第94話 実はPONなボクの彼女。

 ボクにとって初めてのホテルでの夕食。

 それはまさかの好きな彼女と一緒というこれも初めてが重なったのである。

 目の前にいる彼女もすごくソワソワしている感じで、ボク達は借りてきた猫のようだった。

 宝急アイランド内にあるホテルとはいえ、VIPの方々が泊まられるホテルだから、ドレスコードが気になったが、ボクらの服装に問題はないと言われた。

 常にスーツとかタキシード、ドレスでないといけないというわけではなさそうだ。

 とはいえ、テーブルの真ん中には、キャンドルが灯され、雰囲気が醸し出されている。


 ボクらは「スペースファイター」のあと、2つシアター型アトラクションに参加した。

 2つ目に参加したのは、宝塚と歌舞伎を融合させたようなコミカルな展開のある劇だった。

 まあ、途中でとんだハプニングも発生したけれど。

 3つ目は乗り物に乗って、目の前に現れる敵を光線銃をリアルに狙って倒していくものだった。こちらも結構長めだったけれど、有名Vtuberを複数名採用されていて、話の展開が起承転結していたものとなっており、短編小説をリアルに体験しているような感覚にさせられるものだった。

 どちらも凝っていて最後のオチまで楽しませてもらえるものであった。

 かくして、ボクらは午後も大満足なまま、ディナーへと案内されたわけである。

 

「そんなに緊張しなくてもいいんじゃないかな…」

「え!? う…。別に緊張しようと思ってしてるわけじゃないんだよ。こういうところに来ることが初めてただか…」

「あはは…。ボクもこういうところでの夕食はないなぁ…。それに遊里と一緒ってのが緊張しちゃうかな?」

「え? 私と一緒だと緊張しちゃうの?」

「うん。だって、こういうところで二人きりのきちんとした食事って初めてでしょ?」

「ま、まあそうだったわよね。前にファミレスに行ったときは、楓ちゃんも一緒だったもんね」

「そうそう。だから、好きな子と一緒にこんなムードのあるところで夕食ってのはボクも緊張しちゃうよね」

「う…。そういう恥ずかしいことをサラッと言わないでよ。もっと恥ずかしくて緊張しちゃうじゃない」


 見る見るうちに彼女の顔は赤く染まっていく。

 何だかボクが意地悪しているみたいに見える。


「そういえば、2つ目のあの演劇面白かったね」

「あはは…。私にとってはちょっと災難だったけれどね」


 そう、実際、2つめの演劇では、遊里さんが観客の中から選ばれて、劇に参加することになったのだが、悪い男の人たちに攫われてしまう役で、ロープで縛られたりしてしまい、あまりのリアルさに観客も遊里さんがさくらなのではと勘違いしてしまうほどであった。


「初めての拘束プレイはいかがでしたか?」

「ちょっと、冗談でも人前ではされたくないわよ。そ、そりゃ、隼がどうしてもっていうなら、してあげなくもないけど…。やっぱり変態なプレイは…」


 と、言っても、これまでのエッチをしてきた経験から言うと、たぶん、お互いし始めると興奮して、タガが外れてしまったようにヤっちゃうんだろうな…。

 うん。ボクら、エッチなもの同士だから…。

 その証拠にさっきも遊里さんは、含みを残していたからね…。


「それに私の服装だと下着が見えてそうでそっちも心配だったんだから…。ホラ、子どもたちも見に来ていたし、当然一緒に来ていたお父さんとかもさ…」


 あくまで、男性の視線が気になっていたということかい!

 まあ、何人かは遊里さんのことを色目遣いで見ていた人もいたとは思う。

 でも、誘拐されたりするわけじゃないから…。


「まあ、確かに何人かはそういう人も居るかと思いますが、あくまでも最後までハラハラさせるあのドラマ展開にボクは興奮してましたけどね…」

「まあ、確かにあの展開は驚きだったわよね。それにスーパー歌舞伎みたいに縦と横を広く使っているところなんかも見ている側としては驚きだったかもね…」

「ポスターに使われたりして」


 ボクが不意に言った一言に遊里さんは「あ…」と言って固まる。


「ポスター用の写真って撮られてるんだっけ!?」

「ええ、何度かカメラマンの人を見たりすることはありましたけど、気にしていないのかと思いましたよ」

「ううん…。忘れてたのよ…、撮られてるのを…」

「ええ!? そうだったんですか!? 女優さん並に余裕な表情だったように思えるんですけど…」

「ううっ…。実はそうじゃないの…。本当に忘れちゃってたの…。ああ、どうしよう! 面前で隼を抱きしめたり、キスしたりしてたのも撮られてるんじゃないの…」


 まあ、撮られていると思う。

 でも、それがそのまま採用されるかどうか分からないじゃないか。


「きっとポスターなんだから、公の場に貼りだされるものなんでしょうから、そんな激しいものにはならないと思いますよ。橘花さんのことを信じましょうよ」

「何言ってるのよ! 凜華だから、心配なのよ」

「え…遊里さんにとって友達だよね?」

「だからこそわかるのよ。凜華は私と隼のイチャイチャしているところをポスターにして、若い子の入場を狙ってるのよ…。最近、若い子たちが興味ありそうなことを調べて、勧誘に熱心になっていたし…」

「つまり、リア充爆発しろの真逆の、夏のリア充大作戦ってこと?」

「まあ、ざっくり言うとそういうこと…」

「でも、もう手遅れだと思いますよ…。ボク達、ほぼ一日中イチャイチャしてましたから…」

「うう…。確かにそう言われればそうよね…。午前中はプール、午後はアトラクションと遊びまくってたものねぇ…」


 遊里さんは頭を抱えて本気で悩んでいる。

 橘花さんってそんなにヤバい人なの?


「まあ、今頃焦っても仕方ありませんよ。それよりも一緒に豪華ディナーを楽しみましょうよ。ボクは遊里さんとこういうところに来るのは楽しみの一つでしたから」

「うーん、まあ、そうね。もう撮られてしまったものは仕方ないか…。それよりも隼との時間を大事にするわ」


ボク達はそういうと、運ばれてきた前菜からいただくことにした。

きっと今もどこからかファインダー越しに見られながら…。




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