第166話 甘えてもいいんですか!? 先輩!!

 ボクと楓は天ぷらを堪能した。

 家でも揚げたりはするけれど、こんなに綺麗に揚がることがない。

 どうしても、衣がベチャッとした感じになるので、この辺り改善の余地がありそうだな…。

 注文したものを持ってきたとき、遊里さんが、


『今日は初日ということもあって早上がりだから、14時には上がることになっているから、隼は待っててもらえたりするかな…?』


 楓も今日はオフということもあって、この足で瑞希くんの家に行くらしく、遊里さんが上がるまでの間はボクと一緒にいるということになった。

 またもや、禁断症状のような震えが出ている遊里さんが気になったが、その時は敢えて気にせずに楓と天ぷらに舌鼓を打った。



 14時近くになったとき、楓は買ってもらったアイスクリームを食べながら、


「そろそろ遊里先輩が上がる時間だね」

「うん。もう14時か…」


 ボクと楓は天ぷらで胃袋を幸せにした後、アミュンザのアパレル店をウィンドウショッピングした。

 兄として気になるのは、瑞希くんの家で邪魔をしていないかということ。

 それに関しても、


「あ~、別に邪魔はしていないよ。むしろ、気に入られちゃったくらい。あっちの家の人たちも瑞希に良い伴侶が出来たって喜んでた」

「いや、もう結婚を前提としたお付き合いなの!? てか、結婚しちゃったら、ボクと凛華さんが義理という関係で繋がっちゃうの!?」

「う~ん。そうなるけれど、本当に凄いよね…それって」


 想像するだけでおぞましい…、いや、恐ろしい…。

 ボクと凜華さんが親戚だなんて…。

 これまで考えたこともなかった。


「まあ、そういうわけで、私とアイツとは相性抜群ってわけなのよ」


 何の相性だ、何の…。

 と、突っ込みたくなったりもしたが、敢えて気にせずに話を続ける。


「あ~、でもね…。そりゃ、私もお兄ちゃんに甘えたい時もあるよ…」

「そうか…」


 何だか申し訳ない気がしてくる。

 楓が寂しそうな目をこちらに向けてくるといつもそう思う。


「私だって、こうやってお兄ちゃんの肩にもたれかかって、お話をしたい時もあるわけよ」

「そりゃ、兄妹きょうだいだからな…。そうであっても良いと思う」


 と、言っても愛が重いと自身で認めているウチの彼女が許してこないかもしれないけれどね…。

 少し無言になりながら、ボクの肩を借りる楓。


「ねえ、お兄ちゃん…。夏休み終わっても、瑞希の家にいた方が良い?」

「は……?」

「だって、遊里先輩の邪魔にならないかな…?」

「ボクはまだ遊里とは結婚してないし、楓はボクの妹なんだから、楓がに帰ってくることができない状況はおかしいと思うな」

「……………」


 楓は瞳を涙でにじませながら、ボクの方を見る。


「お兄ちゃん…」


 あ、でもこれはマズい。

 明らかに欲しがっちゃってる楓ちゃんモードに入っている…。

 間違いなくキスしたがっている…。

 ここではさすがにダメだって…。いや、兄妹きょうだいなんだから、どこでもダメなんだけれど!?

 彼女が顔を近づけてくる。

 どうすれば傷つけずに回避できる!?

 いや、これは詰んでるような気がする!

 と、そのとき、ボクの背後から腕が伸びてくる。

 その腕の先にある手が、楓の頬を掴む。


「痛たたたたたたっ!?」


 うわっ!?

 何これ、心霊現象!?

 ボクは慌てて、振り返ると、


「―――――――――!?」


 ええ。これを鬼の形相って言うんですね…。

 ボク、完全に詰みました。

 前から妹からキスされそうになって詰みましたけれど、後ろからの鬼には勝てませんわ…。


「隼~~~~~、これはどういうことかな?」


 ぬおっ!?

