第144話 クラスの出し物に戸惑う「彼女」。
学園で開かれた第2回の文化祭実行委員の会合は、初回の荒れた展開とはかけ離れた大変平和なものだった。
初回の予算の部分での大学側の大きな問題、つまり運営費の横領に関しては、学園の理事長にも話が上がり、過去の大学側の文化祭実行委員に横領の罪で告訴…というところまではいかなかったものの、事情聴取を行ったところ、当時の文化祭実行委員メンバーは横領を認め、飲食で使用した金額に関しては返還請求に従い返還を行う予定とのことだ。
そもそもこれまでの会計で何も言えない空気を作り出していた構図が悪いわけだが、それを今から修正していくには時間が足りなさすぎる。
その点に関しても、瑞希くんがなぜか副会長の楓も引き連れて理事長と話し合いを行い、構造改革を実施するために、次年度以降、小中高の生徒会と大学側で会合を行い、縦型ではなく横型の対等な意見交換のできる組織に変更していくことも提案がなされたらしい。
それはそれで面白そうなことが起ころうとしているとボクも瑞希くんから話を聞いたときに感じた。
楓は若干涙目で、また仕事が増やされちゃう、と嘆いていたが。
そもそも彼氏と一緒の時間が作れるいい口実だとどうしてポジティブにとらえられないんだろうか…。
いや、楓もああ見えて、表では愚痴をこぼしているが、二人きりでは何をしていることやら…。そりゃ、生徒会室での初体験という前科持ちなのだから…。
第2回の会合では小中高大で実施予定の模擬店や校内イベント、舞台発表などに関して、一覧になったものが配られた。
文化祭実行委員は、各々の学部(つまり、ボクならば高等部)の催し物に関して、デッドラインまでの進捗度の管理などをしていかなくてはいけないらしい。
文化祭2日前に完成していること。そして、それを文化祭実行委員が見て、問題がないかどうかの確認などをしなくてはならない。
ちなみにその時にボクは驚きの表情を見せた。
「ど、どうしたの?」
遊里さんが覗き込んでくる。
ボクは高等部の催し物一覧を指さしながら、
「ウチのクラス、『メイド・執事カフェ』だったっけ?」
「うーん、そうらしい…」
あれ、遊里さんも認識してなかった様子?
「実は、私たちが文化祭実行委員で走り回っている間に決まったらしいの」
「あ、そうなんだ…」
「入山先生もノリノリで色んなぶっ飛んだ提案に対しても、『いいぞ、もっとやれ』ってのが合言葉のように言ってるらしいんだって…。何だか怖くない?」
いや、それ普通に怖いだろ…。
そもそもこれの企画運営は誰がやるんだろう…。
「ちなみにこれって誰の提案?」
「実は、凛華らしいの…。翼くんの入れ知恵なのかもしれないけれど、色々とメイドの衣装も宝急アイランドのものを持ち込むらしくて、メイドっていうか色んなキャラクターにメイドや執事をされちゃうらしいよ」
「うあ、クラスメイトは嫌がってないの?」
「それが、宝急アイランドのクルーの衣装って、働かないと着れないじゃない? だから、それが文化祭で着れるならばやりたいって陽キャな子たちも大喜びなんだって…」
「クラスが一つにまとまってるんだけど、これっていい話なのか悪い話なのか…」
「まあ、見た感じは良い話に見えなくもないわよね…」
そこでボクはふと思い立ったことを遊里さんに訊く。
「ちなみにボクたちはどうなるの?」
「私たちもシフトには入らないといけないみたい。隼は料理上手だから、たぶん、調理の方に回されると思うけれど、私は…絶対にホールに回されると思う…。ああ、どんな衣装があてがわれるか今から考えたくもないわ…」
顔を青くしながらふるえているのはやっぱり凛華さんが企画したからなのかな…。
まあ、ボクは調理ならば安心かな…。
衣装着て、接客とか恥ずかしくてやれない…。
でも、遊里さんはどんな衣装着てくれるんだろう…。
可愛くてちょっぴりエッチなのを期待しちゃいたいなぁ…。
「はーやーとー?」
「え? うん? どうしたの?」
「どうして話を上の空で聞いてるのかな? それと鼻の下が伸びてるんだけど…。また、エッチなことでも考えてたでしょ…。まさか、隼が私の衣装を決める役になってたりしないでしょうね?」
うわ、すっごいジト目で睨まれてる。
ボクは首を激しく横に振る。
