第138話 乙女心は難しい。
駅前のショッピングモールのアミュンザまではそれほどの距離ではないし、普段は通学で歩いているので、さすがにバイクを出す距離でもない。
ボクと遊里さんはともに歩いて、行くことにした。
夏の日差しがジリジリと肌に刺さり、HPが削られていくような気がする。
相変わらず外出するときは、ポニーテールに紅蓮の眼鏡というどこぞのアニメキャラを彷彿とさせる出で立ちだったりするのだが、本人は少しでも芋っぽく見せたくてこういう感じにしているらしい…。
芋っぽいかもしれないけれど、素材がすでに高級品を頑張って芋っぽくしてもボクからしたら、可愛らしさは変わり様がない。
そもそも芋っぽい女子が髪の毛を黄色にしたりしません…。この時点で、どうしようもなくオーラが出ていたりするのだが…。
「ねえねえ、こんな感じだったら、ポスターの私とは全然違うよね?」
心配そうにボクの方を見ながら訊いてくる遊里さん。
やはり、あのポスターが貼られているところに行くのは、まだ少々気が引けるようだ。
「ま、何となくは違うんですけれど、あくまでもそれはポスターとの違いっていうところで…。今はどちらかというとアニメキャラの方が強い感じがするので、オタクな連中の熱い視線には注意が必要かもしれませんね」
「ねえねえ、このあいだからその話ばっかりだけど、そんなに似てるの?」
疑わしいものを見るような目線でボクを見てくる彼女。
ボクはスマートフォンを取り出し、そのアニメのホームページを見せてあげる。
遊里さんはスマートフォンを覗き込み、「ひっ」と小さな悲鳴を上げつつ、口を真一文字につむぐ。
そして、スマートフォンを指さしながら、
「髪の色が異なるだけでほとんど一緒のような気がするんだけれど…」
「ええ、だから言ったじゃないですか。よく似てますよって」
「う~~~ん、何だか似てることは嬉しいんだけれど、それに伴う弊害ってのがちょっとばかし嫌かも…」
「こらこら、いきなりオタクをディスるようなこと言わないの!」
「いや、ま、オタクのことが嫌いっていうわけではないのよ。そもそも、隼もオタクの一人だってことも分かってるつもりだから…」
まあ、主にアニメとオンラインゲームですけれどね…。
て、そんなことはどうでもいい話か…。
「でも、なんか問題があるというんですか?」
「いや…あの…、あのねちっこい視線が嫌…」
あ~あ、言っちゃったよぉ…。
それ一番堪えるヤツだよぉ…。
ボクもオタクとしてはねちっこい視線を女の子に送ったことはないけれど、じっくりと見てみたいという衝動にかられることはあるけれど、さすがにそれはまた別の話だ。
そういう視点でみられるのが嫌だと思う気持ちが項垂れるような暑さが相まって、さらにゲンナリとしてしまう彼女。
「とにかく! 隼は私をそういう目で見ないでね!」
「ま、まあ、ボクは彼女として見ているからさすがにそういう視線は送らないと思うよ」
「でもぉ、隼にはいやらしい目で見るのは許してあげるぅ~」
おいおい。
それ、単に激しい夜を求めているだけでしょうが!
ボクは遊里さんの方を見ると、ちょっとばかり頬を赤らめている彼女が俯き加減で何かボソボソ言っている。
何だか、「そうでないと私が気持ちよくならないし…」とか呟いていたような気がするけれど、敢えてここでは触れないでおこう。
「ところで、今日、アミュンザで何か欲しがってたよね?」
「そうそう! 夏物が欲しいの! しかも、お出かけ用!」
「お出かけ用?」
「あ、そういえば言ってなかった! お母さんがリゾート施設のペア宿泊券を当てたらしいんだけれど、お父さんが単身赴任だから、あなたたち二人で行って来たら?って言われてもらっちゃったの!」
「そ、それは唐突だね…」
「あ、うん。ゴメン、言ってなくて…。そのために色々と服を買い足したいなぁ…と思ってね」
「まあ、ボクは普段の服にアウターを少し変えるだけで対応できるから大丈夫だよ。遊里の服を選ぶのも何だか楽しそうだし」
「私は着せ替え人形じゃないんだからね!」
「ま、遊里ならどれ着ても可愛いしなぁ…」
ボクが何の意図もなく発したこの発言に遊里さんは食いついた。
「あ~、それ、女の子には言っちゃダメな発言なんだぞぉ~」
「え? そうなの?」
「うん! それは女の子の服を一緒に選ぶ気があまりない時の意思表示みたいなものなんだよ~」
「ええっ!? そうなの? ボクは違うよ!」
「ふ~ん」
そう言われると、まんざらでもない様子の彼女。
「ま、まあ、私は隼が気に入ってくれるような服装をチョイスできればそれでいいんだけどね!」
遊里さん、口元がにやけて、喜びが溢れ出てますよ。
まあ、可愛いって彼氏に言われて喜ばない彼女はいないもんね。
でも、一応、これからは気を付けるようにしよう。
女の子の気持ちってなかなか難しいな…。
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