 メッチャ至近距離での遊里さんの怖い顔はさすがにちびっちゃいそう…。


「それと楓ちゃん…。甘えるのは許すけど、兄妹でのキスは義姉おねえさんは認められないわね…」

「ひぃっ!? ゆるひへふははひ…」


 楓は許しを懇願した結果、遊里さんに頬を抓られた状態から解放された。


「隼もさすがに自己防衛くらいしてよね。雪乃も以前に胸を触らせようとしてきたでしょ?」


 ああ、そんなことが社会見学の時にありましたなぁ…。

 もう、忘れかけてたよ。

 遊里さんの胸で上書きされてて…。(失礼!)


「ご、ごめん…。ちょっと兄として、妹が悲しんでいるとさすがに…ね?」

「まあ、それも分かるよ…。だって、楓ちゃんは私も好きだもの」

「え……」


 楓は頬を押さえながら、遊里の方を見る。


「当り前じゃない。私はね、自分から逃げていく人を追いかけたりはしないけれど、一緒にいて楽しいと思う人は常に一緒にいておきたい存在なの。楓ちゃんは一緒にいてて、わいわい言い合える素晴らしい妹だと思ってるもの」

「遊里先輩…。じゃあ、私、家に戻っても居場所はありますか?」

「そりゃそうでしょ…。さっき、隼も言ってたけど、そもそもあそこの家はあなたたち二人の家じゃない…。私はあなたから見れば、押しかけ女房みたいなもんでしょうけど…。私は楓ちゃんまで追い出そうと思ったことは一度もないわ。むしろ、逆ね。一緒にご飯を食べてると楽しいし、楓ちゃんのことを考えて作られた隼の食事は本当に勉強になる。だから、一緒にいると嬉しいくらい」

「先輩…」


 楓が感動のあまり、頬を緩ませる。

 そこに遊里の人差し指が楓の目の前に突き出される!


「でも、さすがに兄妹きょうだいなんだから、限度を超えた愛情表現は良くないと思う。甘えるの意味をはき違えたら、さすがに私も許さないんだから!」

「それはごめんなさい…。兄妹で抱きしめ合うくらいはいいですかね?」

「う………」


 あ、遊里さんの呼吸が止まった…。

 目を白黒させて数秒後、


「え、エロくなければ…、頭を撫で撫でとかくらいなら…許すかな……」


 かなり無理してるよね?

 泣きそうな顔をしながら、怒りの言葉を吐き出そうとしているのを無理して、穏便な言葉を紡ぎ出してるって感じ…。


「とにかく、夏休み中でいつでも帰ってきていいんだから…。私も都合がいいから一緒に同棲してるけれど、そりゃ夏休みが終わったら、実家に戻るもの!」


 まあ、10秒ほどで帰れますけれどね…。



 翌日…。

 元気よくウチのマンションのドアが開けられる。


「お兄ちゃん! ただいま~~~~!!」

「あ~、おかえり~。て、早っ!?」

「うん! 遊里先輩に帰ってきていいって言われたから帰ってきちゃった! 週末だけ瑞希の家に泊まることにしたの!」

「へぇ~」


 何ともお気楽な話だ。

 てか、遊里さんがまだアルバイトに行ってるのを狙って帰ってきたんじゃないだろうな…。


「うふふ…お兄ちゃん…。今日の練習は午前だけだったんだよ…。だから、遊里先輩が帰ってくるまで、た~~~~っぷり甘えさせてもらうことにするよ…」


 そういうと、楓は目の前でパパッとTシャツにカットパンツに着替え、ソファにいたボクに抱きつく。

 そして、そのままボクにスリスリし始める。


「あ~、お兄ちゃんの匂い…久しぶり~~~♪」


 うう…。

 何だか前途多難な夏休みが続きそうだ…。





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作品をお読みいただきありがとうございます!

少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。

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