第109話 私は彼を甘やかしたい。
「えーっ!? 今、何て言ったの!?」
私は課題をほとんど終わらせる間際になって、瑞希から発された言葉に唖然とする。
瑞希はいつも通りの無表情で、私にスマホを見せてくる。
「今日は、帰ってくんなって姉貴が言ってる…」
「じ、じゃあ、どこに泊まるのよ!?」
「うーん。ここでよくな~い?」
「いや、どこのVtuberのモノマネよ…。しかも、似てないし…。ってそうじゃなくって、だって、ウチの家だって、客間なんてないのよ!? さすがに両親の部屋は開いているけれど、色々と仕事のものでいっぱいだから、入ったらダメだし…」
「じゃあ、お前の部屋を借りるよ」
「え…、何をサラッと当たり前のように言っちゃうかなぁ…。この人は…」
私が頭を抱えていると、そっと私の傍に座る瑞希。
私が瑞希の方を向くと、彼はふふっと微笑みながら、
「そんな難しことじゃないじゃん。いつも、ウチの家で寝てるのと同じようにすれば問題ないって。俺たち、恋人同士なんだし」
いつもと同じように――――。
私は頬をちょっぴり赤らめる。
私はその言葉に
確かに私は何度か瑞希の家で寝たことがある。
その時はダブルサイズのベッドだったので、彼と一緒にお布団に入った。
もちろん、その後、何もないまま終わるはずもなく、何度か私は高揚した感覚に襲われたのだけれど…。
でも、私のベッドはシングルだ。
二人で一緒とかマジで抱きしめ合って寝るしかない…。
そういえば、遊里先輩も週末に通い妻みたくお兄ちゃんの部屋で一緒に寝てるけど、どうやって寝てるんだろう…。
でも、さすがに訊けるわけがない。
普通に考えて恥ずかしすぎるわ。
「で、でも、下着とかどうすんのよ。私の家にはさすがに服はないわよ…」
「ああ、それなら大丈夫。その可能性も踏まえて、ちゃんと持ち物として持ってきてあるから…。あ、バスタオルだけ貸してくれるとありがたいかな」
ほほう…。これまた用意周到な…。
もう、完全に泊まる気あったんじゃないの?
「まあ、私もこれまで何度か瑞希の家でお泊りになっているんだから、たまにはいっか…」
「わぁ~、ありがとう~。久々に一緒に寝れるし、楓の作る料理も食べてみたかったんだ~」
普段は絶対にしないであろうニコニコ顔で衝撃的な一言を私にぶつけてくる。
今、何て言ったんだろう…。
「え?」
私はちょっと惚けるような感じで返事をする。
瑞希は私の肩に手を置き、
「作ってるんでしょ? 晩御飯…」
「ん~っと、お兄ちゃんの方が帰宅が早いから、普段はお兄ちゃんが作ることが多いかな…」
「へぇ~、そうなんだ。まあ、あのお兄さんがいるんだったら、食事に関しては、楓もあんまり心配してないんだね」
「う、うん…!」
私は背中に変な汗をかいた状態で、笑顔で頷く。
「あ、でも、お泊りするんだったら、食事も一人分増やしてもらわないと…」
私は自分のスマホを手に取り、お兄ちゃんにLINEを送る。
既読が付き、程なくしてお兄ちゃんから返信が来る。
『今日、遊里も泊まるみたいだから、まとめて4人分必要ってことだね。何か食べたいものある?』
私はう~んと考えて、「すき焼き」と返信してみた。
ウチの家ではあんまりすき焼きはしないんだけれど、今日は4人での食事となるわけだから、すき焼きでも良いのだろうか…。そんな軽い気持ちからだった。
お兄ちゃんからはまた数秒後に、
『OK!』
というスタンプが送られてきた。最近、流行りのアニメ作品のキャラクターものだった。
お兄ちゃんらしさが溢れている。
「今日の晩御飯は用意できるってさ」
「あ、そうなんだ。何だかお兄さんに悪いなぁ…。あとで何かデザートでも買ってこようかな…。コンビニスイーツだけれど…」
「そうれはいいかも。私も一緒に行くわ」
「それは助かるな。この辺、コンビニ激戦区だろ? どこの店のスイーツが美味しいのかあんまり分からないから…」
まあ、そりゃ、コンビニスイーツを食べてまくってる橘花ファミリーってのは見てみたくないな…。いや、想像もできない。
そして、再び、問題集に取り組み始めたころ、再びスマホが震えた。
見てみると、遊里先輩からだった。
『お互い熱い夜にしましょうね♡』
ブ―――ッ!!
