第85話 かき氷は彼女の火照りを抑えきれない。
「あ~ひと泳ぎした後のかき氷はまた格別ねぇ~」
イチゴのかき氷を口に運び、プルプルと頭を震わせながら、そんなことを言う。
ボクはメロン味を堪能している。
VIPしか使えない限られた空間では面倒なナンパ男や絡んでくるヤンチャな人たちもいない。
プールの水面はキラキラと陽光を照り返しながら、漂っている。
こんなに穏やかに楽しめるプールは初めてかもしれない。
それに初デートにこんな可愛い彼女と一緒にプールで戯れることが出来るなんて、陰キャなボクにとっては高2になった春には予想すらできなかった。
まあ、それは遊里さんも一緒かな。
ボクは遊里さんの方を見ると、かき氷で頭をキンキンと痛めて、目をギュッと
そんな顔も可愛い。
遊里さんはボクが見ているのに気が付き、
「な、何よぉ~。そんなに頭キンキンしてるのおかしい?」
「え? そんなことないよ…。前から好きな女の子、しかもとびきり可愛い女の子との初デートがプールなんてボクは幸せ者だなって思ってたの」
「隼って絶対に人を気持ちよくさせる天才よね」
「え? そうかな…」
「うん。だってさ、私、隼と一緒にいてて、気分悪くなることは全然ないもん」
「ほ、本当に!?」
「うん! 本当だよ。すっごく辛い時とか、しんどいときでも一緒にいてくれたり、声を聞くことが出来るだけでもすごく心が落ち着くんだよね。あ、それとたまに隼が言ってくれる私に対しての言葉にキュンとしちゃうんだよね。それが嬉しくて付き合い始めたときなんか、家族に言ってないのに、バレちゃうくらいだったもの」
「何したんですか?」
「嬉しすぎて、家に帰ったら自室で枕を抱きしめて、ベッドでキャーキャー言いながらゴロゴロしてたの…」
可愛いなぁ! 可愛すぎるよ、ウチの彼女。
少し恥ずかしがりながら、かき氷を口に運ぶ遊里さん。
「それで見つかったの?」
「うん、茜にね。お姉ちゃんがキモ過ぎるってお母さんに報告されちゃって…。お母さんからは何も問い詰めとか合わなかったんだけど、もうバレバレだったんだろうね」
「まあ、そこまで喜んでいる姿を茜ちゃんに報告されたらそうなりますね」
「てか、あの人、すごい察しが良いのよ…。お母さんが隼を襲いに行ったことがあったじゃない?」
襲う?
ああ、声を掛けられたそっくりさん事件か。
ボクは「うん」と軽く相槌を打つ。
「あの頃にすでに私とエッチなことをしたって感づいていたんだけど…」
「ええっ!? 何でですか!?」
「正直分からない。でも、生理の周期とかに大きな変化はないから…」
「それも、遊里さんがニヤニヤしちゃってたんでは?」
「ゔ…。それも否定できないかも…。私どっぷりとハマっちゃったもんなぁ…」
「まあ、相性が良かったからですね」
「え、もう、そういう一言一言が嬉しいんだけど…」
さらに顔を赤らめる遊里さん。
火照りを解消するためにかき氷をパクリと一口食べる。
「隼って、本当に彼女を喜ばせるタイミングを分かってるよねぇ…。まあ、彼女だけじゃなくて、妹に対してもそうなんだけど…」
「あはは…。でも、ボクは楓をそんな目では見てませんから…」
「まあ、確かに、裏設定で妹とは血が繋がっていませんでした~とかいうことがなければ、付き合えるチャンスはないものね」
「確かにそうですね…。でも、ボクは今も、これからも遊里のことが好きだから、離したくないよ」
そういって、ボクは隣に座る遊里さんの空いた方の手を握る。
遊里さんはふわりと微笑むと、少し瞳を潤ませながら、
「だから、ズルいって…。そういうことを言うと、キュンて疼いちゃうんだからね、両想いな女の子は!」
「でも、ウソ偽りはないんだもん…」
「分かってる…。好きよ、隼」
「ボクも大好きだよ、遊里」
そのままボクらは静かに唇を触れ合わせる。
そっとボクらは片方の手に持ったかき氷で顔を隠す。
でも、横からは丸見えなのは間違いない。
正面からだけは見えないだけで、少しは恥ずかしさを誤魔化せる。
30秒ほどのいつもより短いキス。
たった30秒だけれども、こうやって堂々とキスが出来ることがこれまでのボクらの付き合い方と大きく変わったところだと実感できる。
