第155話 あの時の少女(1)
周囲に要塞のような大きなマンション群が立ち並ぶ大都会の真ん中にポツンとある公園。
そこがボクにとっての普段からの遊び場だった。
2つ下の妹は身体が病弱で、病院の入退院を繰り返していて、お母さんはそっちに付きっ切りになっているし、お父さんはそんなボク達のために一生懸命働いてくれている。
つまり、ボクは家でも一人になるから、マンションに囲まれたこの小さな公園で遊ぶことが日課となっていた。
公園にはジャングルジムにブランコ、砂場があったけど、大都会ではそんな場所に好んで遊びに来る子どもたちは限られていた。
ここでもそう。
ボクと同い年の子たちもこのマンション群にはいてるのは知っていたけれど、会話もしたこともないし、一緒に遊んだことすらない。
そもそも、外に遊びに来ることすらそんなにない。
彼らにとって、快適な空調の効いた家の中で、楽しくテレビゲームをやることが最大の遊びなのだ。
それに今のテレビゲームはオンラインも充実していて、遊ぶ仲間はインターネットの世界にごまんといる。
ウチはテレビゲームがないから、そういう繋がりを持つこともできないし、そうなると公園で日が暮れる前まで遊び、だいたい同じ時間帯に病院から一時的に帰宅するお母さんか、日が暮れてから帰宅するお父さんを一人、マンションで待つのがボクの日課となった。
時には、寂しくなることもあった。
でも、それは近隣に住んでいる子どもが母親が一緒に談笑している姿を見たときなんかだった。
一瞬はそのような気持ちになるけれど、ボクは結構そんなことに関しても冷めていて、「妹のためだもん。仕方ない」と納得してしまう。
最近はお父さんから砂場で遊ぶための道具を買ってもらったので、気分は、時には探検隊みたいになれたし、時には芸術家みたいにもなれた。
誰も来ない公園は、砂場を占拠していたところで誰からも怒られることはなく、ボクにとっては最高の遊び場だった。
ある日、ボクは砂の山から削り出して、大きな城を造っていた。
西洋風のいくつもの塔がある立派な建物だ。
「ねえねえ、それってあなたが作ったの?」
ボクは声のする上の方に顔を上げる。
そこには同い年くらいの黒髪の女の子が立っていた。
上は水色のフード付きパーカーに、下は黒のスキニーだった。
ボクは無言でコクリと頷く。
「へぇ~、すごい! 将来は芸術家にでもなるの?」
グイグイと押し気味に来る子に対して、ボクは少し
でも、その子はそんなことお構いなしにさらに話しかけていく。
「ねえねえ、このお城の横に川を作って、水を流すなんてのはどう? 前、パパとテレビを見ていた時にそんな感じのお城があったの!」
「へぇ~、そうなんだ」
「うん! だから、このお城もそんな感じにしてみない?」
「でも、砂場に水を入れると怒られないかな……?」
「そんなの気にしたって意味ないわよ! だって、この公園、ずっと誰も遊んでないじゃない! 今も私とあなただけじゃない!」
そう言われればそっか。
ボクは何だか、その子の言葉に変に安心感を覚えた。
ボクも頷くと、
「じゃあ、川、作ってみようかな」
「そうこなくっちゃ!」
黒髪の少女は、近くの蛇口からバケツに水を入れてヨタヨタと持ってきてくれた。
ボクはその間に、洋風の城の横に川を作る。
完成すると、その子はバケツの水をチョロチョロと流し始める。
川は上手く勾配を下り、お城の横に流れていった。
「すごい! すごい!!」
女の子は大興奮して、その様子を楽しんでくれていた。
しかし、楽しい時間というものはあっという間に終わる。
日が暮れ始めていたのだ。
「もう、そろそろ帰らなきゃだね」
「あ、もう、夕日の光が差し込んできてるんだね…。そろそろボクも帰らなきゃ…」
「ねえ…。明日もまたここに来たら一緒に遊べるかな?」
「うん。ボクはいつも一人でここで遊んでいるから、来てくれると嬉しいかな…」
「じゃあ、絶対に来る! 来ちゃうよ! じゃあね!」
そういうと、彼女はマンションのとある棟に向かって走って帰っていった。
ボクも家へと足を向ける。
その時、思った。
あの女の子、何て名前なんだろ…。
そう。ボクらは自己紹介すらせずに遊んでいたのだ…。
あくる日。
ボクらは昼の時間帯から一緒に遊んでいた。
遊具がそれほどあるわけではない都会の公園だから、遊具を使って遊ぶことは限られている。
それでもボクらはそれを最大限生かして遊びを生み出しながら遊んだ。
行く日も行く日もそんな楽しい日が続いていった。
あまり人と話すことも億劫になってしまうボクもいつの間にか、その子とは、いろんなことを話が出来るようになっていった。
「ボクの妹、身体が生まれつき弱いみたいで、なかなか会うことができないんだ…」
「お見舞いに行けないってこと?」
「うん。そうなんだ…」
「じゃあ、私も妹ちゃんの帰りを一緒に祈ってあげる! 早く帰ってこれますようにって!」
「え…? だって、ボクとは関係ないじゃない?」
「でも、一緒に遊んでる友達だもの! 放っておけないわ!」
その子はボクの手をぎゅっと握ると、おでこをそこにピタリと付ける。
無言で何秒間かそのままその子は祈ってくれた。
全く血も繋がっていない友だちの妹のことを祈ってくれた。
ボクはその子を珍しい変わった子だな…という印象をその時持った。
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