第98話 朝から元気な彼女。
ボクは外の光が寝室にまで飛び込んでくるのに気づき、目を覚ます。
LEDの光とは異なる、強さのある優しい光だった。
ボクは、スマホを手に取る。
7時18分―――。
今日も学校は休みだから、ゆっくりはできるけれど、ホテルのチェックアウトの時間もあるし、少しお腹も減って来ていたので、モーニングも食べたいと感じた。
目の前にいるボクのお姫様は優しい微笑みを浮かべたままスヤスヤと寝息を立てている。
間近で見てもすごく可愛い。
透き通る肌。
整った顔立ち。
可愛らしい微笑み。
そして、ほのかにピンク色をした唇―――。
ボクは思わず、その唇にキスをしたくなる…。
けれど、今は止めておこう。
折角、遊里さんが気持ちよさそうに寝ているのだから、起こしてしまうのは可哀想だ。
モーニングは9時までのようなので、最悪8時には起こしてあげればいいと思う。
ボクはベッドから這い出て、静かに伸びをする。
ここがRPGの宿屋なら、間違いなく、「昨夜は楽しめましたね?」なんて言われてしまいそうだ…。
そう思うと、ふっと笑ってしまう。
ボクはそのまま明るい陽光が差し込んでいるリビングを通り過ぎて、ベランダに向かう。
外に出ると、太陽がジリジリと肌を焼くような感じに襲われる。
「今日も凄く暑くなりそう…」
見下ろすと、プールには何人かVIPの人が朝から優雅に泳いでいる。
プレオープンだからこそできることだな…。
眼下に広がるアミューズメントゾーンのエントランスには8時のオープンに合わせて何人かの子ども連れの家族が来ている。
誰も彼もが笑顔で、楽しい時間を家族で育んでいる。
「いいなぁ…。家族って…」
ボクは思わず口に出てしまった。
ウチの家は、両親ともに海外で貿易関係の仕事をしているから、どうしても会う機会は少ない。
とはいえ、子どもの頃は遊園地に来たり、じいやのお店で一緒にご飯を食べたりした。
そういう楽しい思い出は子どもの頃に育まれる。
ボクらはまだ高校生だから無理だけれど、遊里さんは結婚したら子どもが欲しいと常に言ってくる。
産むのは大変だろうし、育てていくのもきっと大変だと思う。
でも、その苦労をしてでも、我が子を手にしたときの喜びは格別なもの、とは遊里さんの言葉だ。
「うわ~~~~~~~~~ん」
突然、この幸せな朝の時間には似つかわしくない泣き声が聞こえてくる。
リビングに戻ると、目に涙を浮かべた遊里さんがいる。
「ど、どうしたの?」
「うぐっ…目を覚ましたら、隼がいないんだもん……。一人にされちゃったと思って、焦っちゃったよ…。もう! どこに行ってったのよ!」
「ご、ごめん、ちょっとベランダで朝の陽ざしを浴びてたの」
「どうして起こしてくれなかったのよ…」
「あまりにも気持ちよさそうに寝ていたからね…」
「うーん…まあ、そうだったんだけど…。でも、良かった…。ホッとしちゃったよ」
彼女はボクに近づいてきて、チュッと唇を重ねてきた。
そして、そのまま腕を背中に回してくる。
ボクの胸のあたりに遊里さんのおっぱいをくにゅん! と押し付けられる。
ヤバイ……。
ボクのものが再び情熱の炎を呼び戻そうとしてしまう。
「少しの間、こうしていてもいい?」
「う、うん…いいよ」
「隼を抱くとすごく気持ちが安定するんだよ…」
ボクは炎が燃え盛りそうですけどね!?
マズい! 炎の源である活力がすべて注ぎ込まれてきている!
遊里さんの甘い香りがふんわりとボクの鼻孔をくすぐる。
ボクの好きな匂い…。これ、もう、間違いなくボクにとってのフェロモンなんだよ…。
「ねえ、もう一度キスしていい?」
「いいよ」
「ありがとう…」
そういうと、遊里さんはボクの唇を舌で押しのけるように、絡めてくる。
朝から激しいキスをしてくる。
「…んんっ…ちゅ、ちゅ、ちゅぱ……」
彼女による激しいキスの攻撃は2分ほど続いた。
ボクも段々頭がボーッとしてきて、彼女の舌に絡みついていた。
「やっぱり、隼とキスすると、すっごく気持ちよくなるなぁ…」
トロンと蕩けた目線でボクを見つめながら彼女は言う。
ボクもすでに情熱で燃え盛っていた。
「朝からなかなか元気なことね…。これは、もう一戦交えちゃう感じかしらね♡」
「あはは…。一戦では終われそうにないから、早く着替えてモーニングを食べに行くことにするよ」
「あ、そうだった! ここのホテルのモーニングってすっごく美味しいんだった! 性欲も大事だけど、食欲も大事だわ!」
「え? 優先順位は性欲の方が上なの…」
「いや、そういうわけでは…。どっちも大事。私にとっては…」
遊里さんはニカッとはにかむように笑うと、そのまま部屋に戻って服に着替える。
ありがたいことに宿泊客用に服を一着ずつレンタルしてくれるサービスもあるようだ。もちろん、下着など衛生品については、購入することになっている。
これなら、予想外の連泊でも安心して泊まることが出来る。
ボクらはいそいそと着替えると、朝食を頂きにレストランへと向かったのであった。
モーニングは文句なしに美味しかったし、バイキング形式なので朝から少量ずつ色々な種類を味わうことができた。
少量ずつ用意されていることもあり、廃棄ロスを少なくできるようにしてあるみたいで、経営的にもその方が良いようだ。
これは家でも学べることだな…。
ウチも妹の楓と二人で生活しているから、少量ずつ作ることになるのでこの考え方は素晴らしいと感動してしまう。
て、本来そっちの方で見ちゃダメなんだけどね…。
やっぱ美味しいかどうかってところで。
遊里さんはすでにデザートのパンケーキと手作り旬のフルーツを使ったジェラートのセットを堪能中だ。
今日はゆっくりと遊園地サイドを散策して、疲れの出ない程度で帰る予定をしている。
さすがに昨日は感動の連続だったから、今日は気持ち的にはゆっくりと散策デートをすることになった。
それにしても、遊里さんって凄く食べるんだけど、何であのスタイルが維持できるんだろう…。
ウチの妹みたいに、全国大会レベルで戦うスイマーほど運動しているとは思えないんだけど…。
「ん? どうかした?」
ジェラートを美味しそうにパクつきながら、ボクの視線に反応する遊里さん。
ボクはにこっと微笑んで、
「ううん。何でもないよ。すごく嬉しそうに食べるからこっちも幸せになってただけだよ」
「う…。食べすぎかな?」
「大丈夫じゃないかな。これからたくさん散策して回るんでしょ? それくらいのカロリー消費しちゃえるでしょ?」
「まあ、そうね。もしも、消費しきれなかったら、夜に消費すればいいし!」
いや、ちょっと待て。
さすがに昨日の回数を上回るようなことを連日でしたら、ボクが壊れる。
それだけはご勘弁いただきたい…。
「大丈夫だって♪ お手柔らかにするからさ♡」
そんな彼女の笑顔はとびきり可愛く、また気持ちを持っていかれそうになってしまった。
本当に小悪魔なんだからさ。
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