第82話 初めてのお外デート
今、ボクと遊里さんは駅に向かって歩いている。
ボクは青の麻の半袖ポロシャツに黄土色のズボン。
遊里さんは水色のギンガムチェック柄のワンピースを着ている。足元は歩きやすいようにサンダルシューズを履いている。
「あの…朝はゴメンね…」
ボクは素直に謝る。
でも、ボクには本当に記憶のないことなんだけどね…。
「べ、別に気にしてないから大丈夫よ。わ、私も楓ちゃんと吹っ掛けたのがいけなかったんだし…。たとえ、寝ているといっても、隼にハーレム状態とか言いながら遊んでいたわけだし、そのまま私が攻められちゃったわけだから、私も悪いわよね」
「あはは…。でも、本当にボク寝ぼけていたんだね。全然記憶がないよ」
「記憶のない人に5回も…。あの後大変だったんだからね…」
そりゃそうだろう…。遊里さんはエッチだから…。
実際、楓がいるからということで、やらなかったようだ。
まあ、賢明な判断だと思う。
ただ、あの後の食事の前から楓の様子がちょっと変だったんだけど…。どうかしたのかな…。
何だか、よくわからないことを言っていて、ボクと目が合うと顔を真っ赤にして自室に戻っていったんだけど…。
「と、とにかく、あの攻め方は…これからもたまにはしてほしいかな…」
と遊里さんはボクの耳元で囁くのであった。
うん、根っからのエッチな女の子になっちゃってるね…。
まあ、お互い好き者同士だから仕方ないんだけどね。
そんなことより、今日は一日、遊里さんとお外デートの日だ。
実は付き合って3か月目にして初めてだったりする。
図書館で勉強などを一緒にしてきたけど、それはあくまでも身を隠しながら付き合い続けるということから、どうしようもない状態だったところは確かだ。
こうやって堂々と外を一緒に歩きながら、デートをするということ自体がそもそも初めてだったりするのである。
ボクらはそれだけでも実は新鮮味があるのである。
もちろん、手は絡めるような恋人繋ぎだ。
今日は宝急アイランドで一緒に一日を過ごすことになっている。
どうやら、チケットは橘花さんからもらったみたいで、優待制度付という何やらお得感があるらしい仕様になっているようだ。
翼からチラッと聞いた話だが、橘花さんと翼の二人は、付き合いだして3日目にして、宝急アイランドに遊びに行き、そしてそのままホテルで一夜を明かしたらしい。
しかも、その時にお互いの初めても味わったようだ。
翼が恥ずかしそうに語っていたが、結構、乗り気だったようで、初めて同士なのに何回もシてしまったらしい。
橘花さんも遊里さんが予想した通り、なかなかの好き者で、大いに乱れていたようだ。
これまでの最悪の相性が真逆に相性最高とかちょっと驚いてしまう。
どう考えても、公衆の面前でするような話ではないことをボソボソとボクらはしながら、駅に到着した。
さすがは日曜日ということだけあって、人通りが多い。
雑踏の中には高校で見たことのあるような顔も見つけたが、デート中ということもあるので、敢えて今は無視を決め込んだ。
電子定期券にある程度金額をチャージしてあったので、そのまま改札を抜ける。
宝急アイランドに行く電車は、ラッピングそのものがアミューズメント部門が提供しているもので、車両ごとに色々と仕様が変わっていて凝っていた。
「前に妹と行った時よりも、列車の仕様が変わってるね」
「あ、確かにそう言われるとそうかも…。この辺のセンスって凜華が好きなのよね…。結構色々と意見も出しているみたいだけど…」
「へえ、まだ高校生なのにすでに経営にも参加しているんだ…。それは凄いことだよねぇ…」
「だから、今日のチケットも手に入れやすかったの♪」
「ところで、その優待制度付ってのが凄く気になるんだけど…」
「まあ、私も実際のところはどんな優待を受けられるか知らないんだよねぇ…」
「え、そうなんだ…。それは色んな意味でドキドキだね…」
「うん。それに凜華から事前に行く日を必ず伝えるように言われててさ」
「日時指定でないといけないとなると、何かしら準備も必要なことなんでしょうか…」
ボクが少し心配そうに言うと、遊里さんはボクの方にニッと笑い、
「まあ、心配することないわよ。普通に行くだけでも十分に楽しめる宝急アイランドなんだから、それ以上に何かしてもらえるってだけで最高に喜ばしいことじゃない?」
「そう言われるとそうですね。ボクが心配し過ぎなのかもしれませんね」
「そうだよ! きっと楽しいことが待っていると思えば、どんな苦難でも乗り越えられるさ!」
「いや、宝急アイランドは楽しいものが多いので苦難はないかと…」
「あはは…。まあ、そう言われればそうだね。私もあそこのお化け屋敷はちーっとばかし怖いけど、それ以外は楽しめていたからね」
「ああ、あのお化け屋敷ですか…。あれ、本気でヤバいですね…。楓が死にかけていましたよ」
「ひぃっ!? もしかして、隼ってそういうの大丈夫な人?」
「ええ、大丈夫ですよ? 一緒に回りますか?」
「うーん…。今日の私のプランには入ってないから…。今回は…いや、永久にパスしたいです…」
遊里さんが顔色を少し青ざめさせながら、ボクにお願いしてくる。
あ…、怖いんですね…。
ボクはスッと手を遊里さんの肩に回すと、そのままグッと抱き寄せる。
「え…?」
「たまにはこういう大胆なことしてもいいかなって…」
遊里さんの頬は段々と赤くなり、耳まで赤くなってしまう。
ボクらは外でのデートは初心者。
初心者だからこそ、周りの視線があると、どうしてもいつも通りにすることができない。
ビクビクしてしまう…。
「わ、私はすっごく嬉しい…。何だか、隼にエスコートしてもらえてる感じで…嬉しいよ」
「ずっと思っていたこと言っていい?」
「え? うん、どうしたの?」
ボクは真っ赤に染まった彼女の耳元に口を近づけ、
「ボクの彼女ってホント可愛いな」
「――――――!?」
彼女はポンッと音を立てるように顔が真っ赤になり、ボクの方に恥ずかしそうにしながら、目を合わせ、
「それ…ズルいんですけど……」
そう上目遣いでボクに少し怒ってきた。
本当にボクの彼女は可愛い。
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