第127話 瑞希くんは鋭い。

 今日は午前中だけの会合ということだった。

 まあ、顔合わせという意味合いが強かったのと、その流れでなし崩し的に決算書通りに今年も予算を立てようとする大学生側の強引な承認を取ろうとし、まあ、瑞希くんの策で失敗に終わったわけだけど…。

 とはいえ、これまでの予算にあんな細工をされていたということをよく突き止めたものだと思う。

 大学生側もきちんと負担していると見せかけて、その費用もデタラメであったし、それを初回という発言しにくい場でササッとこれまで通していたんだろう。

 さゆりさんは用事があるとかであの後分かれたが、ボクたち4人(ボク、遊里さん、楓、瑞希くん)は夏休み唯一開いているランチルームに来ている。

 昼食を食べてから、各々別の活動をするために。

 夏休みと言えども、部活動も盛んなウチの学園では、日替わり定食は平日はきちんと取り扱っている。

 もちろん、ボリュームと価格から言うと、日替わり定食一択だ。

 4人とも同じメニューを頼む。

 今日は豆腐ハンバーグとエビフライ2尾、ポテトサラダ、コンソメスープ、ご飯というセットで500円だ。

 これはもうマジでお買い得としか言いようがない。

 部活動をしている子たちが来ていることから、そこそこの賑わいを得ているランチルームの空いている席にボクら4人は向かい合わせに座った。

 ボクの横には遊里さん、楓の横には瑞希くんといういつぞやの夕食のときと同じ席順だ。


「「いただきま~す」」


 ボクらは各々の日替わり定食を食べ始める。

 もちろん、話題はさっきの会合のことだ。


「さっきの大学生に対してのパンチは凄かったわね」


 遊里さんが思い出すように言うと、

 楓が、遊里さんをたしなめるように、


「いや、瑞希殴ってませんから…」

「あ~、そういう意味じゃないのよ、もちろん。て、いうか、そもそも予算にあんなことがなされていたなんて…。よく見つけたわね…。瑞希くん」


 瑞希くんは少し恥ずかしそうに、目線をあまり合わせないようにしながら、

「これまでよりも予算カットが行われるって話は事前に執行部には入っていましたから、どこからか支出は減らしていかないと思っていましたので…」


 あ、なるほど。

 何で瑞希くんが恥ずかしがっているのか分かった。

 会合の後、暑苦しいという理由で、遊里さんは制服のシャツの第一・第二ボタンまで外していた。

 確かに遊里さん級のお胸になると、そこまでボタン外されると谷間が見え隠れするもんね…。それに薄着の関係でうっすらとブラジャーも見えてるし…。

 本当に妹が言うサキュバスだよなぁ…。

 誰もを虜にしてしまうっていう点では…。

 閑話休題。

 遊里さんはそんなこと気にもせず、彼に覗き込むように言う。

 当然、ポヨヨンと自我を破壊する人類最強兵器おっぱいの谷間が見えてしまう。

 瑞希くんはさらに顔を赤らめてしまう。


「それで芸能人関係を突くって、すごいねぇ…。何で気づいたの?」

「いや、気づいたというよりは何となくピンと来たんですよ。そもそも芸能人を呼ぶにはそれなりのギャラが必要です。しかも、ウチの学園には今をときめくような方々がいらっしゃいますから、普通で考えれば数百万から数千万レベルの金額が要求されてもおかしくありません。しかし、大学側は50万円しか支払っていない。それに小中高で警備費を負担している。確かに普通に見た感じでは、何も問題ないように見えるんですけれどね。ウチの学園の文化祭には地域住民の方々への感謝の気持ちもありますから、多くの企業がお金を出してくれています。その中で割安価格とはいえ、学園側に合計して100万円規模の出費をさせるのは本当なんだろうかと思って、社長さんに電話して伺ってみたんです」


