第137話 切り替えると変わる「彼女」

 高等部の課題は中学部のそれと比べて多い。

 もちろん、大学受験に合わせて作成されているからなんだろうけれど、これがとてつもなく多い。

 明らかに市販の問題集を1冊分…いや、分厚さからいうと2冊分をこの夏休みという期間にさせようとしているのだから、学校の先生の恐ろしさが垣間見える。

 とはいえ、ボクらのような補講を受けていない生徒でもかなりの分量があるにもかかわらず、高校2年生と言えば、部活動をしている子たちもいる。

 だからと言って、ウチの学校がそんな生易しい課題を出したりなんかしない。

 きちんと進学実績もたたき出している高校だから、その辺は他の競合する私立高校同様に課題の難易度も分量もばっちり出してくる。

 唯一、クラブ推薦とかですでに候補に挙がっている子たちくらいは若干、分量が少ないとは聞くけれど…。

 午前中は、遊里さんと引き続き課題に取り組むことにする。

 ボクも一緒に勉強するようになってから気づいたのだけれど、朝はあんなおバカは性犯罪者っぽい彼女も勉強モードのスイッチが入ると一瞬で人が変わったかのような集中力で取り組めるのが彼女のいいところだ。

 午前中の3時間ほどは勉強の鬼と化して、取り組んだ。

 その甲斐もあって、分厚いテキストが残り3分の1くらいにまで到達しようとしていた。


「おおっ!? もう、3分の1が終わったよ~」

「本当だね。でも、ここからは応用問題も絡んでくるだろうから、気を引き締めて取り組まないとね。とはいえ、遊里もかなり解けるようになってきたよね」

「まあ、同じ種類の問題を何度も繰り返しながらやれば、頭にこびりついてくるからねぇ…。問題はこれが模試や入試でパッと出されたときに反応できるかどうかってことよね」


 遊里さんは少しため息交じりで言う。

 そう。問題はそこなんだよね。

 世の中には参考書や問題集といった類のものがごまんと書店に行けば売られている。

 中には予備校や塾に専門的に卸している業者もあるくらいだ。

 ただ、こういった問題集は定期テスト対策などの限られた範囲での対応という観点では良いかもしれないが、入試という分野においては大変弱い構造となっている。

 そもそも入試は、どこが出題されるか明確にはされていないということだ。

 年々変化する作問者の癖を理解しようと思えば、その大学の入試問題をいくつも解かなければならない。しかも、大学入試の定番ともいわれる『赤本』に関して言うならば、答えが全然違うものも多い。これらは明らかに大学のバイトが解いたのか? と突っ込みたくなるほどのマズいものさえあったりする。

 では、予備校の名前が冠になっている問題集を買えばいいのかというと、これも大した量がなかったりするわりに高いだけだったりする。

 一般的な問題集をやるのが一番良いのだが、同じ単元ばかりやっていても、『パブロフの犬』のように同じ問題ばかりやると、パターンしか学べないという欠点もある。

 じゃあ、ウチの高等部が生徒に配布している書き課題はどうかというと前半は明らかにそういう構造になっているのだが、後半の応用問題になってくると、一つ一つが入試演習のような構造になっていて、バラバラに出題されている。

 正直、これを作らされている高等部の先生方には脱帽だ。

 ほかの業務も死ぬほど与えられているであろうに、この夏季のためにこれほどの問題を作成しているのだから…。

 後半の方をチラ見した遊里さんが、「うげぇ」と何とも言えない反応を示す。

 この後、訪れる入試問題演習を見てしまったようだ…。

 見ない方が幸せだったのに…。


「さてと、今日はこれで終わりにしよう!」

「え? いいの? だって、まだ3時間ほどしかしてないよ?」

「また、夕食後にもやったりするから、今はこれくらいでいいよ。折角の夏休みなんだから、今日のお昼は外で食べることにしようよ」

「人が多いだろうけれど、駅ビルに行かない? 服もちょっと見てみたいし」

「いいよ。勉強ばかりしてたらストレスが溜まっちゃうからね」


 ボクらはリビングに広げていたテキストや参考書を急いでカバンにしまい込み、ボクの部屋に持っていく。

 遊里さんは、ラフな部屋着からジーンズのパンツとデザインTシャツにササッと着替える。

 て、ボクもいるんだけれど、関係なく着替えちゃうんだね…。

 ボクが遊里さんの方を見ていると、


「あ、ごめん…。もう、自分の部屋みたいな感覚になっちゃってた…」

「いや、まあ、いいけれど…。頼むから結婚してどんどんだらしなくなるのだけは止めてね」

「あぅ! メッチャ信用されてない視線が突き刺さってるんですけれど!?」


 まあ、朝の性犯罪者っぽい行動、さっきのボクの視線を気にせずに着替える行動…。

 どう見ても、将来がちょっと不安になってしまう…。

 ボクのまだ変わらぬ視線に気づいたのか、


「あ~~~ん、まだ信じてないでしょ! 私は至って普通なんだから!」


 大きな突き出した胸を拳でドーンと叩く遊里さん。

 ドーンというより、フニョニョ~ンって感じだけどね…。

 て、エロ過ぎるわ!

 遊里さんにとっての『普通』ってどういう世界なんだろうね…。

 ボクは目の前にいる腕を組み、お胸が強調されながら、うんうんと頷く遊里さんを見つめるしかできなかった。




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