第72話 妹は兄を悩殺したいらしい。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
ガチャッ
鉄の扉が重い音を立てて、閉まった。
楓が部活に出かけた…。
ボクはそれを確認すると生あくびをする。
先週のテスト勉強兼テスト指導×2名の疲れが取れていない。
「さてと、もうひと眠りしよう…。今日は妹の慰労会をしないといけないけど、昼からの行動でいっか…。たまには午前中はぐーたらさせてもらお…」
ボクは洗濯機にセットしておいた洗濯物が仕上がっていることを確認すると、それをベランダに干して、再び自室に移動する。
そのままベッドに倒れ込む。
スマートフォンを確認すると、まだ時間は8時ごろ。
少しくらい寝ても誰にも文句は言われないだろう。
ボクはすぐに寝息を立てて、意識が深い闇に引きずり込まれた。
ボクはいつの間にか外に出かけていたようだ…。
あれ? これって夢なのかな?
ボクは自分の手のひらを見てみる。手を握って感触を確かめてみる。
何だかよく分からない感触だった。
夕方の雑踏の中を、買い物袋を提げて、商店街を抜けていく。
そうだ。今日は楓の慰労会だったっけ。
ボクは足早に自宅に急いで帰る。
マンションに着くと、ポケットから鍵を取り出し、玄関を開錠…あれ、されてる。
ドアは開錠されたままになっていた。
あれ? ボク、確かに閉めてたはずなんだけどなぁ…。
「ただいま~」
「あ、お兄ちゃん!? おかえり~。帰宅早いね!」
声の主はリビングの方から話しているようだ。
もちろん、声の主はボクが一番聞きなれた妹の楓のものだ。
「あれ? 楓も帰ってたの?」
「うん! あ、ちょっと待ってね」
「え?」
嫌な予感しかしないんだけど…。
少し待たされ、リビングから出て来たのは、メイド服を着た妹だった。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ええっ!? 楓、何してんの!?」
「今日はあなただけのメイドでございます。食事になさいますか? お風呂になさいますか? それとも私になさいますか?」
うん。自動的に3番の選択肢はなくなるね!
ボクは少し考えて、
「じゃあ、食事にしよっか」
「かしこまりました。では、こちらへ」
メイドの楓はボクをダイニングテーブルにまで、手をそっと繋いだまま、案内してくれる。
ボクは唐突なことで、目が点になったまま席に座らされる。
そこにはすでに出来立ての食事が並んでいた。
ハンバーグにエビフライ、カニクリームコロッケまでついている。
付き添えの野菜もあり、豪華なプレートメニューだ。
「「いただきま~す」」
ボクはメイド姿の楓と一緒に食べ始める。
うむ。美味しい。
妹はいつの間にか料理の腕を磨いたということなのだろうか。
ボクは目の前の食事に舌鼓を打ちながら、味を堪能させていただいた。
ボクはそこで不安になっていたことを楓に訊いた。
「ねえ、もしも、食事じゃない選択肢を選んでいたらどうなったの?」
「ん?」
「いや、帰ってきたときに言ってたじゃない。食事かお風呂か私って…」
ボクがそう訊くと、楓はふふふと意地悪な笑みを浮かべて、ボクを覗き込むように顔を近づける。
ノースリーブのメイド服だから、楓の豊かな膨らみ二つが今にも零れ落ちそうな状態になる。
だが、本人は全然気にしていないようだけど。
「お風呂は当然、一緒に入るよ~。で、もしも私を選んだら、コースを選べるよ」
「え…。コース制なの?」
「うん。全身もみほぐしリラクゼーションコース、お胸でオイルマッサージコース、身体全てを使った血流活性コース…あ、あと…お兄ちゃんの好きにしちゃっていいコース♡」
いや、最初のコース以外すべて卑猥だろうが!
言ってて恥ずかしくないの!?
てか、彼氏いるのに、ブラコンMAXになるとこうも自分が見えなくなっちゃうの、ウチの妹は!?
「うーん…。どれもヤバいね…」
「はぁ~い、どれもヤバいことになっておりま~す♡」
平然とにこやかに同意する楓。
ボクは頬を冷や汗が流れ落ちた。
ボクらはご飯を食べ終えると、楓は食器をササッと片付けて、ボクの目の前に立つ。
「では、続いてはお風呂でございますね♡」
「ええっ!? 3択じゃなかったの!?」
「もちろんでございます! 先ほどの3つを順にしていくのです!」
「いやいや、それは色んな意味で問題です…」
「お兄ちゃん…。私とお風呂に入るの……、いや?」
上目遣いで少し目尻に涙を浮かべるようなウルウルした瞳で、ボクにお願いしてくる楓…。
うわ。さすがにこれは悩殺…いや、瞬殺される。
「お兄ちゃんとは小学生までは一緒に入ってくれていたのに、中学生になってから入ってくれてないじゃない…」
「普通の家族はもっと早く入らなくなるものだとボクは思います…」
「ええっ!? そ、そうなの!?」
「そういうものです」
「ウチの家は普通じゃないの…」
「そういうエロアニメ的な展開は止めなさい!」
「うぬぬぬ…。こんなに可愛い妹メイドに好き放題してもらえるという煩悩を曝け出せるチャンスだというのに、お兄ちゃんはどうして私と一緒にお風呂に入らないの!?」
「そっくりそのまま、そのセリフから自分の身に危険を感じてるから!」
「別に減るもんじゃないじゃん! ちょっと出たところで、どうせまた再生産されるんだから」
えっと…。ナニの話?
ナニが再生産されるんだろうか…。
うーん、やっぱりナニですかね…。て、最初から自己解決してるじゃん!
「さ、お風呂に行きましょ~」
ボクは反発しようとしたが、身体に力が入らない。
(何で…!?)
楓に腕を引っ張られるとそのまま、お風呂場に連れていかれるのであった。
あれ…。体がふわふわしている違和感がある…。
何なんだろう…これは……。
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作品をお読みいただきありがとうございます!
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