第88話 ホテルからのボクらへのお願い。
「大変お待たせ致しました~。ハンバーガーセットとフライドポテトとフライドオニオンリングになりま~す」
店員さんは至って明るく、最高の笑顔で商品を持ってきてくれる。
それぞれボクと遊里さんの分がそれぞれバケットに入った状態で手渡してくれる。
それとコースターを敷いて、ドリンクを置いてくれる。
そして、店員さんはカウンターに下がっていった。
ボクらは早速、飲み物の入ったグラスを手に取り、
「「かんぱ~い!」」
「何だか、昼からやることではありませんね…」
「あはは…。本当よね。まあ、まだ未成年だからお酒も飲めないんだけどね~」
ボクたちは笑いながら、それぞれの飲み物を少し飲む。
そして、バケットの中にあるハンバーガーを手に取る。
いつ見てもボリューム満点のハンバーガーは牛肉パティから肉汁が染み出てきていて、それだけでも美味しそうなのに、それに合わせて彩りよくレタス、火を通したパプリカ、スライスオニオンなどがさらにハンバーガーのボリュームを引き立てている。
「私、初めて見たんだけど、すごい量ね。でも、野菜もたくさんあるから少しはヘルシーになってるのかしら…」
遊里さんはそういいつつ、パクリと喰らい付く。
いつもながら、遊里さんの食べっぷりは見ていて惚れ惚れとしてしまう。
美味しそうに喰らい付く姿は料理を作るものとして、それを一緒に食べるものとして常に嬉しいものだから。
「どう?」
ボクが訊くと、遊里さんはモグモグして口の中のものをのみ込むと、
「お肉がすっごく美味しい! それにこのソースも美味しい。サウザンドソースとはまた違うけれど、お肉とお野菜にすごくあってるね。それに玉ねぎのスライスも全然辛みがなくて、凄く甘い!」
「そうなんだよね…。ボクも前に食べたとき、そこに感動したんだ。遊里も同じところに反応したんだね」
ボクはオニオンリングを一つ口に放り込む。
生で食べても甘くて美味しい玉ねぎはフライにして火を通すとさらに甘みが増している。
ぜひとも、橘花さんからこの玉ねぎの産地がどこか教えて欲しいものだ…。
ボクはそんなことを考えてしまう。
遊里さんは目の前の大きなハンバーガーと格闘中だ。
彼女のレモンスカッシュはこういったこってりしたハンバーガーなんかにはもってこいだ。
口の中の肉汁などの粘々を取り除いてくれて、さっぱりとしてくれる。
だから、次々とハンバーガーが食べられてしまう。
「美味しい~~~」
遊里さん、本日何度目かの「美味しい」。
口元の右部分に、少しソースが付いていた。
「遊里、口元の右側にソースが付いてるよ」
「え? ホント!? 隼、拭き取ってくれる?」
両手でハンバーガーを持ちながら、ボクの方に顔の右側部分を近づける。
ボクはペーパーナプキンでそっと拭き取ってあげる。
「あ、ペロッてしてくれるんじゃないんだ(ニヤニヤ)」
「ええっ!? そんなのできるわけないじゃないか…!?」
「別にお客さんが少ないんだから、しても誰も見てないって。何なら、もう一回ソース付けようか?」
「いや、そんな器用なことしなくてもいいよ」
「うーん、ケチだなぁ~隼ってば」
ゴメン、ケチの基準を教えてくれるかな。
そんなラブコメのような展開はマンガの世界だけだって…。
ボクは「ははは…」とちょっと困惑気味の笑みを浮かべていると、店員さんが近づいてくる。
「お客様、お食事中、失礼いたします。お味はいかがでしょうか?」
「このハンバーガーは二度目なんですが、野菜が甘くて吃驚ですね。お肉も肉汁が染み出してきてすごく美味しいです」
「これって女の子でも1つペロッとイケちゃいますよね」
「そうですね、私もついつい1つ食べちゃうこともあります」
店員さんは遊里さんの言葉に同意する。
