第99話 清々しくないいつもの朝。

 あれ? 今日って何曜日だっけ…。

 ボクは眠気眼をこすりながら、充電してあるスマホを取ろうとする。


「お兄ちゃ~~~ん、今日は火曜日だよ~~~。学校に行く日だよ~~~」


 ドアの向こうから妹の声がする。

 そっか、今日は火曜日か…。

 土・日・月と三日間、テスト明けということもあって、怒涛のように遊んだから、すっかり、曜日感覚を失っていた。

 そうだ。

 今日は、成績の発表日だ―――。

 スマホの画面を見ると、すでに6時を過ぎている。

 ああ、ちょうどいい時間帯じゃないか…。

 夏とはいえ、麻の涼しげな掛布団がボクを離してくれない。

 しかし、そんな誘惑から逃げるようにボクは這い出ようとするけど、体が動かない。

 

「あれ?」


 ボクは一瞬理解できずに、頭の中に「?」がたくさん浮かび上がる。

 そこに楓がノックして入ってくる。


「お兄ちゃん、そろそろ起きる時間だよ…、て何してるの?」

「いや、その…布団から出れないんだけど…」

「もう、お化けの出る時間じゃないわよ」

「あはは…。それは分かってるよ!」

「もう、お兄ちゃんってば!」


 と言って、楓が麻の掛布団を勢いよく引っぺがすと、犯人が露呈する!


「「遊里(先輩)!?」」


 そこにはボクの腰に腕を回し、完全にロックした状態で眠る彼女の姿が…。

 いつの間に!? てか、今日ってウチの部屋にお泊りするなんて言ってたっけ!?


 ボクは、もぞもぞと動くと遊里さんは「ふにゃん…」と寝言を言いながら、ボクの下半身に顔を擦り付けてくる。

 ぎゃあぁぁぁぁぁぁ…。やめてくれぇぇぇぇぇぇ…。


「お兄ちゃんと遊里先輩って、そんなに汚れた関係だったんだ…」


 ああ、妹よ。そんな冷たい視線を朝から兄に浴びせるのはお止め。

 お兄ちゃんも正直、これには全然記憶がないんだから…。


「だって、遊里先輩、朝から爽やかな顔して、お兄ちゃんの…あそこに可愛らしい顔を擦り付けてるよ…。これが卑猥じゃなかったら、何ていう言葉で表現すればいいのか、中等部首席の私に教えてもらえるかな…」

「……こ、これは…事故……」

「事故で彼女の顔をあそこに擦り付けさせるゲスがいるんですね…」

「だから、それは間違いだって…。ボクは本当に遊里がいつの間にここにいたのか存じ上げません」

「あ、そう…。本当にお兄ちゃんって彼女できてから変わったよね…」

「え…そう?」

「うん。ゲスな人間に変わっていった…。そろそろ警察に相談できるレベル…」

「落ち着け…。楓と瑞希くんの関係も十分に中学生としては問題があるぞ…」


 瑞希くんの名前を出され、少しひるむ楓。


「……と、とにかく、早く起こしちゃいなさいよ…」

「そ、そうだね…。遊里、遊里って…」

「え? むにゃ…もう朝ごはんできたの…? あ~ん、パクッ!」

「え………」


 遊里さんは寝ぼけたまま、近くにあった膨らみをパクついた…。

 あ…温かくて気持ちがいい…、じゃなくて!

 一瞬、ボクの顔が若干の快感で緩んでしまうが、ボクは自制心を必死に取り戻す。


「お、お兄ちゃん!? 朝から何てもん見せんのよ! もう、バカぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 楓は近くにあったボクの枕を持ち上げると、それで思いっきりボクの顔面を殴りつける!

 い、痛い……。

 下は気持ちよくて、上が痛すぎます…。

 色んな意味で記憶が飛んでしまう……。

 う…………。



 その後、さらにひと悶着があったけれど、何とか通常の出発時間には間に合い、ボクと遊里さん、そして妹の楓はいつもの通学路を一緒に歩いている。

 ボクを挟むように、両サイドに彼女たちがいる。

 遊里さんは抜け目なく、ボクと手を繋いでいる。もちろん、恋人繋ぎだ。


「あはは…本当にごめんね。まさか、自分でも記憶がないなんてね…」


 照れ隠しのように遊里さんは笑いながら、自分の犯した過ちを謝罪する。

 楓は「あんなもの」を朝から見せられたのだから、怒りを通り越してあきれた表情をしている。


「お二人は学園の中でも、優等生として後輩たちからの信頼も厚いんですから、さすがに限度をわきまえてくださいよ!」

「まあ、家でのことだから…。さすがに学校ではしないよ…」

「そうそう…。どこぞの生徒会室でエッチとかと違って、絶対ないから、ね?」


 一瞬で楓の顔が真っ赤になって、何も言えなくなってしまう。

 ここでムキになってしまえば、周囲の通勤・通学の人たちの耳にも入ってしまう。


「あ、あれは…そ、その…タイミングというか…瑞希が……」


 周囲を気にして、ものすごく小声になってしまう楓。

 まあ、所謂ブーメランが刺さったような感じだ。

 いや、さすがにタイミングが合ってても学校では、よろしくないだろ…。

 しかも、ボクらを優等生というならば、中等部のナンバー1、2のツートップがそのような状態というのはさすがに…。

 とはいえ、あれ以来は、学校ではなく、瑞希くんの家で愛を育んでいるみたいだけど…。


「とにかく、人の恋路にあれこれいうとブーメランが刺さるから、楓も止めたほうがいいよ…。それと、遊里さんもまだボクの家での同棲は認められてないんじゃないの?」

「え? お母さんからは早く孫の顔が見たいって言われてるよ」


 早苗さん!? 本気で言ってるの!?

 冗談でも、遊里さんが信じちゃってますよ!?

 まあ、確かにあの人なら言いかねないな…。


「遊里先輩のお母さん、完全に認めてるじゃない…。でも、同居人の私としては、いつもニャンニャンされたら困るので、認めません!」

「ううっ! 楓ちゃん、ひどいよ!」

「いや、酷いとかじゃなくて、精神衛生上よろしくないんですよ…。その先輩の喘ぎ声とか聞こえてくるのは…」

「ええっ!? 私ってそんなに声出てる!?」

「てか、自覚ないんですか!?」

「うん……」


 楓は額に手を当てて、絶句する。

 あ、遊里さんって自覚なかったんだ…。すごい声出すってのに。

 遊里さんはボクと視線を合わせ、耳元で囁く。


「私ってそんなにすごい声出しちゃうの?」

「……はい……」


 遊里さんは見る見る頬を赤らめ、耳もピンク色に染まってしまう。


「何で、教えてくれなかったのよ…」

「いや、あんなに気持ちよさそうな声出すから…。こっちも熱くなってしまい…」

「はいはい…。朝からラブラブはいいけど、そろそろ駅に着くわよ…。電車の中ではそんな話はしないでよね…」

「「はい…」」


 そうだよ…。今日は放課後に成績の貼り出しがあるんだった。

 むしろ、気を引き締めないとね。




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作品をお読みいただきありがとうございます!

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