第162話 彼女の決意!
楽しかった旅行も終わり、ボクらは普段の生活に戻った。
遊里のお母さんである早苗さんにチケットを頂いたお礼とお土産を渡しに行った。
「あ、隼さん、お久しぶりです」
お、今日は茜ちゃんがいる。
黒髪の遊里さんみたいな感じのこの女の子が茜ちゃんだ。
妹の楓と同じ水泳部で次期キャプテンとの呼び名が高い。
まだ、彼氏がいないらしくて、お姉ちゃんのイチャイチャぶりを見せつけられて、自分も彼氏が欲しいらしいが、そんな都合よく彼氏を見つけられることもなく、中学時代の間は彼氏なしで過ごそうかと思っているらしい…。(遊里さん情報)
「どうぞ、入ってください。隼さん」
「ねえねえ、お姉ちゃんには何かないの?」
「あ、久々に帰ってきた…(ボソッ)」
「冷たっ!?」
ボクは出してもらったスリッパに履き替え、リビングへと案内される。
「どうも、こんにちは…」
「あら、いらっしゃい」
金髪の遊里さんに瓜二つなこの女性こそ、遊里さんのお母さん・早苗さんだ。
娘たちは見分け方は、胸が垂れているところ、というけれど、そんなのじっと見ていたら単なるセクハラだよ…。
「どうしたの? 私の顔に何かついている?」
「あ、いえ、いつもながら、遊里に似てるなって…」
「あら、そんなにあの子に似て、可愛らしい? 隼くんも言うわねぇ…」
そこまでは言ってない!
早苗さんはボクの手を取ると、
「今日は特別に今からさせてあげるわ。そんな嬉しいこと言ってくれちゃったんだから…」
ふぅーと耳に吐息が掛けられる。
ボクは思わず身体をゾクゾクと震えさせてしまう。
も、もしかして、これは悪寒!?
ボクが振り向くと、リビングに入ってきて、憎悪の視線を実母に対して送り続ける遊里さんの姿が。
「はいはい…。娘の前で、娘の彼女を寝取ろうとするのはお止めくださいね~」
「あん! 遊里ちゃんったらすっごく怖い目してるわよ」
「当たり前でしょ…。色情魔が私の彼氏を奪おうとしてるんだから、それを守るのは恋人の仕事じゃないかしら?」
「大丈夫よ…。あなたたちがなかなか孫を作ってくれないから、先に作ってしまおうかと思ってただけよ」
「それこそ色情魔よ…。しかも、お母さん自身が作ったら、それは孫になんないでしょうが!」
遊里さん、突っ込むところはそこじゃない!
遊里さんは手に持っていた旅行のお土産をお母さんに手渡す。
「とにかく、ちゃんとタイミングってものがあるでしょ? 私と隼はちゃんとそこまで相談したうえで付き合ってるから、気にしないでよね」
「まあ、その言葉を聞いて安心したわ…」
早速、お土産を見て、喜んでいる茜ちゃん…。
「あれ? 今日は勇気はいないの?」
「ええ、何だか最近、マンションの別の階にクラスメイトの女の子と仲良くなって、その子の所に遊びに行ってるわ」
「へぇ~、ついに勇気にも春が来たんだ~」
「いや、まだ小学生だし…。早すぎるから…」
ボクがそう言うと、遊里さんはニヤニヤと茜ちゃんの方を見て、
「ま、ここに行き遅れがいるもんね」
「な、何ですか!? 私にも適切なタイミングというものがあります! お姉ちゃんだって、高校生になって隼さんと付き合うまでは、彼氏なんていなかったじゃないですか!」
「う…。まあ、そうね…。茜は水泳部だし、水泳部にもいい男はいるんでしょ?」
「ま、まあ…いないわけではないのですが…。ちょっとみんな肉食系というか…」
「あら、茜…。肉食系だと困るの?」
え、そこでお母さん絡んできます!?
そんな話止めなさいとか言って止めないの?
「あなた、ドMなんだから肉食系の男と付き合った方がいいわよ、きっと」
さらりと言ってのけるお母さん。
いや、もはやそれは暴言なのでは!?
「う…。お母さん、普通に酷いよ」
それについてはボクも同意します。
なかなか毒舌なお母さんだと思う。
「確かに私はそういうプレイ好きだけど!」
好きなの!?
あの、それ公開して良いの!? ボク、目の前にいるんだけれど!?
「あ、ていうか、こんな話、隼さんのいる前でするものじゃないもの!」
茜ちゃんは冷静さを取り戻したのか、話をそこで途切れさせた。
でも、顔が赤くなってるのはやっぱり恥ずかしかったのかな…。
「ま、いいわ。娘の恋愛に関しては、あんまり詮索しないようにしてるから」
「「「めっちゃしてますから」」」
ボクらは全員で早苗さんの言葉にツッコミを入れた。
遊里さんは、ボクをダイニングテーブルに案内してくれて、コーヒーを入れてくれる。
「今日はお土産を渡しに来ただけじゃないの」
遊里さんが急に早苗さんを前にして話し始める。
「いよいよ結婚!?」
わくわく顔が止まらないですね、早苗さん。
もう、そんなに心待ちしてるなら、大学入学と同時に学生結婚してあげようかな…。
「あ~、それはもっと先ね。どうせするときはお父さんにも話しなきゃダメでしょ?」
「まあ、そうね…」
「それに私もお父さんと今のままの状態を続けたいと思わないし…。謝るだけ謝って、皆がそろったのに、すぐに私だけ結婚で出て行くって言うのもなんだか違うかなぁ…て、思っちゃってさ。まあ、とにかく、私はお父さんに帰って来て欲しいんだけれどね」
「もう、怒ってないの?」
お母さんは心配そうに遊里さんの顔を覗き込む。
「怒ってるとかそうじゃないとかじゃなくて、私はすべてが正常の状態に戻したいだけよ。まあ、私の髪はもう戻らないけれどね…」
そう。彼女の髪は父親から受けたショックで常に色素の抜けた白髪が伸びるらしい。
だから、定期的に彼女は金髪に染めて、学校にもその病気に関する診断書を提出しているくらいだった。
「大学生になれば、髪の毛なんて気にしなくてもいいようになるからねぇ~。あとは社会人になったときか…」
「そう。まあ、今の話はお父さんにも少しは伝えておくわね。きっと喜ぶと思うから」
「うん、そうね」
遊里さんはボクの横で優しい表情を浮かべて、父親との和解に向けた手ごたえを少し感じていたのかもしれない。
「あ、そうそう! あともう一つ伝えておかないといけないことがあったんだ!」
遊里さんは思い出したかのように、テーブルを叩いた。
ボクと早苗さんと茜ちゃんは、目を点にして、そんな遊里さんを見た。
遊里さんは意を決したかのように、
「私、この夏休み、バイトすることにしたの!」
ボクらは全員、口をポカーンと開けたまま、理解するのに数秒かかり、
「「「え―――――――――――――!?」」」
神代家のリビングに、驚きが覆いつくした。
遊里さんがバイト!?
いったい、何のために!?
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