店員さんの右手には何やらA4サイズの紙が握られている。
「実は、お客様、すごく仲睦まじいカップルとお見受けいたします」
「いや、そんな熟年夫婦だなんて」
「遊里、そこまで言ってないよ」
「あぅ。ごめん」
「まさにその阿吽の呼吸が仲睦まじい証拠ですよ。そこで1つお願いがございます。この夏休みのポスターにぜひともお二人の写真を採用させていただきたいと考えておりまして」
「ええっ!? それ、本気ですか!? ボクら、ど素人ですよ」
「まあ、その辺は大丈夫です。遠くにはなれたところから、自然な姿をお撮りいたしますので、気になさらずにパーク内をご堪能下さい」
「そ、それは盗撮では…」
遊里さんが悩みながら発言する。
まあ、急にお願いされたんだから、そりゃ驚きもするだろう。
「もちろん、採用不採用関係なく、報酬もお出しいたします。ちなみに先程の食事中の様子はこのような感じに」
といって、タブレット端末を取り出し、写真を何点か見せてくる。
いつの間に撮影されたのか、ボクと遊里さんがウォータースライダーで叫んでいる様子や流水プールで一緒に戯れながら泳いでいる様子、一緒にハンバーガーを待っているときに談笑している様子などが画面に映し出される。
どの写真もボクらの自然な表情が出ており、ぎこちなさなど微塵もない写真である。
遊里さんもメチャクチャ可愛く写してもらえている。
「どうする? そもそも私、ポスターになるってのはちょっと驚きなんだけど…」
「それはボクも一緒です。どうしましょうかね…」
「ちなみに報酬以外にもお撮りした写真のデータとそれをミニアルバムにしてプレゼントも致します。いかがでしょうか」
うわ。至れり尽くせりじゃないか…。
若干、押し売りっぽいのが気になるけど…。まあ、遊里さんがいいなら、いっか…。
「どうします? ボクは別に構いませんけど」
「ぜひとも、やらせてください! 彼とイチャラブしていたらいいんですか?」
「あはは、あくまでもポスターになるような写真をお撮りしますので、限度はありますよ。むしろ、普段通りしていただければそれで結構ですので…」
店員さんは『イチャラブ』という言葉に少し困惑していたが、冷や汗を拭いながら、ボクらにそう言ってくれる。
まあ、遊びに来たのだから、普通にしておけばいいんだろう。
そこで、遊里さんが手を挙げる。
「1つだけいいですか? カメラマンの方はお部屋にまで入ってこられるんですか?」
「さすがにお部屋はプライベートな空間となっておりますので、そこでの写真はご希望でない限りカメラマンはお部屋にまでは同行いたしませんので、ご安心ください」
「じゃあ、私たちのデートの撮影、お願いいたします!」
「ありがとうございます。広報部門も喜んでくれると思います! では、よろしくお願いいたします」
そういうと店員さんは再びバックヤードに去っていった。
店員さんがいなくなるのを確認すると、ボクは遊里さんに話しかける。
「本当に良かったの?」
「うーん。まあ、あんまり深く考えなかったのは事実なんだけど、でも報酬だけでなく、データやミニアルバムももらえるのは何だか嬉しいなぁ~って思っちゃってさ。だって、このデートがある意味、お初なデートなんだし。記念日みたいなもんじゃん!」
「まあ、そうだね…。ボクは遊里が良いっていうなら何も言うつもりはなかったし…。さっきの写真もすごく可愛く撮れていたしね」
ボクがそういうと、遊里さんは耳まで真っ赤にして、無言でハンバーガーを口に頬張ったのであった。
彼女だけのポスターが仕上がったら、貰えないかな…。
部屋に飾っておきたいくらいなんだけど…。それくらい素敵な笑顔だったんだもの。
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