第86話 よく喋るカフェテラスの店員

 プールのあと、プール隅にあるカフェテラスに遊里さんと一緒に入る。

 すごくオシャレなお店で、店員さんも海の家をイメージしたような感じの水着に白Tシャツというちょっぴりエッチさも取り入れてある制服(?)だった。

 ボクはその店員さんといきなり目が合ってしまい、最高の笑顔で、


「いらっしゃいませ! こちらにどうぞ!」


 と出迎えてくれた。

 たぶん、少し鼻の下が伸びてしまっていたのかもしれない。

 手を繋いでいる遊里さんの手の握り方に圧を感じたけど…。


「隼…。あとでお仕置きだからね…」

「―――――!?」


 ウチの彼女って実はヤンデレ!?

 しかも、そのまま握っている手を自分の方に引き寄せて、ボクの腕に豊満なお胸をムギュムギュと押し付けてくるのは、犯罪じゃないの!?

 魅力は十分に伝わってきているからぜひとも大人しくなって欲しい。

 お洒落な窓際のテラスに案内される。

 とはいえ、山を潰して造ったアミューズメントパークなので海がないから、海辺の景色が堪能できるわけではない。

 だが、そこはさすがに宝急グループというか、橘花お嬢様。

 遊園地ゾーンを全く見えないような作りにして、見えるのはプールで戯れている姿のみだ。

 しかも、目の前は人が入れないような場所になっていつつ、白い砂に人工波がさざ波のようにザブンザブンと押し寄せてくる。

 見ていると、なんだか、本当に南国の海辺にいるような錯覚を覚えさせられる。


「うわ~、メチャクチャ綺麗じゃん! こんなところ、絶対に普段は使えそうにないね~。人気スポットになるもんね」

「あら、彼女さんはよく分かってらっしゃいますね」


 お冷とお手拭きを可愛らしい網カゴに入れて持ってきた先程の店員が微笑みながら話しかけてくる。

 遊里さんはボクのせいだと思うけど、少し警戒する。

 まあ、ボクが悪いんだけれど、店員さんも凄いレベル高いのよ…。その辺のアイドルよりも可愛いし、スタイルもいい。そりゃ、目を奪われちゃうって…。


「ここ、昼間はちょっとした避暑にもなって皆さん、プールで遊んでいる姿を見られながら食事を取られるんですけれど、ちょうど、テラスの外側が西側になっているので、夕方はサンセットビーチのような夕焼けを見ながら、南国メニューを食べることもできるようになっているんです」

「へぇ~、それも凄いねぇ~」

「ですので、夕方の段階で30分ほど休憩を挟むんですが、その間に、テラス周辺には照明兼雰囲気を出すために火を灯したりもしているんです。こちらの席も人気でお昼も夜も予約ですぐに埋まってしまいます。でも、今日はVIP様専用ですので、このようにお使いいただけるんです」

「そうなんだぁ~。さすが凜華はこだわりが凄いわねぇ~」

「あら? 橘花CEOのお友達ですか?」

「あ、はい。高校の同級生なんです」


 ボクがそう応えると、店員の方はニコリと微笑み、


「最近はCEOもお相手が出来たからかもしれませんが、カップルの居心地のいい場所をすごく提案されるようになりましたね。多い時には1日に100件くらい社内メールで飛んでくることがあります。私たちはスピード勝負なところもありますので、すぐにZOOMで会議を行い、それをデザイナーを通して疑似的に見えるものにしたり…ってどんどん変わってきています。いらっしゃる時に特別なラッピング仕様の電車に乗られました?」

「ええ、宝急アイランドの様々なアミューズメントの要素がラッピングされている車両ですね」

「あれもそうです。内装もこだわってありましたでしょ?」

「ええ…」


 ボクらが載った車両のつり革も意匠が凝られていたし、つり広告はなく全て液晶パネルで雰囲気を醸し出す映像が流れていた。


「ああいったことをどんどんとご提案されるんです。それでいて、学業も怠らないというのは本当に素晴らしいことですわ。それにプライベートも充実されてますしね」


 店員は含みのあるほほえみを浮かべる。


「ここだけの話ですけれど、先日、視察も兼ねてCEOがいらっしゃいました。素敵な男性と一緒に。私たちの目があるのは承知でしょうが、仲睦まじい様子でしたわ…。髪型を変えられたのも、そのあたりの心境の変化なんでしょうかね」


 この店員は単に若いだけではなく、色々と知っている人だということをこの何度かのやり取りで分かった。

 きっと、ボクらのことも橘花さんに筒抜けになっているような気がする…。


「まあ、『好き』って最大の力に変わりますからね。魔法みたいなものですよ…。魔法があるかどうかはわかりませんけれど…」


 店員はそういうと、腰に着けているポーチから三つ折りのリーフレットを取り出す。

 ランチタイムに提供している商品のようだ。

 お昼は軽めのハンバーガーやサンドイッチ、ホットドッグなど軽めのジャンクフードが並んでいる。

 とはいえ、それぞれの材料などがこだわっているのは前回来た時に食べたハンバーガーで分かっている。

 『軽め』なのは、園内では至る所にスウィーツや各国のソウルフードが売られていて、それを食べてもらおうという事情もあるのだと推測できる。

 お金の使わせ方が上手い。いや、それ以上にお客様への楽しませ方が上手い。


「ボクは以前、食べたことがあるんだけど、美味しかったからこれにするよ。ハンバーガーセットをください。飲み物はコーラ。あと、セットにオニオンリングとポテトフライのハーフをお願いします」

「はい、かしこまりました」

「じゃあ、私もこの分厚いパティが気になるから同じのにするわ! 飲み物はレモンスカッシュでお願いします」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください」


 店員はそういうと厨房の方へと下がっていった。

 見えなくなるのを確認して、遊里さんがボクに話しかけてくる。


「凜華って本当に何でもできちゃうのよね」

「本当ですね。一日100件とかすごいアイデアの数ですよね」

「たぶん、高校生だからこそ、色んな新鮮なことを言えるんだと思う。それに今では彼氏持ちだからね」


 言いながら、遊里さんはニヤニヤする。

 お相手は、ボクと一緒の陰キャ仲間でYoutuberの早乙女翼。

 仲が悪くなったのにそのあと、相思相愛できっとエッチも済ませていることだろう…。

 意外と翼は肉食系だから…。

 そういった新しい感覚が色々と変化を生み出せる原動力にするのは本当に凄いと思う。

 ボク達ももう少しで夏休み。

 夏休みが始まれば、文化祭実行委員会として色々な提案を出さなきゃいけない立場になる。

 ボクは少し不安と緊張を入り混じらせていた。

 とはいえ、今はこの景色、そして目の前にいる可愛い彼女との時間を堪能することにした。

 笑顔でボクを見つめてくれながら、食事を待つ彼女は可愛かった。



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