第71話 私の考えはおかしいらしい。(清水楓side)

「せーんーぱい! 楓先輩、おはようございます!」


 茜ちゃんはいつも通り元気いっぱいに私に挨拶をしてくる。

 いつも本当に笑顔が素敵な子だとつくづく思わされる。

 どうしてこんな素敵な女の子に、彼氏ができないのか謎で仕方ない。


「あ、おはよー、茜ちゃん」


 学校が休みの日の部活動は朝早いというのもあるけど、茜ちゃんと一緒に行くことが多い。

 まあ、それは私と茜ちゃんの住んでいるマンションが同じというところに起因してることも多いのだが。

 聖マリオストロ学園の部活動は規律が厳しく、部活動関係の行き帰りも絶対に制服でなければならないという規定ルールがある。

 部活動指定のジャージで活動したいところなのだが、そうはさせてくれない。

 だから、いくら暑い今の季節であっても、薄ピンクの半袖のワイシャツと濃い紺色のギンガムチェック柄のスカートを履いて登校しなくてはならない。


「今日も暑いねぇ~」

「本当ですよね、先輩。早く学校に着いて、泳ぎたいです」

「茜ちゃん、プールはお風呂じゃないんだからね…」

「もちろん、分かってます。でも、外を歩くのはもはや苦痛でしかないですよ…」

「確かにそう言われるとそうよね…。この暑さは…」


 まだ、朝7時だというのに、駅前の温度計は29℃を示している。

 暑すぎるなんてもんじゃない…。

 午後は35℃を超える陽気になると朝のニュースで言っていたけど、本当に死者が出る暑さが最近は連日続いている。

 改札を超えて、着た電車に乗り込む。

 ひんやりと冷えた車内は汗を引かせるには十分な涼しさだった。


「ところで、今日、どうかしたんですか? 先輩」

「え!? 何で?」

「いや、何だか嬉しいことでもあったかのような表情をしているんで…」

「え? 顔に何か出てるの…?」

「ああ、はい。何だか、ちょっぴりニヤついているような気がしたんです。まあ、私の誤解ならスミマセン」

「あはは…。まあ、いいことがこれからあるって感じかな…」

「あれ? そうなんですか? 瑞希先輩ですか?」

「ううん。瑞希は関係ないよ。瑞希はテスト結果が出るまでは、あんまり会ってくれないんだよね…。この間、私が首席を取ったのがかなり悔しかったらしくて、絶対に見返してやるって言ってたから、月曜日の結果が分かって以降になるかなぁ…」

「あ、そうなんですね…。何だか先輩の恋愛関係って難しいですね…」

「そう? うーん。そうなのかもしれない…」

「じゃあ、他の理由ってことは…。隼さんに何かしてもらうんですか?」


 私の耳元で、コソコソと茜ちゃんが言ってくる。

 まあ、私の交友関係で言うと、そうなるんだろうけど、どうしてすぐに気づいちゃうかなぁ…。


「うん。まあ、そういうこと…」

「へぇ~、テストの結果が出てないですけど、何かしてもらえるなんて優しいお兄さんだなぁ…」

「まあ、今回のテスト勉強は結構頑張ったからね。慰労会みたいなものかな…」

「なるほどね…。それは大事ですね。何でもやりっぱなしは良くないですからね。やったら、次のステップに移る前にしっかりと自分を褒めたたえないとモチベーションが続きませんものね…」

「まあ、そういうこと」

「で、何をしてもらうんです?」


 私はそこで人差し指を顎に当てる素振りをして悩む。

 茜ちゃんはそんな私を見て、『?』が頭の上にいっぱい並んでいるような顔をする。


「まだ、決めてないんですか?」

「ううん。美味しいスペシャルな晩御飯を用意してもらうことは約束したんだけど、その続きを昨日話していたら、曖昧に終わっちゃったからね…」

「あれ? そうだったんですね…。ちなみに楓先輩は何を頼んだんですか?」

「うーん。一緒にお風呂に入ってほしいって」

「ええっ!? それ、本当にお願いしたんですか!?」

「ええっ!? ダメなの?」

「まあ、さすがにこの歳になると兄とお風呂に入るのはいささか問題があるような気がしますが…」


 周囲の目を気にして、茜ちゃんは私にコソコソと話しかけてきてくれる。

 お兄ちゃんとお風呂に入るってそんなにマズいことなの!?

 今までずっと一緒に入ったりもしていたから、正直驚いてしまった。


「実際、血が繋がっているわけじゃないですか…。だから、その…恋愛関係にはなれないわけですよね?」

「うん、まあ、そういうことよね」

「で、それを無視してやってしまうと完全にライン越えな気がするんですけど…」

「そんなにマズい?」

「まあ、さすがに…」

「でも、約束しちゃったから…。て、ゆーかお兄ちゃんが最近、遊里先輩とイチャラブしすぎで何だかムカつくから、つい…」

「あぁ…心中お察しいたします。どうやら日曜日デートらしいですよね」

「そうなの! しかも、お兄ちゃんが誘ったみたいなんだけど、行き先は遊里先輩が決めるみたい…。きっと、最後はホテルでパッコパコするのよ…きっと! きぃぃぃぃっ!!」


 私が周囲を気にせず、奇声を上げる。

 茜ちゃんは、急いで私の口を塞ぐ。


「せ、先輩! うら若き聖マリオストロ学園のJCがそんなこと言っちゃダメです! それにウチのお姉ちゃんをビッチと勘違いしている発言は止めてください! さすがに怒りますよ」

「あぁ、ゴメン…」

「お姉ちゃんも隼さんとのエッチはしたりするみたいですけど、まだまだ恥ずかしいみたいですよ。でも、隼さんの喜んでいる顔を見るために、恥ずかしさを我慢しているってこの間、そんな話を聞いちゃいました」

「姉妹で凄い話するのね…」

「まあ、お互い好きモノですから…。それにお姉ちゃん、今度のデートはさすがにホテルに行かないと思いますよ。だって、付き合い始めてから、ようやく初めての外でのデートですもん」


 あ、そっか。

 お兄ちゃんと遊里先輩って、クラスのややこしい関係で今まで自宅デートしか出来てないんだよね…。

 まあ、そうなりゃ、日曜日のデートを無碍むげにしてあげるのは可哀想だな…。


「まあ、楓先輩のご家族のことですから、一緒にお風呂に入るのは構いませんし、その点に関しては、お姉ちゃんには喋りませんけど…」

「けど……?」

「まかり間違って、一線超えたら、犯罪ですからその点だけは理解して行動してくださいね」


 すごく茜ちゃんに念を押すような言い方をされてしまった。

 そ、そうよね。

 私とお兄ちゃんじゃあ、ライン越えはダメだもんね。

 まあ、お兄ちゃんもその点は記憶が確かなら、超えさせてくれないだろうから、安心してお風呂に入っても問題は起きないと断言しても良いと思う。

 とにかく、私が羽目を外さなきゃいいだけだから!



―――――――――――――――――――――――――――――

作品をお読みいただきありがとうございます!

少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。

評価もお待ちしております。

コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!

―――――――――――――――――――――――――――――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る