遊里さん。
「どう? 少しは気分が晴れた?」
「そ、そりゃ…、妹とはできないことだから、悪い気はしないわよ!」
そこで意地悪く遊里さんはニヤリと微笑み、Tシャツの首の部分を指で引っ張り、
「ついでに~、私の汗ばんだお胸も舐めちゃう?」
「それはさすがにダメでしょ…」
「ええ!? ダメかな?」
「うん。ボクにはそういう趣味はないよ…。早くシャワーを浴びるべきだね…」
「は~い」
「シャワーを上がってきたら、かき氷を買ってあるから食べよ」
「うん! サンキュ♪」
遊里さんは笑顔でそう言うと、そのまま立ち上がり、ボクの部屋に荷物を置いたうえで、浴室に向かった。
シャワーということもあり、サクッと出てきた遊里さんは夏らしく黄色を基調としたワンピースを着ていた。
「はい」
とボクが彼女の首筋にカップかき氷を当てる。
「きゃっ!? もう! メチャクチャ冷たいんだけれど!?」
「あはは…ごめん」
「あー、全然反省してないな…その言い方は!」
そう言いながら、蓋を開けて、スプーンで表面をゴリゴリと削って食べ始める。
本格的な夏本番になって、外は焼けるような暑さと同時に湿気が多い日本ではうだるような暑さも同時に襲ってくる。
その中を20分ほど歩いて帰ってきた遊里さんにとっては、かき氷は癒しになるかもしれない。
遊里さんはイチゴ、ボクは宇治金時。
どちらも安いけれど、美味しいというコスパ最高のカップかき氷だ。
「ねえ、それって美味しい?」
「え? 宇治金時? 美味しいよ。一口食べる?」
「うん!」
ボクはスプーンに削り取ったかき氷を載せて、食べさせてあげる。
口に入れた後に広がる甘さに感動を覚える遊里さん。
「これも甘くて美味しい! もう一口頂戴?」
甘えるようにボクに近づく彼女。
ボクは彼女には勝てず、もう一口を準備して、差し出す。
その時、不運にも彼女の歯にスプーンが当たってしまい、ポロリとかき氷が落ちる。
不運とは続くもので、そのかき氷は彼女のワンピースの開いた胸のところから中に入っていく。
「きゃっ! 冷たい!」
「あ、大丈夫?」
ボクは不意に手を出してしまった。
彼女の胸に落ちたかき氷を拭おうとしたのだけれど…、結果は最悪な方向に向かった。
「ちょ、ちょっと~! 隼…どこ触ってんのよ!?」
そう。
ボクは思いっきり、遊里さんの胸に手を突っ込んだ状態になってしまったのだ。
「あああ…本当にごめん!」
「ちょ、ちょっとそこはダメ! あぅん♡ 触らないで!」
うあ…。
何だか、突起に当たっちゃった…。
て、ノーブラなの!?
ああ、しかも、勢いで服破れてるんだけど!?
「あんっ♡ もう、本当に何でこうなんのよ~」
いつの間にか、遊里さんを壁に押し付けるようにボクと遊里さんが絡み合っているような構図になってしまった。
そして、最悪なタイミングといえば……
「ま、また、お兄ちゃんと遊里先輩がイチャイチャを見せつけてくる~!」
楓が起きてしまった…。
もう、最悪だ…。
「これをどうみたらイチャイチャに見えるの!? 楓ちゃん、落ち着きなさい!」
「た、確かに…」
楓はボクと遊里さんを交互に見直して、
「お兄ちゃんが遊里さんの服を引き裂いて襲ってる!? もう、変態プレイじゃん!!」
うん。
状況はもっと悪い方向に進んでいるような気がする。
楓にとっては衝撃の強すぎる最悪なタイミングで誤解をあたえるような光景を見せてしまった。
ああ…。
ボクもゆっくりと癒される時間が欲しいよ…。
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作品をお読みいただきありがとうございます!
少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。
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