第131話 いつも通りの彼女が一番可愛らしい。
海の波が間近に迫る砂浜でイチャイチャしたボクと遊里さんは、そのあと、来た時同様に2人乗りスタイルで自宅から少し離れたところにある食品ディスカウントストアに立ち寄り、数日分の食料を購入した。
もちろん、そんなものを入れるカゴなどないスーパーカブ110だから、ボクの鞄からそこそこ頑丈なリュックを取り出し、そこに荷物を放り込む。
背負うのは、自然と遊里さんになる。
遊里さんも、「これは結構重いかも~」と言っていたが、この夏休みは二人+一人の同棲生活をするわけだから、限られた予算できちんとした夏を乗り切るための栄養を取らなければならない。
それこそ、二人で生活するということは今のように親から仕送りがあるわけではなく、最悪は自分たちの稼ぎだけで生計を立てていかなくてはならない。
そう考えると、食品ディスカウントストアで購入したものを使って、どのように一週間を乗り切るかという考えが必要になってくる。
まあ、まだ大学生というご身分になるわけで、自分の稼ぎだけでということに関してはまず無理であることをボクも分かっている。
だって、まずは家賃を自分たちで払っていないのだから…。
ボクらが住んでいるマンションは、そこそこのお値段のする中堅層が住むマンションだ。
その家賃などの費用面に関しては、すべてイギリスにいる親に支払ってもらっている。
それに生活費も自動的に口座に入金されている。
もちろん、そのお金をすべて使い切ることなく、貯めながら生活するという母親からの言いつけはきちんと守っているものの、遊里さんとの同棲生活ともなると、それを上回る心配の種が増える。
家賃、食費、光熱費、水道代、通信費、服飾代……考えるだけで気が遠くなる。
とにかく、今は最低限、食費が1人増えても、どれだけ安く抑えられるかということに焦点を当てて、生活をすることにした。
「ねえ、これって一週間分だよね?」
バイクを走らせていると、耳元に顔を近づけて、遊里さんが訊いてくる。
ボクは振り返ることなく、「うん、そう」と応えると、
「野菜とかは上手く使い切らなきゃいけないね…。夏場は腐りやすいから…」
いつの間にか彼女にも『主婦』目線がついてきていたのかもしれない。
コストという部分ではなく、健康という面において。
ボクとは心配する点が少し異なるけれど、それも大事なこと。
そんなまだ来ぬ未来の新婚生活が予想できるようなボクらのやり取りが時間を運んでいき、ボクらはいつの間にかマンションの駐輪場に到着する。
LED蛍光灯に照らされたマンション地下の駐輪場にスーパーカブ110を停め、チェーンロック、U字ロックを丁寧に掛ける。
遊里さんが背負ってくれていて、食材の入ったリュックをボクは受け取り、背負う。
彼女は別に家まで運ぶって、というがボクの何かがそうさせなかった。
マンションのエントランスを通り、10階まで上がり、自分の部屋に入る。
初夏の暑さに部屋の温度も若干上がり気味で、ムアッとした空気が肌を薙ぐ。
遊里さんは足早に部屋に入っていき、エアコンのリモコンスイッチをオンにしてくれる。
数秒経ってから、涼しい風が吹き出し口から流れ出てくる。
じっとりと身体にまとわりついていた汗がスッと引くような感じだ。
生ものなどもあるので、ボクらは手際よく買ってきたものを冷蔵庫や冷凍庫に振り分けていく。
安ければいいのであれば、何でも良いことになるかもしれないけれど、ウチの家には、水泳の国体選手候補がいるから、食事の方もきちんと管理してあげなくてはならない。
とはいえ、妹の楓に食べさせている料理は基本的に体にいいので、当然、ボクらにとっても良いものだ。
鶏肉であったり白身魚であったりと若干淡白な食材になるけれど、そこは上手く味付けを変えることによって楓は満足を得ている様子。
一週間はその食事を遊里さんも食べてもらうことになる。
その辺の話をしたら、「それって武者修行みたいに厳しいもの? 一緒に料理したものが食べられるならばそれでいい」と返された。
何度かウチの家に泊まりに来ている週末婚のような彼女は、我が家の冷蔵庫にどこに何が置かれているかなどを熟知している様子で、テキパキと要領よく食材を片付けてくれる。
あっという間にリュックは空っぽになり、ぽっかりと口を開けたままになっている。
リュックを折りたたみ片付けると、ボク達がまだ制服姿であることに気づく。
「汗もかいているから、シャワーを浴びてちょっと休もうか」
ボクがそういうと、彼女も賛成といって、ボクの部屋に向かう。
一足遅れて、部屋にいくと、すでにスカートを脱ぎ、上はカッターシャツ、下からはショーツが見えるなんともいやらしい格好の彼女がいた。
「やだぁ~、隼ったら、入るときはノックぐらいしてよ…」
「ああ…、ゴメン。でも、ボクの部屋だから問題ないかと思って…」
正直大ありだったわ…。
彼女はその格好のままで、掛けていた眼鏡を外し、束ねていた髪も解く。
金髪だけれども芋っぽい女子から、いつも通りの遊里さんに戻る。
ボクはそんな姿に見惚れてしまう。
「ちょ、ちょっと…、何でそんなに見てんの? いつも見てるじゃない?」
「いや、まあそうなんだけど、何かその格好、いつも以上に好きになっちゃうかも…」
「ふふふ、何か言い方がエッチだよ、隼…」
夏場の薄着は身体のラインをくっきりと浮き上がらせる。
特に彼女のようなスタイルの良い女の子は出るところ、引っ込むところが際立つ。
はっきり言って、目に毒。
それにカッターシャツの下からチラリと覗くショーツと健康的な白い足はさらにエロい。
全部を見せるより、部分的に隠した方がエッチに感じるのはなぜだろう…。
ボクはそんな疑問を浮かべながら、彼女に抱きついてしまう。
「もう、シャワー浴びてないんだから、私、汗臭いって」
「それも遊里の一部だから…」
そういって、ボクは彼女の首筋をチロリと舐める。
彼女は「ひぅっ!?」と言いながら、身体を震わせた。
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