第90話 仲の良いスペースファイター

 昼の合間にもイチャイチャしていたボクと遊里さんは服に着替えて、行く準備が出来ていた。

 遊里さんはミニショルダーバッグを肩から下げて、そこには財布やスマホなど忘れ物がないか確認をしている。


「隼~、準備出来たぁ~?」

「うん、いつでもいいよ」

「私も~。じゃあ、そろそろ行こっかぁ~」


 午後からはシアター系3連発だ。

 シアター系といっても、ここ宝急アイランドでは色々とジャンルがあって、異なるものを行っている。

 ひとつは3Dや4Dのような映像系のもの、そしてリアルな人が演じる演劇系、そして最後が自身も体験しながらお話が進むアトラクション系の3種類が用意されている。

 どれも人気が高く、映像系・演劇系のふたつは予約を事前に取っておかなければ、キャンセル待ちで待たなければならない。それにアトラクション系は180分待ちなんてザラだ。

 それをどれもがVIPとして予約が取られているのでボクらは開始時間の5分前までにエントランスに行けばいいようになっている。

 ボクらはランド内のマップを見て、そこに向かってようやく出発した。



 まずは映像系のシアターホールに向かう。

 電子ブレスレットを受付の人が差し出した機械に触れると、ピピッと音がして、場内に案内される。

 待っている人などお構いなしの超ショートカットの通路を歩いて。

 周囲の人の目があるところにやや気後れしてしまうが、今日はVIP扱いとなっているので、申し訳ない気持ちもそこそこに進んでいく。

 場内はすでに多くの人がおり、開始時間を待っているようだった。

 ボクと遊里さんは、その会場の一番真ん中の席に案内される。

 座ると周辺の人々が視界に入ってこないカップル席だった。


「VIPって本当に凄いのね…。こんな席座ったことないわよ」

「もちろん、ボクもないよ。これは初体験だ」

「じゃあ、しっかりと堪能しなきゃね♪」

『皆様、大変お待たせいたしました! それでは目の前にあります、ヘッドセットゴーグルをお付けください』


 突如、会場内にアナウンスが響き渡り、ヘッドセットを頭に装着する。

 まだ、何も映し出されておらず目線の先は真っ暗闇だ。


『では、シミュレーションモードに切り替わります』


 ヘッドセットに取りつけてあるヘッドフォンから女性の声が聞こえた後、目の前のモニターに映像が映し出される。

 VR(仮想現実)を使われているのか、上を見ると、そのまま景色が変化する。

 そして、横を見ると、遊里さんがいる。服装は先程までのものとは違い、よくSF映画で見る宇宙で戦っている戦闘員の服装だ。

 これはすごい…。

 VRとARを融合させたようなシステムなのだろうか…。どうやって合成しているのか分からない…。


『これより皆様には1機ずつスペースファイターに乗り込んでいただき、訓練を行います。訓練と言っても真面目にやらなければ撃墜され、宇宙の藻屑になり果てますのでご注意を…』


