第129話 彼女はやっぱり陽キャだった。
遊里さんはトイレから出て来た。
その…所謂、事後処理というやつだ…。
「もう…、隼ったら、すっごくたくさん出しちゃうから、処理が大変だったよ…」
「う…ごめん」
「まあ、もしも妊娠しちゃっても私的には全然問題ないんだけれどね~」
いや、まだ高校生のボク達にとっては十分大問題です。
ていうか、流れというかノリというか、いきなりのことで
遊里さんが言うには、今日はまだ『安全日』なんで、そんなに問題はないんだけれど、さすがにこの後、漏れたりすると気持ち悪いから…という理由らしい。
「それにしても、すっごく興奮しちゃったなぁ…。楓ちゃんと瑞希くんの初めてが学校なんて、かなり興奮しちゃったんじゃないかしら…。きっと、普段のエッチじゃ満足できないと思うなぁ~」
あんまり妹の性事情には介入したくないし、本人たち任せにしたいのだけれど、遊里さんがそんなことを言い出すとどうしても意識してしまう…。
でも、ボクは何だか罪悪感でいっぱいだ。
校内を歩いていると、部活とは縁のなさそうな制服を着崩した女子とすれ違う。
すれ違うたびに遊里さんに声を掛けてくる。
「あれ? ユーリ~、何で学校にいんの?」
「確かに~、ユーリって補習と無縁じゃないの~?」
一応進学校である聖マリオストロ学園の校則では、日焼けサロンで肌を焼いたりすることは認められていないのだけれど、軽くメイクをすることは認められている。
軽く…かどうかは分からないけれど、メイクをした女子二人が遊里さんに絡みつく。
「あ、真由美と蘭じゃない! 今日は、文化祭実行委員の会合で来てたのよ~。ご飯もここで食べたんだけど、今、外は暑すぎるからちょっと避暑させてもらってんの」
「そりゃそうよね~。今日も暑いもんねぇ~」
「熱いと言えば、今日の米倉先生マジでヤバかったぜ」
え? 米倉先生? 今日は国語の補習があったのか…。
「アタシらを見るなり、服装チェックから入ってきたんだよねぇ~」
「そうそう! 普段、そんなことしない系の先生だから吃驚しちゃったよ~」
「二人共は何か思い当たることでもあるの?」
「いや、マジでなんもね~」
「まあ、周りの男どもが飢えてんのか、アタシらの方をチラチラとエロい目で見てたのが気に食わなかったのかも知んねーけど…」
ああ、やはりそれでしたか…。
米倉先生は本当に男に飢えてらっしゃる…。
その上、そこそこ理想が高かったりするから、なかなか貧弱な男ではお持ち帰りする勇気も湧かないだろう。
チャラい男に対しては、嫌悪感を示している先生はそういうのは全くお断りというオーラさえ出している。
だから、結婚どころかお付き合いそのものというご縁からかなり遠のいているように感じる。
そこにこの陽キャなギャルが男子生徒を悶々とさせるオーラというかフェロモンを出していたら、学園のアイドルとしての威厳(てか、何それ?)を維持しなくてはならない危機感を感じ取ったのかもしれない。
「自分だってエロい恰好すればいいのにな…」
真由美さんがさらりと言う。
いや、米倉先生がそんな恰好したら、生徒どころか欲求不満の教師からもエロい目で見られるのは当然の話だ。
しかも、米倉先生はそっち系を目指しているわけでもないから、今のきっちりとしたスーツ姿を続けるだろうね。
「で、ユーリはカレシとイチャイチャってことか~」
蘭さんがボクの方に視線をやる。
ボクは気持ち的にちょっと引き下がってしまう。
だって、ガッツリ陽キャなんだもん…。
「ユーリが陰キャと付き合ってるってのは知ってたけど、まさかこんなかわいい奴とはね~」
「一度、味見させてよ~」
真由美さんと蘭さんがボクに近づいてくる。
それを制止するように間に入り、
「それはダメよ! 何で人のカレシを味見するのよ!?」
「あはは、冗談だって冗談。そんな本気になるなよ~。相当、コイツのが良いんだな~?」
