第164話 妹から蔑まれるボク。
遊里さんのお母さんである早苗さんが頼んだ猫耳メイド衣装は翌日には届いた。
ちゃんと1つだけウチで、あとの2つは自分の家に送るとはなかなかの手はずだ。
それに遊里さん宛だと、隠してしまうかもしれないということで、敢えてボクの名前で送ってくるあたり、さすがといったところだろう。
包装紙を開けると、確かに白と黒のメイド服、猫耳のカチューシャに尻尾まで付いてあった。
こ、これは………
「絶対に似合う! てか、最適任者だ!」
ボクはつい、興奮気味に言ってしまう。
あ、でも、黒髪の茜ちゃんも似合いそうだなぁ…。
猫耳メイド服の遊里さんと茜ちゃんがボクの傍に寄ってくる。
「お帰りなさいませ、ご主人様♡」
遊里さんは言い慣れていて、さらりと言いのける。
一方、茜ちゃんは、恥じらいでモジモジしつつ、
「お、お帰りなさいませ……ご、ご主人…様ぁ…♡」
いや、顔を紅潮させながら、その言い方は確実にエロいでしょ!
でも、純粋に恥ずかしい気持ちが伝わってくる。
遊里さんの豊満なお胸と茜ちゃんのほんのり膨らんだお胸とがメイド服から谷間をチラリと見せている。
「今日は、隼はお食事、どちらにするのかニャン?」
「え?」
ボクは遊里さんの言っている意味が理解できず、呆ける。
遊里さんは、「もうっ!」と少しプリプリ怒りながら、
「今日は、私と茜のどちらを食べちゃうのかしら? ってこと」
「ええっ!?」
それってどういうこと!?
ボクと遊里さんって恋人同士なのに、何で茜ちゃんを食べることになるの!?
茜ちゃんは恥ずかしさがもう限界という感じで顔を真っ赤にしながら、
「隼お兄ちゃん…」
ぐはあっ!?!?
心臓に銀の杭をぶち込まれた悪魔のようにボクは吐血する!(気持ちの上で)
な、何なんだ!? この破壊力は!
遊里さんと同じ顔で黒髪で清楚っぽく見える茜ちゃん。
まさかの妹属性という力を最大限に生かした攻撃にボクは死にかけてしまう。
その死に欠けのボクにマウンティングを取るように、身体を少しずつ近づけてくる。
「お兄ちゃんは茜を選ぶよね…?」
「ええっ!?」
「いいえ、隼は絶対に私を選ぶわ!」
「ちょ、ちょっと!?」
「お姉ちゃんこそ、いつもガツガツ行き過ぎなのよ…。たまには妹にも譲ってよねぇ」
「ふっ! それはお姉ちゃんであり、隼の永遠のパートナー(幼馴染属性付き!)である私だからよ!」
「そ、そんなのズルいですよ! 今からでも作者に言って、設定を弄ってもらえれば、私にも幼馴染属性くらい付きます!」
「ええっ!?」
ボクは驚くしかない。
幼馴染属性ってそんなに簡単にくっつけられるの!?
「とにかく、隼お兄ちゃんは私のもの」
「いいえ、隼は私のものよ」
ボクの両腕はそれぞれが抱きしめ、ボクの腕は二人の胸に抱かれていて幸せの絶頂中だ。
ボクの脳内では理解できないことの連続で、頭がぐわんぐわんしているのだけれど。
「ああっ! お兄ちゃん、そんな強引に揉んじゃやだぁっ!?」
ええっ!? ボクは何もしてないよ!?
そう。ボクがしたのではない。
茜ちゃん本人がボクの手を彼女の服の中に突っ込んで、こねくり回してしまったのだ。
ああ、でもすっごく柔肌なんだね…、茜ちゃん…。
遊里さんそっくりな黒髪清楚の茜ちゃんはボクの目の前で顔を赤くしながら、身悶えする。
それを見ていた遊里さんはさらに鼻息が荒くなる。
彼女はボクの前に膝立ちして、
「あぁん♡ 隼ったら、そんなに吸い付いちゃうなんて、茜が見てるじゃない!」
はい。
ボクは何もしてませーん。
遊里さんは自らメイド服をはだけさせ、ボクの顔をその豊満な胸に
もう、妄想の世界だらどうにでもなれ…。
いや、でも遊里さんの柔肌感は茜ちゃんのと違ってこれまた吸い付くようで気持ちいいな……ってちがーう!
そのまま彼女らの淫靡な行為にボクの心と精が奪われかけたとき。
「お兄ちゃん…、お兄ちゃん!!」
ん。
その声は…。
「お兄ちゃんの本当の愛を受け止めるのは私なんだから!」
ええっ!?
そこには水着姿の妹の楓が立っていた。
しっとりと濡れた髪。水のせいでピッタリと身体に吸い付いたような水着は楓の姿態の滑らかな曲線を際立たせてそれだけでエロい。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
妹はそのままボクに抱きついてきた!
ボクが目を覚ますと、そこには楓が睨みつけながら仁王立ちしていた。
ボクの腕の中には、早苗さんに購入してもらった猫耳メイド服。
うーん、これは詰んだな…。
「お兄ちゃん…。ちょっと会わない間になかなか気持ち悪くなってない?」
「ああ…、誤解だけれど、さすがにこの状況下では弁解のしようがないです…」
ボクはただ色んな意味で悲しくて泣くしかなかった。
楓にひたすら謝り、話を聞くと、
まだ下着とか色々要りようがあって取りに来たら、ボクがメイド服を抱きながら、ハァハァ言ってて、最初は面白そうだから見ていたけど、妹の名前まで出て来たから気持ち悪くなって起こしたそうだ…。
いや、起こしてくれて本当に助かった。
「それにしても、最近のはよくできてるなぁ…」
感心しつつ、自室の自分の机の大きな引き出しの中に仕舞い込む。
まあ、これはまたの機会に使うことにしよう…。
今日から8月―――。
つまり、遊里さんにとっても初めてのバイトだ。
遊里さんがバイトすることになった天丼屋さんは駅前の商業ビル内の飲食店の一つで、コスパが良いということで有名な店だった。
昼間はお客さんが多く、商業施設利用者やサラリーマンなど多岐にわたる客層が美味い、安い、早いの三拍子がそろった天丼屋に列を作るらしい。
そんな話を楓にしたところ、
「じゃあ、一緒に見に行かない?」
「ええ!? 可哀想じゃない? まだ、新人なのにさ…」
「それがいいんじゃん!」
悪戯好きの猫のように笑いながら楓はボクと一緒に天丼屋に行くことに勝手に決めた。
まだ、新人なんだから研修くらいなんじゃないかと思うんだけれどなぁ…。
ボクはそんな姿を見られる遊里さんを少し同情してしまった。
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