私は噴き出すとともに、ちょっぴり
遊里先輩、どうしてあなたの頭の中はそんなにエッチなの!?
私はすぐ横にいる今日やるべき課題を終わらせた瑞希に目をやる。
突然、目が合い、瑞希も不審がる。
「ど、どうしたんだよ…」
「い、いや…。そ、その一緒に寝るってことは…………何でもない!」
私は、急いで残っている問題を片付ける。
残っているのは理科の計算問題だったので、ポイントを押さえつつ、サクサクと解いていく。
ようやく終了して、ふーっと一息つく。
すると、横にいた瑞希が「お疲れ様」と私に声を掛けてくれた。
「苦手な理系ばっかで正直疲れたぁ~」
と、隣りにいた瑞希の肩に倒れ込む。
瑞希は嫌がらず、そのままにしてくれた。
(コイツもこういう優しいところがあるんだけれどなぁ…。やっぱりお姉さんとはぶつかっちゃうんだろうなぁ…)
そんなことを思っていたら、今度は瑞希の方からスースーと安らかな寝息が聞こえてくる。
チラリと見上げると、一気に宿題をした疲れが出たのか、私の肩を借りながら寝ていた。
「全く、急に静かになったかと思えば、彼女を放ったらかしにして寝るかぁ~? もうっ!」
でも、その寝顔はいつもの無表情でブスッとした感じの瑞希ではなく、すごく純粋な優しさが溢れる顔をしていた。
(あ、何だかこの顔、すごく可愛いかも…)
私がさらに覗き込もうとした瞬間、バランスが崩れて、瑞希が私に倒れ込んできた。
「きゃっ……」
私は床に仰向けに倒され、その上に瑞希が乗っかるように倒れている。
しかも、運悪く瑞希の顔が、私の胸の間にある…。
本人は気持ちよさそうに枕にしてくれているけれど、それは枕じゃな―――い!
でも、今はいっか…。
たまにはこういう優しさも必要だもんね…。
私は優しく瑞希の頭を撫でてあげる。
「早速始めちゃってるの? 楓ちゃんはいつも手が早いなぁ…」
「そんなことないですよ…。遊里先輩ほどでは……。て、何で見てるんですか!?」
私は起き上がれずに、仰向けのまま抗議する。
とはいえ、瑞希が寝ているから大声を出せずに殺意のある目線だけを送り続ける。
「ごめんごめん、さっき、トイレに行ったときに何だか大きな音がしたから大丈夫かなぁって心配して覗いたら、甘々なイチャラブタイムだったから、ちょっと声掛けてみただけ…」
「こ、声、掛けなくていいですよ…。私たちにもそういう時間はあります。先輩とお兄ちゃんがやってるのと同じように…」
「そうね。じゃあ、また後でね。ちょっと隼と夕食の買い出しに行ってくるわ。マムシドリンクとか要る?」
「要・り・ま・せ・ん!」
「あら、そう…。分かったわ。じゃあ、行ってくるわね。二人でゆっくり甘えていたらいいと思うわ」
そういうと、遊里先輩は静かにドアを閉めて、去っていった。
そうよ。
私と瑞希にも、お兄ちゃんや遊里先輩のような、早乙女先輩や凛華先輩のような甘い恋をしたっていいのよ!
見せつけちゃっても良いのよ!
だって、恋人同士なんだもの!
私はそう心で強く思うと、同時にそっと彼を抱きしめて、瑞希の体温を感じながら、私も軽く眠りについたのであった。
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