第92話 起死回生の逆転勝ち

 ボクはスペースファイター内に保存されていた旗艦「ヘル・ジ・アスター」の見取り図を全機に配信する。


「確か、ヘル・ジ・アスターにはシールド発生装置があり、そこを破壊しない限り、重厚なバリアが張られていて、このスペースファイターのレーザー銃レベルではかすり傷すら負わせることができません。ですので、まずはそのシールド発生装置を破壊する必要があります」

『ちなみにそれはどこにあるの? 悠長に説明を聞いていると、こっちのシールドも持ちそうにないんだけど…』


 見知らぬスペースファイターの乗組員が若干の苛立ちを覚えながら返答してくる。

 とはいえ、この作戦にはまずは落ち着く必要性がある。

 だって、シールド発生装置は………。


「そのシールド発生装置は、ボクと遊里の2人で破壊しましょう。残り4機はシールドが解除されたのちに、本体の動力炉の破壊のために集中砲火を浴びせないと破壊できないでしょうから」

『なるほど、わざわざ危険な目を自分たちで選択するということだな』

「もちろん、それもありますし、ボクらの方がまだシールドのゲージが高いことも要因の一つでもあります」

『で、シールド発生装置ってどこなのよ、隼?』

「それは、ここだよ…」


ボクは液晶パネルに表示された「ヘル・ジ・アスター」の一部分をクリックして、遊里さんに伝える。

ボクの左サイドにホログラムのように映し出された液晶では、それを確認したうえで凄く嫌な顔をする遊里さんがいた。


『よりによって、ここ? 私たちのシールドが持つかどうかわかんないじゃない…』

「でも、やってみないと分からないよ。で、他のスペースファイターが狙うべき動力炉はここ」


 これも液晶パネルの後部イオンエンジンのすぐ下をタッチする。

 複数個のタンクのように見えなくもないものが並んだ場所がある。


「このタンクを破壊してほしい」

『おいおい、ここを破壊するにはイオンエンジンの噴射をもろに受ける可能性もあるな』

「集中砲火を浴びるよりはまだマシかと…」

『まあ、違いないな』

「では、この作戦でお願いできますか?」

『『了解(OK)!』』


 ボクの提案に他の5機すべてから賛同が得られた。


「じゃあ、皆さんに幸運あれ。行くよ、遊里!」

『うん、わかった!』


 ボクと遊里さんは編隊(ボクが前、遊里が左斜め後ろ)を組みなおし、ヘル・ジ・アスターに近づいていく。

 上下左右に機体を揺らし、レーザー砲をかい潜る!


『近づくと恐怖しか覚えないレベルの大きさね』

「レーザー砲が狙いにくいようにするために、旗艦の表面ギリギリを飛ぶよ」

『OK』


 ヘル・ジ・アスターの表面を撫でるようにフルブーストで飛んでいく。

 小型戦闘機だからこそ、大型のレーザー砲では狙いにくく致命傷は与えられない。


「さあ、このまま操舵室を超えたらそのまま向きを捻って操舵室の裏側の左右のアンテナを打ち抜くよ」

『じゃあ、私は左側を狙うわ! 隼は右側を!』

「OK。赤いボタンを長押しでエネルギーを充填できるから、一発で打ち抜こう!」


 シールド発生装置そのものではなく、全体を包み込むためのアンテナを打ち抜くことで、シールドそのものを発生できなくしてしまおうというのがボクの判断だ。

 上下左右に機体を揺らしつつ、ヘル・ジ・アスターにぶつかるギリギリの高度で操舵室に向かって飛んでいく。敵機も後ろから追いかけてこようとするが、ヘル・ジ・アスターにぶつかったり、仲間のレーザー砲に撃ち落とされたりしてしまう。

 そして、いよいよ――――。

 操舵室まで駆け上がり、抜きを大幅に方向転換をする。


「今です! 照準はオートなんで赤いボタンを離すだけで打ち抜いてくれます!」

『OK!』


 ボクと遊里さんの機首からレーザー銃がエネルギー充填をされている強力な火力でアンテナを撃ち抜く!

 アンテナはプラズマのようにパリパリと電気的な火花を飛び散らせながら、破壊される。


「さあ、動力炉を!」

『ああ! 今から撃ち抜…ぐわぁっ!?』

「―――――!?」


 動力炉を打ち抜き側のリーダーを務めてくれていた人物の機体が敵機に撃ち落とされる。


『きゃぁぁぁぁぁぁっ!?』

「遊里!?」

『私の機種のイオンエンジンもやられたみたい! 運よく機体は持ってるけど、もう飛べない!』

「今、救うから!」

『いいから、早く動力炉を!』

「いいから任せておいて!」


 遊里さんのスペースファイターがゆらりと傾くところを、ボクは下から機首をぶつけ、2個を合体したような形にする。

 ボクの機種本体に引っかかったような状態で、そのままイオンエンジン近くに下りていく。

 残りの3機はすでに攻撃をし終え、動力炉からプラズマのような光が四散しているのが確認できる。


「遊里、ボクらもエネルギーを充填して、合図と同時に打ち抜くよ!」

『……分かったわ。やってみる!』


 残り1つの動力炉まであと少し―――。

 5・4・3・2・1―――――!


「今だ!!!」


 ボクと遊里さんは操縦桿の赤いボタンを同時に離す。

 ボクらの機種からは同時にレーザー銃が放たれる。

 2機分を一気に放出するのだから、破壊までの時間も短時間で終えることが出来る。

 動力炉が破壊されると、イオンエンジンの青い光が消灯する。

 旗艦「ヘル・ジ・アスター」はぐらりとその動きが遅くなる。

 ボクらはそのままイオンボムをヘル・ジ・アスターに複数個投下する。

 小さな爆撃に見えるかもしれないが、効果は大きく、電流のようなものが全体に走り、内部から爆発が起こる。

 内部は酸素があるから赤い炎もあがる。

 旗艦「ヘル・ジ・アスター」の最後であった……。

 当然、それ以降、「司令官コマンダー」からの祝福の言葉はなかった。

 ボクらはそのまま飛び立った母艦へと機首を向け直す。

 ボクは自身の機体の上に、遊里さんの機体を載せたまま母艦へと着陸する。



 瞬間にVRの画面は真っ暗になり、そこに赤い文字で「ミッション コンプリート」と表示される。

 ボクらはついにこのアトラクションで唯一の制覇した者たちへとなったのだ。

 最後の6機を操縦していたものには、その栄誉を称えられ、特製のピンバッジが手渡された。

 遊里さんもすごく喜んでいた。

 ボクも遊里さんが痛い思いをしなくて済み、ホッとした。

 かくして、シアター型アトラクションの一つ目が終わったのであった。




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