第128話 学校での初めてをしてみよう。

 夏休みが始まったばかりの学園内は部活動の練習をする子たち以外の往来はなく、授業をする教育棟に至っては静けさに包まれていた。

 そりゃそうだ。

 まだ、文化祭の準備も実行委員の予算段階の話しかしていない。

 ここで各小中高大で実施する予定の模擬店や舞台などの内容が了承されて初めて、次のステップ、つまり、準備段階に入れる。

 8月以降になれば、その辺も賑やかになり始めるのかもしれない。

 まあ、本格的に始まるのは9月の始業式以降になるだろうけれど…。

 ボク達は教育棟に入っていく。

 さすが私立ということだけあって、教室や廊下などもクーラーで涼しさを感じる。

 瑞希くんのように長時間逃げる場所としては、図書館が最高だろうけれど、生憎ボクらは今日は本を読むつもりもなかった。

 何となく廊下を歩いていると、一部の教室からは教員の声が聞こえてくる。

 早速、再試験のための補講が行われているようだ。

 ボクらも何となく避暑のつもりで教育棟に入ってきたから、当てもなく補講の声しか聞こえない廊下を歩いている。


「夏休みの学校って初めて来たけど、凄く静かね…」

「まあ、補講を行っている教室だけが開いているわけだから、生徒の数も限られているもんね…」

「ま、確かにそうかぁ~」


 今が一番、太陽が一番高いところに上がっている時間帯だ。

 気温がどんどん上がっていくし、当然、路面温度も高くなる。

 そうなれば、バイクで走るのは過酷さを極める。

もう少し気温が落ち着くまでは、どこかで休むのが得策というものだ。

どこに行くともなく歩いていると、自身のクラスの教室にやってくる。

3階の廊下の一番奥がまさにその教室。


「開いてるかしら…」


 ワクワクした表情で遊里さんがボクを見てくる。

 ボクは肩をすくめて、


「さすがに閉まってるんじゃないかな…?」


 普通施錠とかしっかりとしておくものだとボクの考えは次の瞬間に崩れ去った。

 遊里さんがドアに手を掛けると、横開きのドアがガラガラと小さなノイズを発しながら開いた。


「あ、開いちゃってた…」

「本当だね…。誰か鍵を閉め忘れたのかな…?」

「ま、でも、ちょうどいいわ…。逆に好都合♪ 暑さが引くまで教室を使わせてもらいましょう」


 ボクらは教室に入ると、鍵を閉める。遊里さんは教卓の傍にあるエアコンのリモコンを押してクーラーを起動させる。

 まもなく、吹き出し口からは涼しい風が出てきて、部屋を覆っていた蒸しっとした感じが一気に軽減した。

 そして、前扉の施錠も確認する。

 これでゆっくりと昼寝でも出来る。

 図書館の方が昼寝にはもってこいかもしれないけれど、図書館の自習室には夏休みの課題を学校でやる子が来ていることもあり、正直、ボクらのような昼寝目的という不純な動機で使うのはさすがに申し訳なく感じる。

 ボクらは窓際の席に座る。

 外には陸上部の子たちがストレッチをしたり、軽くウォーミングアップをしている姿が見える。

 と言っても、ここは3階だから下からはボクらをほぼ見ることはできない。

 格好の秘密基地ような場所になっている。

 ボクは机に突っ伏して、そのまま寝ようとする。

 部屋も涼しくなってきてちょうど良い。

 窓側を向いていた頭を反対側に向ける。

 そこには同じように腕枕をして、机に伏すような感じでボクの方を見ている遊里さんと目が合う。

 彼女は何やら艶やかな笑みを浮かべていた。


「ねえ…。エッチしよっか…」

「ええっ!?」


 ボクは急な一言に驚き、起き上がってしまう。

 遊里さんはまだ伏せたまま、こっちを見ている。


「もう、女の子に二度も言わせないの!」

「ご、ごめん……」

「だって、学校でキスもしたことないじゃない?」

「ま、まあ、そうだね…」


 確かに一学期の間はゴタゴタしていたこともあって、付き合っていることも伏せていたくらいだから、手を繋ぐどころか、キスなんて以ての外だった。

 だから、ボクの家で『初めて』となったし、地元の駅を降りてから手を繋ぐというそんなちょっと変わった付き合い始めの時期を経験した。

 いまや、夏休みという期間限定ではあるものの、同棲も認められるような仲になったことは本当に物凄いスピードで関係が進んだともとれるけれど…。

 学校内ということでいうと、まだまだ初心な状態でもあった。


「ね? キスしよ? 学校での初濃厚キス♪」


 そういうと、彼女はボクの太ももの上に座り、そのまま唇を重ねてくる。

 最初は唇同士を軽く重ねるようなキスをチュッチュッチュッと何度もする。

 たったそれだけなのに、遊里さんの目は少し蕩け出している。

 スイッチが入っちゃったみたい。

 ボクが彼女の腰に腕を回し、抱きしめる。

 それがひとつの合図になった。


「「……ちゅぱ…ちゅっ…あむん…れろ…ちゅぱちゅぱ……」」


 早速、舌を絡ませ合うボクら。

 自分たちが授業を受けるクラスに他のクラスメイトはいない。

 でも、学校で激しいキスしているという罪悪感が興奮という形でボク達のキスの後押しをしてくる。

 レロレロと舌を絡ませ、唾液がたっぷりと含んだ口内を襲うようなキスをする。


「もう、私もヤバいかも…」


 顔がピンクに色づき、物欲しそうな瞳でボクを見てくる。

 そして、ボクらはでの『初めて』をした。




 遊里さんは行き果てたようにボーッとした瞳でボクを見ている。


「もう、エッチ過ぎるぞ…隼は……」

「それはお互い様…じゃないかな…? 顔を真っ赤にして興奮してたのは遊里の方だし…」

「そ、それは……その……気持ちよかったんだもの……」


 上目遣いでそう言われると、ボクは突如恥ずかしさでいっぱいになる。

 それはズルい…。ズル過ぎる!

 ボクはそう言いたかった。

 でも、言えなかった…。

 事実、ボクも気持ちよかったし…。

 まさか、夏休みの誰もいない教室で、ボクらの学校での『初めて』はこうして実現するとは思ってもいなかった。

 ボクはそっと彼女を抱き寄せ、チュッとキスをした。

 陽キャでエロカワ…でもちょっと初心なところもある、そんな彼女がボクは大好きです。





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