第77話 キッチンズ ラブ♡
ボクと遊里さんは小一時間ほど、イチャイチャしていた。
エッチはせずに、キスをしたり、抱きしめたりという甘々なひと時を過ごした。
イチャイチャしている姿をスマートフォンで写真を撮ったり、キスの動画まで撮った。
遊里さんが何に使うのかは知らないけど。
「うふふ…。今の動画をみんなが見たら、バカップル認定ね」
「それは止めてくださいよ…。単にバカップル認定ならばいいんですけど、彼女がいない男たちからしたら、嫉妬の炎で焼き殺されちゃいますよ。それでなくとも、遊里のファンは多かったんですから」
「みたいねぇ~。でも、そんな私は君にゾッコンだったってわけ~」
遊里さんは少し意地悪く微笑みながら、ボクの首筋に腕を巻きつける。
ボクの目の前には再び、可愛らしく微笑んだ美少女の顔が迫る。
「隼は私のものだもの。誰にも渡さないんだから…。たとえ、妹の楓ちゃんであってもね」
「あはは…。すごいマウントを取るね」
「当然よ。私だって、告白するときにすっごい勇気が必要だったんだから…」
「でも、感謝しています。ボクは告白する勇気は本当になかったので…」
「もう、本当に陰キャなんだから!」
「ごめんなさい」
「でも、私たちっていいバランスが保たれているわよね」
「そうですね…。ボクもこのバランスが気に入っています」
「うふふ…。私、隼のこと大好き♡」
「ボクも遊里のことが大好きです」
ボクの言葉に反応したのか、遊里さんは少し頬を赤らめながら、ボクの唇に自分の唇を少し触れさせた後、絡みつくようにキスをしてきた。
さっきから、こんな甘々な感じが続いている。
妹が見たら、家出してしまいそうなイチャラブぶりだ。
時計はそろそろ16時を指そうとしている。
ゆっくりと夕食の準備を始めてもいい頃合いだ。
「じゃあ、そろそろ…」
ボクが起き上がろうとすると、遊里さんはボクのズボンに手を掛けて、
「ナニしてくれるの!?」
「ナニはしません…。夕食の準備をするんですよ」
「あはは…。冗談よ。さあ、思い出のミックスグリルを作りましょう!」
ボクらはエプロンを付けると、2人でキッチンに立ち、手分けをして作業を進めていく。
みじん切りにした玉ねぎを炒め始めると、バターのいい香りが立ち始め、食欲をそそってくる。
遊里さんはボクが筋を抜いたエビに小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせ、パン粉で優しく包んでいく。
いんげんも下処理をしたものを、遊里さんがオリーブオイルの敷いたフライパンで軽くソテーをしてくれる。
ボクはその間に、一口サイズにカットしたニンジンを水の入れた鍋に入れて、火をつける。
グラッセづくりだ。
柔らかくなってくるのを確認して、バターと砂糖を入れて、水分がなくなるまで煮込んで味を付ける。
挽き肉に炒め玉ねぎ、ナツメグを入れて、粘り気が出るまで
それをパレットに並べて、布巾をかぶせて、冷蔵庫に保管する。
楓が帰ってきたら、それを焼いてあげて熱々を出そうという計画だったりする。
デミグラスソースにも挑戦したけど、これがなかなか苦戦した。
覚えているのは、ボクの記憶と舌のみだ。それを頼りに味付けをしていく。
1時間半ほどかけて、準備を済ませる。
「これで下準備は終わりましたね…。本当にありがとうございます」
「ううん。気にしなくてもいいよ。私も一緒に料理出来て楽しめたし、色々と任せてもらえて嬉しかったよ」
「そうですね。遊里がいたからすごく戦力になりましたよ」
「ありがとう。そう言ってもらえる嬉しいな。ホント、隼は本当に教え上手だよね…」
「そんなことないですよ。本心で言っただけですから」
「そこが好きになっちゃうんだって…」
ボクにはそこが『どこ』なのか分からなかった。
でも、遊里さんが喜んでいる姿は嬉しい。
「あ、でもそろそろ楓ちゃん帰ってきちゃうね。私がいるとまた争いの基だから、先に帰宅させてもらうわ」
「そ、そうですか…? 別にいてもいいのに…」
ボクは残念そうに伝えるが、遊里さんは少し怒った表情をすると、
「もう、そういうところは鈍いんだから…。今日は妹に尽くしてあげるんでしょ? 妹の近くに女の影があったら、楓ちゃんもしっかりと隼に甘えられないんだから、今日は私は先に帰るの! でも、明日はいっぱい甘えさせてもらうわ!」
「あはは…。覚悟しておきます」
「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!」
「もう、そのまんまの意味でとらえていただいて結構ですよ」
「一応、言っておくけど、明日は宝急アイランドに行く予定だからね~」
「ええ!? チケットはどうするんですか?」
「んふふ! じゃじゃーーーーん! ここにカップル入園券がありまーす!」
言って、彼女はそのチケットを堂々とボクの前で見せてくる。
「でも、それって少し早めに入園できる専用パスでしょ? 何で持ってるんですか!?」
「まあ、凜華にお願いしたら、貰えたのよ」
ボクは見逃さなかったぞ、遊里さんの頬を伝う汗を…。
きっと、脅したんだろうな…。
「まあ、そういうわけだから、学校に行く時間と同じくらいに迎えに来るからね!」
「あ、はい。分かりました」
「私は明日も楽しみにしてるんだから! じゃあ、今日は節度を守って楽しんでね♪」
「う、うん。常識の範囲内で妹をもてなしてあげるよ」
「ま、敢えてどんなもてなし方をしたのかとかは聞かないことにするつもりだから…。さすがに家族の問題だろうからね。でも、ライン越えはダメだからね」
「はい。分かってるよ…。そこは自分でも分かってるから…」
「じゃあ、私は一足先に帰らせてもらうわね。家族団欒のひと時をお楽しみくださいな」
「今日はありがとう」
ボクがお礼を言うと、遊里さんはエプロンを折りたたんでダイニングテーブルにそっと置き、リビングを後にした。
さあ、いよいよ妹の楓をもてなす時間だ。
ボクは両手で顔をパンッと叩くと、気合いを入れ直して、準備の続きを行うのであった。
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