第91話 裏切者

 ミッション2はさらに過酷さを増した。

 旗艦「ヘル・ジ・アスター」の周囲にいた補助艦「ヘル・ザ・シューター」がついに牙をむき出したのだ!

 たとえ、補助艦と言えども、そのレーザー砲は小型戦闘機とは比べ物にならない。

 次々とミッションに耐え切れず、味方の戦闘機が墜ちていく。

 当然、ボクらにも集中砲火が浴びせられる。


「遊里、速度は落ちるけど、ジグザグに補助艦に向かって飛ぼう!」

『え!? でも、そんなことしたら私たちのシールドも破壊されちゃうよ!?』

「大丈夫! とにかくボクと一緒に飛ぼう!」

『うん! 分かった!』


 ボクらの後ろからすでに「ヘル・ザ・シューター」が襲い掛かってくる!

 目の前からはもう1つの「ヘル・ザ・シューター」が向かってくる。


『ちょ、ちょっと!? このままじゃあ、挟み撃ちで集中砲火浴びて墜とされちゃうよ!?』

「大丈夫…。合図と同時に操縦桿を思いっきり前に押し倒してね!」

『ちょっと、何するのよ!?』


 ジグザグ飛行をしていることもあり、「ヘル・ザ・シューター」のレーザー砲の直撃を回避しながら、目の前から迫りくるもう1つの「ヘル・ザ・シューター」に近づく。


『補助艦のくせにメチャクチャ大きいじゃない! こんなのズルくない!?』

「3・2・1…遊里、押し込んで!」


 同時にボクらのスペースファイターはありえない直角落下のように飛行方向が変わる!

 そして、そのままボクらは一気にブーストを掛けて、補助艦から離れる。

 これから始まる地獄絵図を遠くから観賞するために。

 2つの補助艦「ヘル・ザ・シューター」は回避行動を取るが船の大型さから動きが緩慢になり、オフセット衝突のように前方部分がグチャグチャに破壊されながら、船体を引きちぎっていく。

 そして、そのまま動力炉にも衝撃を与え、刹那――――。

 パッ! と明るく光ったと思うと、プラズマを発しながら、船体が真っ二つに千切れ、ゆっくりと粉砕していく。

 恒星が爆発したような眩い光が宇宙を走り抜け、衝撃風となって船体を揺らす。

 何も音はしない。

 音はしないが、それだけで「ヘル・ザ・シューター」が墜ちたということは理解できた。

 もちろん、ボクらも無傷ということはなかったが、シールドのゲージの4分の1ほどで済んだのは奇跡に近い。

 他のスペースファイターはシールドがほぼ残っておらず、次のミッションに耐えれそうにもない。

 いや、それだけではなく、最初の頃に比べるとスペースファイターの数が格段に減っていた。

 味方の旗艦、補助艦による乗組員の回収作業が行われている様子まで映し出されるのはなかなかリアルだ。


『お見事、というところかしらね…。ここまで残った機体は7機。これより、最終ミッションを行うわ。最終ミッションは旗艦「ヘル・ジ・アスター」への襲撃よ』


 うん、やっぱり想像通りだ。

 きっとそうだろうなと思っていた。

 ただ、旗艦はじっと動かずに耐えているだけのように見える。

 きっと旗艦の全システムを解放すれば、ボクらの小型戦闘機なんて一瞬で宇宙の藻屑にできるだけの火力を備えているであろうに。


「どうしてだろう…」

『隼、どうしたの?』

「どうして、旗艦は何もしようとしないんだろう…。補助艦の3倍はありそうなサイズの機体だから、「ヘル・ザ・シューター」の火力の比にはならないほどのレーザー砲の砲塔が装備されているはずなのに、一切打ってこない。ヘル・ザ・シューターが墜ちた今もなお…。それっておかしくないですか?」

『確かに、何かを値踏みしているような…、それにこちらに攻撃できない問題がある?』

司令官コマンダー?」

『どうかしたのかしら?』

司令官コマンダーは今、から指示を出されていますか?」

『それが今の状況に何か問題でも?』

「いえ、なぜか司令官コマンダーの旗艦は攻撃を全く受けておられるようには通信からは見受けられませんので…」

『何が言いたいのかしら?』

司令官コマンダーは、にお乗りなんでしょうかね…」

『小賢しいネズミだこと…。私が裏切り者だとでも言いたいの?』

「はい。こちらのアトラクションは誰一人としてクリアした者はいないとお聞きしています。それは司令官コマンダーが裏切り者で、最後に旗艦「ヘル・ジ・アスター」から攻撃を仕掛けて全滅を狙っているとしか思えないんです」

『勘がいいわね…。しかし、この状況下でどうするの? その話が事実だとして、スペースファイターがたった7機でこの「ヘル・ジ・アスター」を墜とせるとでも?』

「否定はされないんですね。それに「このヘル・ジ・アスター」とは…。さすが乗っていることは認めてらっしゃる」

『では、最終決戦と行きましょうかしら…。お前たち、死ぬがいい……。総員、攻撃開始!』


 司令官が言った刹那―――。

 旗艦「ヘル・ジ・アスター」から赤色のレーザー砲が艦のあらゆる砲塔から放たれる!

 周囲にいたゲージの低いスペースファイターが一機、撃墜される。

 残り6機―――。


『ねえ、勝ち目はあるの? 隼?』

「ないわけではない」


 スペースファイター6機はレーザー砲に当たらないようにチリジリバラバラにジグザグ飛行をしている。

 他の機体に乗っている顔すら知らないものからも続々と通信が飛び込んでくる。

 大半が、このデカいのをどうするか?

 当然、墜とすことを優先したいのだが…。

 ボクは液晶パネルで無線を全機種に切り替える。


「この旗艦『ヘル・ジ・アスター』を墜とせる方法を今から全機に伝えます」


 ボクは落ち着いた口調で話し始めた―――。




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