これまでは派閥争いの関係でボクらは周囲の、特にクラスメイトらの視線を気にしながらの付き合いだった。でも、それも先日で終わった。
ボクらは何の束縛もなしに付き合うことが出来るようになった。
「ボクら、ついに周囲のことを気にしなくても良くなったんだね」
「うん、何だか、今までは隠れてばっかりだったから、逆に堂々とキスするだけでもすごく恥ずかしくなっちゃうね」
「また、ゼロからのスタート…みたいな感覚ですかね」
「うふふ。すでにエッチまで終えている二人がお外デートでゼロからスタートって何だか違和感ありまくりだね」
「そうですね…。あ、じゃあ、こういうこともしてもいいんですよね。はい、あ~ん?」
ボクはスプーンにメロンのかき氷を取り、遊里さんの口元に持っていく。
「もう! 本当にそれやるの!? マンガの世界だけだと思ってた」
「いや?」
「意地悪なんだから! そんなの嬉しいに決まってるじゃない。あ~ん」
遊里さんはパクリとかき氷を口に入れる。
すると、今度は遊里さんがイチゴのかき氷をスプーンに取り、
「じゃあ、お返し! ほら、あ~んして?」
「あ~ん」
ボクは食べようと口を開け、スプーンに顔を近づける。
が、かき氷の載ったスプーンはボクの口から少しずつ遠ざけられる。
「もう、意地悪しないでくださいよ!」
「あはは、だってこれしたかったんだもーん」
再び、やり直し。
ボクは口を開けるが、やはりスプーンは逃げていく。
その時、溶けかけていたかき氷が遊里さんのスプーンから零れ落ちる。
そして、そのまま遊里さんのお胸の谷間にポロッと落ちる。
「きゃっ! 冷たい! って、ええっ!?」
ボクはそのまま勢い余って遊里さんの谷間に顔を突っ込んでしまっていた。
悪意はない。
ただ、かき氷を追っていたらそのままラッキーエッチな展開に恵まれただけ。
ボクはそのまま舌でペロリとかき氷(+遊里さんの谷間)を舐める。
「ひあっ!? も、もう! 他にもお客さんいるんだから! や、やめてよ!」
「ああ、ごめんなさい! つ、つい、かき氷に夢中で…」
「もう、かき氷舐めるついでに私の谷間を舐めるのも止めてよね…。さすがにここでは恥ずかしいからさ…」
公衆の面前でなければOKなのかよ! というツッコミを入れはしなかった。
が、遊里さんもちょっとしてほしいという感覚があるのか、顔を赤らめているものの怒ってはいなさそうだった。
「もう、本当にエッチなんだから…隼は…」
「その言葉、そっくりそのまま遊里にもお返ししちゃうよ」
「もう! 減らず口を叩く~。さっき舐めた分、お金取っちゃうわよ!」
「じゃあ、これからは舐めなくていいの?」
「――――――!?」
ビクリと硬直してしまう遊里さん。
顔を俯き加減で、「うぅ~~~~」と唸りながら固まること、30秒。
「さっきのことはなしで…。これからもよろしくお願いします」
「うむ、良きかな良きかな。円満に解決だね」
「ちょ、ちょっと! 何で私だけが謝ってるのよ…。そもそもはさっき、胸に顔を突っ込んできた隼が悪いのに…。て、今日は何だか私の胸ばっかり口撃されてるんですけど!? おっぱいの厄日!?」
「いやいや、気持ちいいんだったら厄日じゃないと思うよ」
「ねえ、隼がやってるって自覚ある?」
遊里さんはボクの方をジト目で睨みつけてくる。
ボクは朝のことは本当に覚えていないから、自覚はない…。
でも、夢見心地でありながら、彼女を気持ちよくさせてあげられるなんて、天才じゃないか?
いや、きっとそんなことをこの場で言えば、彼女は間違いなく憤慨するんだろうけどね。
「ゴメンゴメン、きちんと夜にお相手させていただきますから♪」
「朝から何てエロいこと言ってくるんでしょ、ウチの彼氏は…」
「でも、嫌いじゃないでしょ?」
「え!? あ、う、うん…。大好きです…。もう、本当に意地悪なんだから…」
彼女は耳まで真っ赤にしながら、残っている溶け残りのかき氷を口の中に流し込んだ。
ボクはそんな彼女の頬に軽くキスをした。
吸い付くような白く綺麗な肌に――。
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