第75話 夫婦のようなお買い物

 駅前の商店街にあるスーパーまでボクは遊里さんと一緒にやってきた。

 もう少し郊外にまで行けば、大型のショッピングモール内にもスーパーが入っているが、駅前のスーパーはそれなりに地域密着で頑張って価格競争もしてくれている。

 だから、地元住民はショッピングモールにはデートやファミリーで出かけるときに使用し、普段使いの食料品や日用品の買い物に関しては、地元スーパーで十分事足りるのである。


「いらっしゃいませ~」


 まあ、唯一の問題と言えば…。

 買い物かごやカートの整理をしていた店員姿の女性がこちらを見る。


「あれ? 神代さんじゃない」

「え? あ、どうもこんにちは…。柏木さん」


 店員の制服を着こみ、前にはエプロンを付けていたのは、同じクラスの柏木ひなのさん。

 陽キャ勢の一人で遊里さんとも仲がいい。

 とはいえ、まさか地元のスーパーで会うとは…。


「ひなのさんってここでバイトしてるんだ?」

「うん。ほら、ウチらの学校、バイトの規制があんまり厳しくないやん? だから、ここで働いてるねん」

「へぇ~、何か欲しいものでもあるの?」

「うーん。まあ、そんなとこかな…?」

「へぇ~いいなぁ…」

「いいなぁ…言うたら、今日はでお買い物?」

「ちょ…!? 夫婦って…!」


 遊里さん、リアクションが大きすぎます!

 そんなに顔を真っ赤にしちゃったら、もっと弄られちゃいますよ!


「うふふ…。冗談で言ったのに、そこまでのリアクションが返ってきちゃったら、こっちが恥ずかしくなっちゃうやん」

「じょ、冗談でもそういうことはナシにしてよ!」

「うふふ…。神代さんは素直で可愛いなぁ…。清水くんもこんにちは」

「どうも、こんにちは」


 柏木さんははにかんだ笑顔でボクを見つめると、


「よう見たら、清水くんって優しそうな顔してんなぁ…」

「あ、あげないし、貸さないわよ!」

「そんなに警戒せんといてや。ウチがパクつくことはないって…。すでに神代さんが食べちゃってるんやろうからなぁ…」


 ええ、そりゃもう…。今日も朝から5回ほど…。


「な、何が言いたいのよ…ひなの…」

「まあ、面前では言えるようなことちゃうし、遊里の肌艶から言うたら今朝も…。まあ、ええわ。仲良く買い物していきやぁ~」

「何か引っかかるわね…」

「うふふ、気にしたら負けやで…」

「じゃあ、我が道を行かせてもらうわ」


 それはご勘弁ください。

 ボクが死んでしまいます。

 ボクは買い物かごを柏木さんから受け取ると、一足先に店内へと流れ込む。


「ああっ! 待ってよ、隼~」


 遊里さんは一足遅れて、ボクの後ろに付いてくる。


「ひなのって人の恋バナ好き過ぎなんだよね…」

「あはは、みたいですね…。あっちも仕事中なのに、物凄く絡んできてましたものね」

「まあ、この辺も学校の子がいるのは当然だから、こうなることも想定しておかなきゃいけないんだろうけどね…」

「毎回、さっきのような対応していたら、いくら時間があっても足りませんよ」

「本当ね…。時には流すことも必要なのかも…。でも、何だか無視してるみたいで可哀想だからさぁ…」

「まあ、それは同意しますけどね…」


 ボク達は早速、野菜コーナーに行く。

 遊里さんは朝の話を思い出しながら、話し始める。


「そういえば、ミックスグリルに付け合わせがあったんじゃないの?」

「ええ。すごくシンプルですよ。ニンジンのグラッセといんげんのソテー、カントリーカットされたタイプのポテトフライですね」

「ポテトフライは既製品でいいの?」

「ええ、少しずつ思い出してきたんですけど、ポテトフライは既製品で、グラッセとソテーだけはそのもので作られていましたよ。えっと、ニンジンはまだ残っているので、いんげんを少量買うことにします。余ったら、明日の夕食に胡麻和えとして出せますし…」

「そうやって明日の分まで考えて材料が買えるのが凄いよね…。あんまり廃棄だしてなさそうだもん」

「まあ、確かに無限にあるお金じゃないですから、勿体ないことをしたら怒られますよ。だから、使う分だけを購入して、それを新鮮な間に食べることにしています」

「私も見習わなきゃ、結婚した後に隼に怒られちゃいそう」

「まあ、あんまり考えすぎないことが大事ですね」

「え、そうなの?」

「ええ、前にもお話したと思うんですけど、レシピのレパートリーの中から、何となく引っ張り出してくるんです。どうしても、ある料理にしか使えないような食材だったら、残さずにその日のうちに使い切ることを考えて、購入する分量もそれ相応のものにしておくと廃棄は出ませんよね」

「うん、確かに…」

「もしも、他の食材として使えるような食材であれば、そこそこの分量を購入しても良いと思うんですけど、でも、それでも二人暮らしだと余る可能性もあるので、できれば少ない目の方が良いかもしれませんね。足らない場合は、他のものでメインディッシュをもっていけばいいんですから。その方が品目が増えて喜ばれるときもあります」

「うーん。考え方がポジティブね…。サクッとその辺の転換をして見せれる隼の脳が凄いよ…」

「遊里も慣れればできるようになるって。お弁当を作るのも上手くなってきているんだから」

「実はあの日は結構頑張ってるんだよ。は、隼に負けたくないから」

「凄く美味しくいただけてますから、安心してくださいね」


 ボクがニコリと遊里の方を見ながら微笑むと、遊里は少し恥ずかしかったのか、俯いてしまう。

 髪から出ている耳が赤くなっているのが、見えてその恥ずかしさが伝わってくる。


「ハンバーグ用の玉ねぎも家にあるので、次はお肉のコーナーに行きますかね」

「ああ、もう、待ってよぉ~」


 ボクらは、その後も新婚夫婦のような会話をしながら、夕食用の材料を購入した。

 ちょいちょいひなのさんが商品棚の陰からボクらの方を見ているような気がしたんだけど、たぶん偶然だと思っておこう。

 保冷用のエコバッグに商品と氷を袋に入れたものを一緒に詰めて店を出た。

 そこで、遊里さんがボクの空いていた左手を握ってくる。


「ほんのちょっとの時間だけ付き合って!」

「え? う、うん…」


 そう言うと、彼女はボクの腕を引っ張るように商店街のあるお店に入っていった。



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