第145話 旅行前にイチャイチャしたい。

 ボクと遊里さんは明日から旅行ということで、荷物をまとめた。

 ボクは基本的に服類を持っていけば何とかなるのだけれど、遊里さんとなるとそうはいかない。

 軽めとはいえ、化粧もするからいくつかの化粧類を入れたポーチを自宅から取ってきたみたいだった。

 先日アパレルショップで購入したお気に入りの服も一緒に入れ、準備万端といったところ。

 ボクらには、バイクはあっても自動車はないから、旅行に行くとなるとバイクか列車という選択肢になってしまう。

 どうやら当選したペア宿泊券のホテルはボクらの住んでいる県の隣接県にある海近くのホテルらしい。

 富士山を臨むことができる温泉地としても有名で観光客もかなりの数が来る場所だという。

 ボクらは荷物のこともあるので、列車にすることを選択していたので、先日旅行会社から列車の切符も郵送されてきていた。

 遊里さんは宿泊券のどこかに「橘花財閥」という記載があるのでは? と怪しんで穴の開くほど見ていたが、そういった記載はなかったようで胸を撫でおろしていた。

 どうやら、先日の写真撮影のことを少し根に持っているのかもしれない。

 ボクはそんなことを思いながら、壁に飾ってあるポスターを眺める。

 夜のベランダでふんわりと可愛らしく微笑む彼女。

 その横には、胸が少し押しつぶされるような感じでビーチベッドで寝転ぶ笑顔なちょっぴりエッチな彼女。

 どれもがボクにとって最高の癒しになる。

 バッグのファスナーを締め、ボクの目線の先に気づいた彼女は、


「は、隼…? な、何でポスターをそんなじっと見てんの?」

「あ、ごめん…。心が癒されてた」

「うーん。ベランダの写真は癒されるかもしれないけれど、どう考えても水着のやつは興奮するだけのものじゃないの? あのポスターにが強烈に絡んでこなかっただけでも救いって感じなんだから…」

「まあ、そうだよね…。明らかに胸が強調されているように見えるもんね」

「そのお胸を好きにしている人が凄く冷静にコメントすんのね」


 言われてボクは恥ずかしくなってしまう。

 た、確かにボクは遊里さんとエッチをするときはどうしてもその胸に顔をうずめてみたりして、色々と甘えてしまう…。

 う~、遊里さんの恐るべき母性本能!


「何で無言になるのよ? 私もいっぱい甘えてるし、隼に甘えられるのは嬉しいんだからさ」


 そういって、ボクの前にその凶器の胸を突き出す。

 こ、これが意味していることは…て、一つしかないか…。

 ボクはその胸に抱き着いた。

 何とも言えない柔らかさとふんわりとした甘い香りがボクを包み込む。

 ボクは遊里さんの背中に手を回す。


「もう! 隼って最近、甘えてばっかり!」


 そうかもしれない。

 ボクも実は寂しかったのかもしれない。

 瑞希君みたいに。

 一緒にいてくれる人がいる時間を一度体験してしまうと、そこから離れるのは何だか寂しい気持ちにさせられてしまう。

 男って本当に弱い生き物なのかもしれない。

 ボクは抱かれながら、そんなことを感じた。


「甘えるのはダメかな?」


 ボクがそういうと、少し遊里さんは考えて、


「甘えっぱなしは嫌だけど、甘えてもらえるのは嬉しいかな…。何だか、私のことを大事だと思ってもらえているように感じるから」

「うん、遊里はボクにとってすっごく大事…」

「んふふ…本気で甘えてるね、これは。明日から旅行だからもっと甘えられるのに」

「そうだね。でも、旅行先と自宅だと精神的な部分で違うかな…」

「ま、それもそうね。自宅だと安心できちゃうのかも…。特に私たちは付き合い始めて、最初は自宅でしかイチャイチャできなかったもんね。その名残りかも」


 遊里さんも付き合い始めて最初のころは学校では我慢してたもんな…。

 ボクは優しく遊里さんを後ろに押し倒す。


「きゃっ!」


 遊里さんの倒れたところには大きなクッションがあって、衝撃はなかったようだ。

 少し驚かせちゃったけどね。

 ボクはそのまま彼女の唇とボクのを合わせる。


「もう! 胸の次はキス? 隼って私のこと好き過ぎぃ!」

「大丈夫、エッチなことはしないから!」

「どうだか…。野獣化した隼に私は何度も攻められてるからなぁ…」

「攻めさせようとするフェロモンの持ち主だから、ボクは抑えが利かないだけだ」

「それをエッチって言うの…。嫌いじゃないけど」


 そのままボクと遊里さんは何度かキスをした。

 最初は軽いキスだったけれど、気づいたときには舌を絡めていた。


「もう、だんだん激しくなってきてる!」

「ご、ごめん…。つい気持ちがたかぶっちゃって…」


 ボクは慌てて謝るけれど、遊里さんも頬をほんのり赤く染めているのから見れば、満更でもないらしい。

 ボクの頬に手を当てると、そのまま彼女はキスの続きをした。

 ちゅ…ちゅぱちゅぱ……くちゅくちゅ……ちゅぱ……

 絡み合った唾液が余韻のようにボクと遊里さんの間に伸びる。


「ところで、隼だったら私に文化祭のメイドカフェでどんな衣装を着せたい?」

「えらく突然だね…。今日の昼のこと?」


 遊里さんはコクリと頷くと、


「私のことをよく知ってくれている隼だから訊けることだもの」


 ボクは少し悩んだ。

 もしも、ボクが客として文化祭で訪れた場合、どんな衣装を着た遊里さんに出会いたいか。

 その時、ボクの頭にふっとこの間の朝の光景が思い浮かんだ。

 そう。ポップアップトースターにウズウズしている可愛い生き物と楓が絶賛したあの姿を。


「ボクは、猫耳メイドが見てみたいかな」

「うあ…。なかなかオタクが喜びそうなものを…」

「きっと、女の子も喜んでくれると思うなぁ…。この間のポップアップトースターでパンが焼き上がるのを待っているときの様子なんか本当に猫みたいだったもん」

「え? そうだった?」

「うん。楓が顔を赤らめて可愛い生き物と連呼していたくらいですから。女の子受けも間違いないと思うよ」

「それって喜んでいいのか悲しんでいいのか…。ま、参考意見ってことにしておくわ。だって、衣装を作ってくるのは、凛華なんですもの。もっと恐ろしいものもあり得るわよ。このポスターの水着を衣装だと言い張るかもしれないわ…。文化祭は秋だから、私は確実に風邪をひくでしょうけどね…」


 あ~、凛華さんならやりかねないかも…。

 事前にボクも少し彼女に相談させてもらおうかな…。

 とはいえ、猫耳メイドでも絶対にヤバいことになりかねないと思うんだけれど…。


「ま、何が来てもいいけど、肌の露出が少しは少ない方がありがたいかな…」


 彼女はそういって、再びボクをギュッと抱きしめて、唇を重ね合わせた。




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