 うーん、それは凄い感覚だと思うよ。

 目のやり場に困っているのに気づいた楓が、鼻息を荒くしながら遊里さんを睨みつける。


「遊里さん…食事中なんで、そのでっかい卑猥な肉まんをもう少し見えないようにしてもらえませんかね?」

「え? あ~、楓ちゃんに無くて、私にあるものね?」

「私はまだ中学生ですし、水泳をやっている身としては無駄に脂肪の塊があると水の抵抗も増えるので困ります。程よいサイズが良いんです」

「まあ、そんなこと言っても~、瑞希くんもあんなに顔を真っ赤にしてるから~、まんざらでもない感じ?」

「いいえ! さすがに破廉恥ですからわきまえてください」

「うーん、しょうがないね」


 何がしょうがないのか分からないが、さすがに昼間から中学生を誘惑させてしまっては、相方の楓も処理に困るだろう…。

 遊里さんは第二ボタンは締める。第一ボタンはさすがに開けておくのね…。

 て、また話が逸れてるよ!


「でも、事実を知って芸能プロもさすがに怒ってなかったの?」


 ボクが話を戻すために聞くと、彼は横に首を振り、


「そんなことなかったですよ…。まあ、大学生のやりそうなことなんで、これからは芸能プロ側も監査部に一枚絡んでもらうことにしたようですけれど。そもそも自分の所の芸能人を出すのはさらなる知名度アップにつながりますからね。いい営業をさせてもらっていると思えばいいんですよ。この業界では…」

「そうなんだ…。まあ、今年の文化祭はすごい盛り上がりになりそうだね」

「そうよね、お兄ちゃん。まさか、瑞希が中等部で話していた裏の手ってのがこんな大規模な策だとは思わなかったわ…」

「みんなに言っちゃったら、きっとどこからか漏れる。だから、副会長にも内緒。これ、鉄則だから」

「ふーん、まあそれは仕方ないことよね…。何だか私くらい信用してくれても良かったと思うのに…」


 楓は少し不満そうに言う。

 瑞希くんは楓の頭をなでなでして、


「信用しているよ。だから、最終的には書類をすべて楓に託したんだもの。あれを見れば、俺の考えたことの全容が分かるしね」

「まあ、そうなんだろうけれど、まさかそんな大事なものも入れてあるとは思わなかったわ…」

「あ、全然見なかったんだ…」

「うん。まあ、敢えてね」

「そうだったんだ…」


 言いながら、瑞希くんは楓の頭をなでなでする。


「あ~、楓先輩~~~!」

「カレシさんに頭なでなでされてお顔がデレデレですよ~」


 この声はいつぞや聞いたことのある水泳部の後輩たち…。

 午前の部活を終えて食事を取っていたのだろう、ウィンドブレーカーを着た水泳部女子部員が食器を返却口に持っていこうとしていた。


「せんぱ~~~~い。もう、ラブラブですねぇ~」

「お昼はお二人で水泳部の練習にいらっしゃいますか~?」

「部員達一同、会長様の視察をお待ちしてますので~」


 単に瑞希くんのイケメンを見ながらの幸せな部活動をしたい後輩たちなだけじゃないか…。

 楓は鋭い目つきをして、後輩たちの方を見ると、


「瑞希は来ません。そして、昼からは私がみっちりとあなたたちを鍛え直してあげます。いつまでも3位、4位では意味がないからね! 性根から鍛え直しますから、待ってなさい!」


 ひぃ…。

 さすがに怖すぎるだろ…、この人。

 後輩たちも顔を真っ青にして、きゃあきゃあ喚きながら去っていった。


「てことでゴメンね、瑞希。昼からは別行動」

「別にいいよ。クーラーの効いた図書館で本でも読んどくから、終わったら連絡してくれればいい」

「じゃあ、お兄ちゃんたちも度を越さない程度にね! 私、部活に行くから先に失礼するわね」


 そういうと、食べ終えた食器をもって、去っていった。

 度を越さない程度か…。

 て、越したところを見つかったら終わりだから越すわけないでしょ…。





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