「なっ!?」
がっつりと動揺する遊里さん。
「こういう陰キャな男って燃えると凄いタイプっているもんねぇ~」
「ええっ!?」
さらに動揺を隠さない遊里さん。
「まあ、さすがにあのスタイルで迫ってこられたら男なら誰でも野獣化しちまうかもな!」
「ちょ…ちょっと!?」
「そりゃ、これだぜ~」
真由美さんが遊里さんの後ろから胸をむにゅっ!を鷲摑みにする。
遊里さんは「きゃっ!」と声を挙げるが、お構いなしに揉みまくる。
幸い、夏休みということもあって、他の誰とも出会ってないが、いてたら色々と大事件だ。
遊里さんは顔を赤くしながら、バタバタと抵抗する。
「カレシくんもユーリの胸、揉んであげてるんだろぉ~?」
真由美さんがモミモミしながら、ボクに訊いてくる。
別に答える義理はないんだけれど、ボクは素直に答える。
「あ、はい…」
「いいなぁ~ユーリはさ…。成績もアップしてるし、こんなにいいカレシに巡り合えるなんて…。その強運を少しは分けてくれよ~」
「えへへ~、ヤダ」
「くっそぉ~! そんなこと言う奴はこうだぁ~~~~!」
真由美さんは遊里さんのさらに敏感なところを揉み始める。
遊里さんの口から「くふぅ…」と息が漏れる。
そこで隣で見ていた蘭さんが止めに入る。
「はい、真由美、もうその辺にしておいてあげなよ…。カレシが困ってるじゃん」
「え~、この弾力を味わうとずっと揉んでられるのになぁ~」
「いや、言ってることが変態だから…」
真由美さんの攻撃から解放された遊里さんはぜぇぜぇと息を整えている。
「ユーリはカレシのこと好き?」
蘭さんは落ち着いた表情で遊里さんに声を掛ける。
遊里さんはそう問われ、少し頬をピンク色に染めつつ、
「当ったり前じゃない…。誰にも渡したくないくらい大好きよ!」
「ふんっ! 何だかムカつくなぁ~、もう一回揉んでおこうかな」
真由美さんも実は飢えてんのかな…。
手をワキャワキャと揉む真似をしながら、遊里さんに近づく。
それを蘭さんは制して、
「いいじゃん。お似合いな二人で…。ユーリ、学年2位なんだから、たまには私らの勉強も見てくれよ? 赤点取らない程度でいいからさ」
「え…うん、分かったわ」
「ふん! 蘭はお人よし過ぎるぜ! おい、カレシくん、今度は二人きりで会おうぜ。そうすれば、アンタの『愛棒』の欲求不満を吸い取ってやるぜ」
そういって、真由美さんがペロリと舌を出す。
遊里さんはその発言にいたくお怒りのようで、
「フンッ! 隼は絶賛私に大満足中なんで、真由美にお世話になることなんてないと思うわよ!」
あ、もしかして、遊里さん、本気で怒ってます?
蘭さんはその様子を見え、フフッと笑い、
「真由美もそれくらいにしときなよ。ユーリが本気で怒ってるよ。身も心もカレシくんで満たされてんだから…」
「いいよなぁ~。アタシもそろそろ遊びじゃなくて本気の恋愛してみよっかなぁ…」
「アンタに向いてるのはどちらかというと草食系がいいかもね。アンタはどっちかというと喰う側だから」
「おい、蘭! だいぶ失礼だな!」
「ま、アンタの恋愛ってのを見守っておいてやるよ」
「でもさぁ、真由美って意外とカレシを見つけたら、モジモジして可愛くなるかもね。そう思わない? 蘭?」
「あ~、それは思う。そうなったときはちゃんと報告するわ」
「何で、私の恋愛をてめぇらに報告しなきゃなんねーんだよ!」
「「あははは!!」」
遊里さんと蘭さんは二人して、ムキになる真由美さんを笑う。
きっと、こんな冗談が言い合える仲のいい人たちなんだろうな…。
ボクはまた一つ彼女のことを知れたような気がした。
ボクの頭の中では、さっきの遊里さんの言葉に嬉しさが増していた。
――当ったり前じゃない…。誰にも渡したくないくらい大好きよ!
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