第74話 懐かしい味の再現。

 ダイニングテーブルを挟んで、ボクと遊里さんがお見合いしている。

 遊里さんは肩ひじをつきながら、ボクをジト目で睨んでいる。


「ふーん…。そんな夢見てたんだ…。さすがに彼女の私としてドン引きだわ」

「あ…。やっぱり怒りますよね…。ごめんなさい」

「私がリアルに起こしに来なかったら、そのまま妹と夢の中でベッドインしていたってことになるんでしょ?」

「あ、はい…。まあ、そういうことになりますね…」

「むむむ…。許せないわ…。こんなに可愛い彼女がいてるにもかかわらず、妹で用を足そうとするなんて…!」

「いや、そもそもそんな関係まで行ってないから!」


 まあ、夢の中だとは言え、浴室で妹に一発抜かれているなんてここで言ってしまったらおしまいだ…。

 ボクは顔を少し青ざめながら、遊里さんに向かって謝罪する。


「もう一発搾り取っておいたら良かったかしら…」


 うげ。そんな怖いこと言わないで…。

 すでに朝から5発抜かれてる。ボクの溜め込んであったものはすでに空っぽ…。

 さすがにこれ以上されたら、赤い液体が飛び出しそうだ…。


「遊里ってサキュバスみたい…」

「ちょ、ちょっと! 人を単なるエロい悪魔みたいに言わないで! 隼が嫉妬させるような夢を見ているのが悪いのよ!」


 まあ、確かにそう言われるとそうなんだけれども…。

 それに遊里さんがサキュバスというのは、当たらずとも遠からずって感じがするんだけど…。

 朝からヤリまくった結果、遊里さんのお肌は艶々に潤っている。


「とにかく、妹とのそんな夢は絶対にダメ! そういう関係もダメよ! て、何でそんな夢見ちゃったのよ…」

「うーん。たぶん、妹から、今日帰宅したら、慰労してほしいとお願いされちゃったからでしょうか…」

「慰労とエロは、音も含めて何となく似ているけど、全然違うことだと思うわ」

「遊里、キリッとした真顔でそういうこと言わないで下さいよ」

「まあ、冗談が冗談じゃなくなっちゃうからね…」

「で、妹と夢のようなことを実際にするのはさすがに…」

「私が断固阻止するわ! 何なら、今日、見張ってあげてても良い!」

「いや、大丈夫ですから…。妹も少しブラコンが出てしまっているようで…」

「つまり、私が隼を占有しまくった結果、楓ちゃんのブラコン魂に火がついてしまって、お兄ちゃんに淫夢を見せるほどの能力を付けたってわけね。これは凄いわね…」

「いや、遊里、どこまで本気でどこまで冗談なのか分からないんだけど…」

「私はいつでも本気のつもりよ! てか、まあ、淫夢はきっと隼がしたらなさ過ぎて、願望が出てきちゃったんだろうから、その点は私がちゃんとケアしてあげないといけないとして…」

「いや、遊里の思うがままのケアされちゃったら、ボクの下半身は死に絶えるよ…」

「ちょっと、それは言い過ぎだから…。まったく、黙っててよ!」


 遊里さんは頭から湯気を出しながら、顔を真っ赤にして怒っている。

 あれ? 怒ってるの? それとも恥ずかしがっているの?


「まあ、とにかく楓ちゃんの慰労をしてあげたいってわけでしょ?」

「うん」

「どうして、私に相談しなかったのよ! 私も女子なんだから気持ち的には同じ考えを持てると思ってるし!」

「あはは…何だか申し訳ない気がしてね…」

「もう、そんなところ、他人行儀っぽくしなくても良いんだよ! 私は隼の彼女なんだから。もう、十分にお釣りを渡さなきゃダメなくらいもらえるものはもらったから、一緒に考えてあげる♪」


 あれだけやれば、一応、お釣りが発生するんだ…。


「あ、でも、この服装だと、隼がムラムラしちゃったらマズいから、着替えてくるね」

「あ、はい。行ってらっしゃい」


 まあ、確かにムラムラする可能性もあるけれど、まずは回復時間をもらえないと、ムラムラすることすらできない。

 もう、搾り取るものすらないってことを彼女は分かっていない!?