「ボクはそんなこと何も言われてないよ。だって、『メイド・執事カフェ』になることをさっき知ったくらいなのに…。衣装のことを相談されていたら、催し物を知ってることになるじゃない…」
「あ、そうか…。まあ、別に隼じゃなくても凛華のことだし、入山先生もノリノリだから不安しかないなぁ…。それに準備は勝手に進んでいったりするし…」
そう。
ボクらが文化祭実行委員をやっていることから、あまりクラスの準備を手伝うことができない。だから、準備のシフトに関してはボクらは含まれていない。
当日、いきなり「はい、これやって」になるのだ。
できれば、何を作らされるのかメニューくらいは知っておいたほうが良いかな…。
そう思いながら、初等部・中等部の催し物なども確認していく。
あれ、楓のクラス、舞台発表で演劇をするのか…。
と思って、前にいる楓を見ると、ボクが見ている用紙と同じものを見ながら、フルフルと 震えていた…。
そう思うと、何度かスマホを見て、フリック入力をして数秒後にまた泣きそうな顔をしている。
これってもしかして、楓はさらなる地獄に巻き込まれたのかな…。
会合を終えて、ボクと遊里さんは楓と瑞希くんのもとに寄る。
明日からの旅行の関係で、楓が瑞希くんの家でお世話になるのだから、そのために一言も言いたかったし…。
ボクらが目の前に行ったとき、すでに楓は瑞希くんに食い下がらんばかりの様子だった。
「わ、私、こんなことOK出してないんだけれど!」
「うん。俺も出してない…」
「で、あんたはどうすんのよ!?」
「別にボクは問題ないから、引き受けようと思うけど…?」
「どうかしたの?」
遊里さんが声を掛ける。
楓はボクらにスマホのLINEのトーク画面を見せてくる。
どうやら、クラスのグループLINEのようだ。そこには、
『舞台発表は「現代版・白雪姫(仮題)」。主役の王子さまは瑞希くんでお願い! お姫様は楓しかいないっしょ!(笑)』
と、書かれていた。
「私、大会もあるのに、生徒会もやって、主役級の演技もしないといけないとか、ぶっ倒れちゃうこと必至なんだけど!」
「でも、俺の家に泊まるんだから一緒に練習できるじゃん」
あ————。
ボクと遊里さん、そして楓までもが、口をポカンと開いて納得させられてしまった。
わざわざ主役級の二人は、夏休みずっと一緒に過ごすんだから、白雪姫もビックリなくらいの愛が育まれてしまいそう…。
「すでにグループLINEで大まかな原稿もまわってるから夏休みの間である程度いけるだろう。楓も潔くこの配役を受け入れろよ」
「脚本にエッチなのがないのが確認できないのがちょっぴりもんだいだけれど、受け入れるしかないのか…」
楓はハァ…と深いため息を一つつくと、LINEに返信を送った。
即時に既読がつき、取りまとめ役の子から大喜びをしているスタンプが送られてくる。
ボクはそれを見た後で、
「じゃあ、瑞希くん、楓のことお願いします」
「あ、いえ。同棲に関しては、俺が言い出したことですから、問題ありません。もしかしたら、たまに着替えとかの関係で実家に戻ることもあるかもしれませんが…」
「別に大丈夫だよ。たまに楓に会わないとボクも寂しくなるかもしれないしね」
「お兄ちゃん、本当に寂しくなってくれるの?」
「あの美味しそうに食べてくれる妹の姿が見れないのが寂しいね」
「それ、何か違うくない?」
楓は即時に抗議を上げる。
「まあ、手料理が食べたくなったら教えてね。準備の関係があるから、前日くらいにはね」
「うん、分かった」
「まあ、今日は荷物を取りに帰ってくるんでしょ?」
「え? いや、あの…」
「ん? どうしたの?」
「朝の間に、瑞希のところの執事さんが段ボールに詰めた服類は移動してくれたから、今日から瑞希の家に行くから」
ああ、何てデレデレしてるんでしょう…。
いつのまに凛々しかった妹がこんなにも可愛くデレることを覚えてしまったのだろう。
「やっぱ、愛する男ができると女の子って変わるのねぇ…」
この一連の流れを見ていた遊里さんがポツリと呟いた。
いや、まあ、遊里さんも十分にエロカワ女子として可愛らしさがさらにアップしたと思うけれどもね…。
さあ、家に帰ったら旅行の準備をしなきゃ。
ボクらは楓と瑞希くんと離れて、自宅に帰るために駐輪場へと目指した。
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