 一瞬の暗転を挟むと、そこはスペースファイターの操縦席になっていた。

 目の前には大きな液晶パネルが様々な情報を映し出している。

 現代の空軍が使用している戦闘機のような作りになっている。


『まずは、画面右上のイグニッションをタッチしてください』


 言われたまま、仮想現実に広がる画像をタッチすると、振動が伝わってくる。

 どうやら、イオンエンジンに点火されたようだ。


『操縦モードをオートを選択の上、操縦桿を両手でハンドルを持つように握りしめなさい』


 目の前に映し出されている操縦桿と同じ位置に、リアルな操縦桿があり、それを握りしめる。

 しっかりとした手ごたえがあり、これはリアルだと実感できる。


『もしも、皆様の中で、友人知人がいる場合は、無線のチャンネルモードを合わせてください。そうすることで、戦闘訓練中も会話が可能となります』


 横を見ると、液晶画面のように遊里さんが映し出される。

 顔は少し不安そうだ。

 チャンネルモードを彼女に合わせて、通話をする。


「少し緊張している?」

『え? あ、ああ、隼? さすがに技術が凄すぎてビックリよ』

「確かにこの技術は並のものじゃないね…。こういうゲームはしたことある?」

『何度かしたことはあるけど、そんなに上手くないの。できれば助けて欲しいところね。ちなみに隼は?』

「いくつかやり込んだものもあるよ」

『それはそれは…。エスコート頼めるかしら?』

「まあ、出来る限りのことはやってみるよ」

『頼もしいわね、ウチの彼氏は…』


 そういったところで、通話が一方的に遮られ、女性スタッフの声が聞こえてくる。


『設定は終わりましたか? では、シミュレーションモードを始めます。全機発進!』


 耳元からゴゥワァッ!!! とエンジン出力の向上が確認できるような音と全身には振動が走り出す。

 操縦桿をギュッと握ると、それに呼応するかのようにふわりと身体が浮く感覚があり、外の景色もゆらゆらとしながらもそのまま前進し始める。


「これはかなりリアルな感覚だなぁ…」

『私は結構ビビってるんだけど! 手に変な汗かきまくりよ!』


 遊里さんが文句を言い出す。

 でも、その表情は明らかに楽しそうだし、興奮しているのか若干の紅潮しているのが分かる。


『まずはオート操縦状態における敵機の打破の説明をします。操縦桿の右側に赤色のボタンがあると思います。これがレーザー銃となります。大型船にはなかなか効きませんが、相手の小型戦闘機には十分な火力があります。画面上には、ブルーとオレンジのゲージが見えると思います。ブルーは各機体が持っているバリアです。これが無くなると、オレンジのゲージが減っていきます。オレンジのゲージが無くなると期待は撃墜されますので注意するように。撃墜されると若干の痛みが身体に走りますので、それが耐えれなさそうな人は、液晶パネルの左上にあるEXITを今すぐタッチしてください。5秒待ちます。5・4・3・2・1…。誰もいらっしゃいませんね。ではこのままシミュレーションを開始します。目の前に見えてきた大きな船が敵の旗艦「ヘル・ジ・アスター」です。残念ながら、我々のスペースファイターでは、「ヘル・ジ・アスター」を墜とすことはできません。また、レーザー砲の威力も非常に大きいです。近づくことは危険ですので、やめておいたほうがいいです。「ヘル・ジ・アスター」から小型戦闘機「ヘル・ビースト」の発信を確認! 全戦闘員は前方に集中すること!』


 言われて、前方を液晶の拡大モードにしてみてみると、旗艦の左右の発着口からアメフラシのように大量に飛び立っているのが確認できる。

 これはマズい…。

 シミュレーションモードとか言っているけど、これは実戦だ。


「遊里、ボクのそばから離れないで、合図とともにレーザーボタンを押すんだよ」

『了解。我慢比べね…』

「そう。相手を引き付けてから、墜とせばいい。確実に当てることを意識しよう」

『隼の指示に従うわよ、安心して』


 またしても、ブツリと通話が途切れ、女性スタッフの無線が入る。


『敵機接近!』


 何も考えない者たちが早速、レーザー銃をぶっ放す。

 もちろん、全然当たる気配もない。

 ボクと遊里さんはじっくりと敵機の接近を待ち、ゼロ距離に近づいたときに、


「今だ! 打って!!」


 ボクらのスペースファイターの砲塔からレーザーが放たれる。

 ゼロ距離に近づいた「ヘル・ビースト」は木っ端みじんに砕け散る。


「遊里さん、操縦桿を左に最大に切って! 旋回して墜とし損ねた敵機が戻ってくるからそれをやってしまおう!」

『了解!』


 周囲の人から見ると、遊里さんの操る赤いスペースファイターとボクが操る青のスペースファイターが仲良くランデブー飛行をしているようにでも見えたかもしれない。

 旋回したその先に敵機も旋回して、全速力でこちらに向かってくる!

 ボクらは待ってましたとばかり狙い撃ちして、自分たちに襲い掛かってきた敵機を撃ち落とす。

 ボクらは無傷のまま、第一のミッションをクリアした。


「結構うまいね、遊里も」

『全部、隼の指示のおかげよ。さあ、次のミッションも頑張りましょう』


 ボクらは次のミッションが始まるまで、編隊を組むように旗艦を真正面に捉えつつ、待つことにした。

 いや、ボクとしてはあの旗艦を墜とす方法を考えることにした。




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