 遊里さんはほんの5分ほどで、ワンピースに着替えてきた。

 涼し気な水色を基調とした色彩だ。

 ついでに白のトートバッグを肩に掛けている。


「さてと、では楓ちゃんを慰労する会の会議を開きたいと思いまーす」

「いぇ~い、パチパチ……」

「隼、本気でやる気あるの?」

「あ、ありますよ! 本気でやらないと、妹は拗ねるときは本気で拗ねるんですから…」

「うわ。ヤンデレの属性も含んでるの?」


 ボクはコクリと縦に頷いた。

 ああ見えて楓はヤンデレ属性だと思う。

 少しでも落ち込んだりすると、この世の終わりのような負の感情を外にまき散らすのだから…。

 陰キャな瑞希くんとどの点で意思疎通が出来たのか未だに謎めいているくらいだ…。

 

「で、話を元に戻して…。まずは夕食は何にしようと考えているの?」

「まだ、あんまり考えてなかったです…」

「楓ちゃんの好きなご飯って何かないの?」

「うーん、そうですねぇ…」

「子どものころから一緒に食べた懐かしいものとかさ…」

「あ………」

「あるの?」

「ええ、ありますね…。と、言っても一緒に食べに行った思い出ですけど…」

「うーん。まあ、それでもいいんじゃない? で、メニューは何なの?」

「洋食屋さんのミックスグリルですね」

「へぇ…すごくシンプル」

「そうなんです。実は、ボクと楓の両親がたまに日本に帰ってくるんですけど、その時に昔一緒に食べに行ったんです。初老のおじいさんとおばあさんの二人で経営されているこじんまりとしたお店で、1日5組までしか予約が取れないお店だったと思います」

「何それ!? 利益関係なしって感じ?」

「まあ、赤字ではなかったと思いますよ。何度か行きましたから…」

「そこのハンバーグとエビフライのセットが美味しかったんです。ハンバーグにかかっているデミグラスソースもすごく深みのある美味しさで、エビフライもタルタルソースが店主の自家製でこれも美味しかったんですよ…」

「確か、奈良に行った時も隼ってハンバーグとエビフライのランチを食べたときに、すごく嬉しそうな顔してたものね…」

「あ、気づいてました? ボクも、このセットが好きなんです。ただ、これを再現するとなると結構大変ですねぇ…」

「え…、どうして?」

「いや、もうそこの店主は亡くなられて、お店を畳まれたんですよ」

「あ、そうなんだ…。再現が難しいの?」

「全く同じものは無理だと思います…。ボクの記憶も若干曖昧だから…」


 すると、テーブルにバンッと両手をつき、遊里さんが立ち上がった。

 表情からは大真面目な顔をしているのが分かる。


「それよ! その洋食屋さんのミックスグリルを再現しましょう!」

「ええ!? 本気ですか!?」

「私はいつだって本気よ! 私も作るの一緒に手伝うわ! もちろん、楓ちゃんが帰宅する頃には、私も帰宅することにするわ…。大事なミックスグリルだもの♪」


 ボクはふふっと笑ってしまう。

 遊里さんは怪訝そうな顔をしてボクを睨みつける。


「な、何よ! 何か変なことを私が言った?」

「ああ、ごめんなさい。そういうわけではないんです。いつもボクが言ったりしたりしていることを今日は遊里が率先してやってるなって…。何だか、遊里もボクに似てきたのかな…」

「ちょ、ちょっと何よ、それ! 別に私だって人のためになることに動くことだってあるのよ!」

「ああ、ごめんなさい。そういうつもりで言ったんじゃないんですよ」

「いつも隼ばっかりにさせてるから、たまには私からも行動してあげたいと思っただけ!」

「ボクは、すごく嬉しいですよ。遊里」


 ボクがニコリと遊里に向かって微笑む。

 遊里は顔を真っ赤にして、目を逸らす。


「じゃ、じゃあ、一緒に買い物に行く?」

「ええっ!? いきなりですか!?」

「うん。だって、夕食の買い出しも必要なんでしょ?」

「そうですね…。じゃあ、買い物に行くことにします」

「じゃあ、早速行こっか!」

「ちょっと遊里、待って!」

「ん? どうしたの? 何か忘れもの?」

「あ、はい…。その、エナジードリンク飲んでからでいいですか…」


 ボクは冷蔵庫からエナジードリンクの「レッド・モンスター」を取り出して、ゴクリと一本飲み干した。

 あぁ、生き返るように力がみなぎってくるよ…。

 ボクはエナジーを取り込んだうえで、灼熱の太陽が降り注ぐ、外へと出ることにした。



―――――――――――――――――――――――――――――

作品をお読みいただきありがとうございます!

少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。

評価もお待ちしております。

コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!

―――――――――――――――――――――――――――――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る