第95話 相思相愛は永久契約。
ディナーは前菜(エビとサーモンのマリネ、コーンスープ)からメインディッシュ(肉も魚もあるんだ!?)、リゾットまですべてにおいて美味しかった。
スタッフの方に訊いたところ、どの料理も橘花さんの監修が入っているそうで、橘花さんの能力の高さに驚かされる。
料理とかお菓子とか作るのも上手いのかなぁ…。
気の早い話だけれど、翼のバレンタインチョコは手作りになるのかもしれない。
おっと、料理と言えば、こちらにも彼氏が出来てから料理に目覚めた女の子がいたな…。
「う~ん。シェフの方々の仕事が凄いのは分かっているんだけれど、それに対して口出しが出来ちゃう凜華って最強ね…。これで自分でも作れちゃうってことになれば、女子力最強じゃない…。うう…。負けちゃうよ…」
「あはは。何を気にしてるんだよ。橘花さんは翼に対して料理をするんだろう? 遊里はボクにいっぱい美味しいものを遊里と一緒に食べることができれば、それで幸せだよ。それにボクは遊里のお弁当しかまだ食べてないけど、あのお弁当のレパートリーとか味付けとかはボク好みだしね」
「うう。さらっと私が恥ずかしくなっちゃうことをまた言う…」
遊里さんは頬をぷぅと膨らませてボクに小声で抗議する。
そんな彼女を見るのも可愛い。
ボクはデザートの「アイスクリームとフルーツ添え」を頂きながら、遊里さんの反応を楽しむ。
彼女の方はストロベリー味のアイス。ボクのはシンプルにバニラのアイスだ。
「ねえ、今の撮られてると思う?」
「たぶん、ファインダーはボクらを狙っていると思いますよ」
「じゃあ、敢えて、シャッターチャンスをあげちゃおうかしら…。ホラ、隼、ストロベリーのアイス食べてみない?」
ボクは遊里さんの意図を察して、自然なままそれに応じる。
ストロベリーのアイスクリームはスプーンの載せられたままボクのあーんと開けた口にダイレクトに届けられる。
苺の甘酸っぱさとそして苺果汁ではなく苺そのものを凍らせて粉砕させたのか、口の中で粒々すら感じられる。
これまで食べてきたストロベリーのアイスって何だったんだろう?と思わされる美味しさだ。
「これ、すごいですね」
正直な感想だった。
それくらい美味しい。舌の上で蕩けていきつつ、イチゴの果肉を感じるアイスクリームなんて今まで食べたことがなかった。
それくらい美味しかった。
「ほら、次は?」
遊里さんはおねだりをする。
ボクは察して、自分のアイスクリームをスプーンですくう。
それを遊里さんの口元に運んであげる。
艶やかな彼女の唇が上下に開き、アイスクリームを吸うように食べる。
「ええ!? これ、すっごく濃厚なんだけど!?」
「そうですよね。苺の果肉が入ったアイスクリームもすごく美味しいんですけど、こちらのシンプルなバニラのアイスも凄く濃厚で美味しいです」
「これ、お取り寄せできないのかしら…」
「ええ!? そこまでですか?」
「うん。ほら、茜とか勇気とかにも食べさせてあげたいなぁって」
「ああ、なるほど。遊里もすごくお姉さんしてるんだね…」
「ちょ、ちょっと? どういう意味よ?」
「他意はございません。素直にそう感じただけだよ。あんまり、ボクは遊里がお姉さんしているところをこれまでもそんなに見れていないからね」
「まあ、そっか…。私は隼が楓ちゃんに優しく接しているお兄ちゃんを見せつけられているけどね」
「ヤンデレかい」
「一途な乙女とはそういうものよ♪ 大好きな彼氏と私の仲を妨害するものは、力づくでも排除しちゃうんだから」
「力づくとは、穏やかじゃないなぁ…」
ボクは困った表情で額の汗をぬぐう。
それを見ながら遊里さんは「えへへ…」と微笑む。
「今日は一日、本当に楽しかったね」
遊里さんにボクが言うと、彼女はスプーンをお皿に置き、
「そうね。お外デートってこんなに開放的で色んな表情をお互い出せちゃうんだって、私もビックリしたわ」
「そもそもこれまでが異常だったんですけどね」
「そうね。でも、これまでも外で一緒にデートをしたり、学校で仲良くすることが出来なかったけど、それはそれなりに私の中では飲み込めていたし、その状況下でも意外と楽しかったんだよ。実際、付き合う前の日本史係をしていることから…さ……」
遊里さんは少し恥ずかしがりながら上目遣いで本音を言う。
ボクはその顔にドキッとさせられる。
彼女はズルいな。そうやっていつもボクの気持ちを引き離さないでおこうとする。
近くにいてあげたいという気持ちにさせられてしまう。
彼女も同じ気持ちなのかな…。
ボクの普段の言動からそういう気持ちになってしまっているのかな…。
しっとりと濡れた彼女の唇を今にも引き寄せたい気持ちになってしまう。
でも、ここは落ち着いた雰囲気のいいレストラン。
周りにも落ち着いた感じのお客さんが談笑しながら食事を楽しんでいる。
「ボクも高1のころに引っ越してきた遊里を見てから、恥ずかしいけど一目惚れだったんだよ…。でも、ボクにはそのころは自分がモテるなんて全然思っていなかったから、告白する勇気すらなかった…」
「私が陽キャだったことに感謝しなくちゃね…。陰キャ同士だったら告白すらせずに卒業を迎えちゃってたかもね」
「そ、そうなる前に、ボクが声を掛けていたよ! 勇気をもってね」
ボクは力強く、遊里さんに向かって伝える。
遊里さんはふわりと微笑んで、
「んふふ。それは凄く嬉しいな…。それに将来のことも考えてくれている旦那さんは大事にしないといけないな…、私は。私ってばタガが外れちゃうと、後先考えなくなっちゃうから、子ども欲しい~とか言っちゃうんだもんね…。隼がストッパーの役割をしてくれるのは本当に助かるんだよ」
「でも、将来、本当にボクの子どもを産んでね?」
「うん、任せて。大好きな隼にそっくりな子どもを産んじゃうからね♪」
「て、ボク達、こんなムーディーな場所で何て話してるんだろうね」
「ほ、本当ね。あ~恥ずかしい。私ってば何て宣言してるんだろ…」
遊里さんはパタパタと両手で自分の顔を仰ぐ。
目がちょっと泳いでる辺り、本当に恥ずかしがっている。
「でも、私の将来を全部もらってね、隼」
「あはは、その言い方はなかなか荷が重そうだけど、頑張らせていただきます」
ボクらはまだ高校生だ。
そして、行きたい大学、就きたい仕事、色々と考えの中にある。
それも含めて彼女と一緒に未来を創っていきたい。
それがボクと彼女の関係だ―――。
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