第163話 彼女のアルバイトは接客業♡
遊里さんは周りの反応を見て、頬をぷぅー!と膨らまし、もう一度同じ言葉を言った。
「私は、8月からアルバイトをすることにしたの!」
当然、ボクらは唐突に発表された彼女の「アルバイト宣言」に呆けるしかなかった。
そりゃそうだ。
だって、これまでも別にそこまでお金に困るほどの生活をしていたわけでもないし、そんなにボクらは高いものを購入することもなかった。
まあ、いわば普通の高校生として、良識あるお金の使い方をしていた。
だから、彼女がそんなことを言い出したことが、みんなにとって驚きになったのだ。
「あのぉ…。何がおかしいのよ?」
「い、いや、おかしくないんだけれども、どうして、急にバイトをやろうと思ったの?」
彼女が怪訝そうに周囲を見渡すので、ボクが代表して訊く。
「ちょうど友達がバイトしてる場所で、8月から引っ越しで出られなくなった人がいて、その代わりに入らないって誘いを受けたのよ」
「へぇ~。で、お姉ちゃん、そのバイトって何系?」
「えっと、接客業だよ」
茜ちゃんの質問にも笑顔で答える遊里さん。
「如何わしい!!」
なぜか、そこで発狂する早苗母さん。
「え…ちょっと待って、どこがどう如何わしいのよ!?」
「だって、接客業って、水商売とかでしょ?」
「いや、私、まだ高校生なんだけど…。普通に飲食店だよ」
お母さんの勘違いに腹を立てる遊里さん。
まあ、ここは腹を立ててもいいと思うよ。
てか、お母さんも接客業でいきなり脳内に水商売が出てきたらアウトでしょ。
「隼さん…。接客業ってどういう系でしょうね…。お姉ちゃんのことだから、メイド喫茶とかですかね?」
茜ちゃんがボクの耳元で悪魔のような囁きをする。
ボクは思わず想像(妄想?)してしまう。
ボクが店のドアを開けると、猫耳メイド服の遊里さんが、笑顔でこちらを振り向く。
「あ、お帰りなさいませ~♡ ご主人様♡」
ぐはっ!!!
これだけで心臓破壊されそう!
「こちらの席に座ってほしいだニャン☆」
もう、ボク死んでもいいですか…。
金髪猫耳メイドがミニスカ&ニーハイで攻めてくるとか天国かよ!
ご丁寧に尻尾まであって、それが自然な動きとともにふにゃにゃんと揺れ動く。
あー、尊い。
「お客様、ご注文は何にするだニャン?」
上目づかいで注文を取りに来たら、「全部ほしい」とか言ってしまいそうだよ。
最後のデザートにこの猫耳メイドな遊里ちゃんが欲しい…。(犯罪)
「じゃあ、オムライスを」
「かしこまりました。少々お待ちください間瀬だニャン♡」
注文を取り終えて、厨房に去っていく後ろ姿とふにゃにゃんと揺れ動く尻尾はさらにボクの胸をきゅんとさせてくる。
「お待たせしました。オムライスだニャン☆」
いい加減、語尾がうざい?
ふっ、まだまだ分かってないな…。
エロカワ彼女がこんなこと言ってくれる機会なんてないんだ!(魂の叫び)
妄想の時くらい許してくれ! な? 作者よ! そして、読者よ!
「では、ご主人様がお食べになる前に、魔法を掛けますね」
と言って、猫耳メイドは腰にぶら下げたステッキを構える。
ステッキを振り振りまわしながら、
「美味しくな~れ、萌え萌えニャン♡」
ああ、頭を少し傾けながら、笑顔で言ってくれるなんて、絶対に美味しくなってるじゃん…。
ボクの妄想はそこで終わった。
ボクは握りこぶしに異様に力を込めて、
「メチャクチャ行きたい!」
「ええっ!? 隼さん…何か凄い妄想したんじゃないですか…? 興奮しすぎて、鼻息荒いし、何だか少し顔も紅潮していてキモいんですけど…」
「あぅ…ごめんね…。そんなつもりはなかった。でも、後悔はしていない!」
ボクは茜ちゃんにサムズアップして、その妄想の設定をくれたことに感謝する。
ボクの目の前には、ジト目で怒り心頭な遊里さんがいた。
「メイド喫茶なわけないでしょ!? また、隼のことだから、私を猫耳メイドに仕上げてたんでしょ!」
「な、なぜ分かった!」
「いや、さすがにわかりますよ…隼さん。そこまで露骨だったら、お姉ちゃんだけじゃなくて、私たちにもバレましたよ」
ぬぉっ! ボクの性癖が大公開!?
「で、ちなみにその時の私はどうだったの?」
怒ってるのか恥ずかしいのか分からないが、少し顔を赤らめて聞いてきたので、ボクは笑顔で、
「メチャクチャ可愛かった。どこかでしてほしいくらい」
「もう! 隼って本当にエッチなんだから…」
そのやり取りを見ていた早苗母さんは、
「何だったら、今からAmazonで発注しようかしら。興奮するんだったらそのほうが、着床率アップするんじゃない!?」
て、どこまでお宅の娘さんを妊娠させたがってるんですか…。
茜ちゃんは明らかにドン引きだ!
「隼くん! 猫耳メイド服、3つ頼んだから安心してね!」
「ええ!? 仕事早すぎですよ! て、3つ?」
ボクは首を
「決まってるじゃない。遊里と私と茜の3人分よ」
「ええっ! 私の分もあるの!? 何で!?」
早苗母さんは、茜ちゃんの前で仁王立ちして、
「そんなの決まってるじゃない。なかなか彼氏を作ってこないアンタにそのチャンスをあげるのよ」
「いや、意味わかんないです」
「まあ、隼くんにとっては、遊里の黒髪バージョンってのも萌えるんじゃないかしら」
うん! メッチャ萌えますね。
ボクは目を輝かせてしまった。
「隼…。心の声が何だか聞こえるようになったみたいなんだけど…私…」
「えっと、いつから?」
「今しがた…。て、お母さんもそんなのいらないから! キャンセルしてよ!」
「もう、発送準備中だって、さすがAmazonね。仕事が早すぎだわ!」
いや、もう声喜びすぎでしょ!
何だかドタバタしていて収集がつかない状況になっている。
遊里さんは頭をポリポリと掻いて、はぁ…と深いため息をついた。
「ちなみに、私が入るバイト先って天丼屋さんだからね」
ボクらは、あまりにも普通なバイト先でズッコケてしまった。
遊里さんもまさかそんな反応をされるとは思っていなかったようで、
「私はチャラくないんだから、勘違いしないでしょね!」
と少し機嫌を損ねてしまったようだ…。
ああ、また、何か甘いものでもご馳走しようかな…。
今は、遊里さんは何のスイーツにハマっているんだろう。
「茜ちゃん、最近の流行りのスイーツを教えてね…。君も共犯なんだから…」
「え!? 私が何かしましたか!?」
唐突な振りに焦りだす茜ちゃん。
いや、普通に猫耳メイド喫茶の設定をくれたじゃん…。
そもそもあれが原因だよ。
ところで、何でバイトしたいのかあんまりわかんないけど、それはまた追々聞けばいっか…。
とにかく、早急にすべきことは遊里さんの機嫌を直すことだよね…。
―――――――――――――――――――――――――――――
作品をお読みいただきありがとうございます!
少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。
評価もお待ちしております。
コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!
―――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます