第70話 妹は兄と一緒に……。

「で、お兄ちゃんは妹のこの私をねぎらうわけでもなく、遊里先輩とのイチャイチャを優先するの!?」

「ええっ!? それって何か間違えてるの!?」


 ボクはご飯を咀嚼し終えると妹の言葉にツッコミを入れる。

 遊里さんとの濃厚なキスの後、ボクらは帰宅し、少しばかりボクの家でイチャイチャした…。あ、誤解のないように言っておくけど、セックスはしてない。

 本当に抱きしめ合って、見つめ合って、キスをする…という甘々な時間を堪能した。

 そして、妹が帰宅する時間を見計らって、遊里さんが帰宅し、夕食を作って妹と食べているときに、土日の予定を話した時の妹の反応がこれだったのだ。


「うーん。ボクは土日のどちらかを遊里とのデートの日にしたいって言っただけじゃないか」

「そうだけど、妹としては労ってほしいの!」


 鼻息荒く、ボクに圧をかけてくる楓。

 どうしちゃったんだろう…。まさか、瑞希くんと喧嘩でもしたのかな…。

 いや、きっとブラコン症候群が出始めてるんだろう…。

 今回のテスト対策では、楓の隣に座って事細かく教えてやったし、変に距離を縮めてしまったからなぁ…。


「じゃあ、土曜日に慰労会をしてあげるよ…。といっても、それほど豪華なことをすることはあんまりできないけどさ…」

「じゃあさぁ…。お兄ちゃん、お風呂一緒に入ってよ!」

「ええっ!?」

「それほど驚くこと?」


 さも当然のように表情をする楓。

 ボクは開いた口が塞がらない状態。

 なんで、こうも対照的な反応をしているんだろうか…。


「だ、だって、ボクらは血が繋がっているんだよ!?」

「ええっ!? 確かに繋がってるけど、一緒に入ってくれることもあったじゃん!」

「いや、あれは、まだ小さい頃でしょうが…。楓が小学生だったから、一緒に入ってあげたんだよ…」

「そ、そんな…。お兄ちゃんは私が中学生になったら、お風呂にさえ入れてくれないのね!?」

「いや、それとこれとは違うと思うよ…」

「もう、意地悪だな! とにかく、私は労わってほしいの! 土曜日は一緒にお風呂に入って、一緒に寝てもらうからね!」

「ええっ!? なんか条件増えてない!?」

「とにかく、そういうことね。じゃあ、日曜日は遊里先輩とイチャラブデートしてきてね~」

 そういうと、楓は食事を終えて、食器をキッチンの流しに片付ける。


「じゃあ、私、お風呂先に入るね…。明日も朝から部活だから」

「うん。分かった。明日は昼食はお弁当にする?」

「うーん。土日は別にいいよ。茜と一緒に学食でも食べることにするわ」


 ウチの学校は土日も部活動で学校に来ている子が多いことから、学食を開いてくれている。

 もちろん、従業員の数は減っているけど、メニューは平日同様にセットメニューまであるのだから、驚きだ。

 そこでボクは違うことが気になり、きわどい質問をしてしまった。


「え? でも、水着着てるのに…。わざわざ着替え直すの?」

「何それ? そんな面倒くさいことするわけないじゃん。そのまま行くよ」

「ええっ!? だって、水着着てるでしょ…」

「ああ、そういうことか…。あのね、お兄ちゃん、わざわざ言いたくないけど、オリンピックとか水泳の大会の選手の服装見たことないでしょ?」

「うーん、あんまりないかも…」

「もう、これだから…。お兄ちゃんは私の大会とかもあんまり応援来ることないもんね…」


 確かにボクはあまり妹が出場する大会に見に行っていない。

 それは別に他の用事があるからというわけではなく、妹に過度なプレッシャーを与えるとまずいと考えているからだ。

 別に楓を無視しているわけでない。


「あのね、お兄ちゃん、水着の上に長袖と長ズボンを履くの…。だから、水着のままで行くわけないじゃない…。そんなので言ったら、学園の男どもに盗撮されたり、いやらしい目で見られたりして大変だよ」

「でも、それを知ってしまうと…」

「何、お兄ちゃん、水着で襲われたい性癖でもあるの?」

「断じてない!」


 ボクは即答する。

 そんな変な性癖あるわけがない! それに妹の水着姿だぞ!?

 そういうことを考えること自体が犯罪臭がするじゃないか。

 けれども、即否定されて妹は面白くない。


「むぅ~、お兄ちゃん、私にだって中3になって色気もほんのりと出てきてるんだから、そこは即否定じゃなくて、少しは興味がありそうに思ってほしいものね…」

「あはは…。さすがに兄妹だからね…」

「別に色気に関してはそんなに足りないとは思えないんだけど…」


 そう言いながら、スカートをヒラヒラとさせる。

 フワッと浮いた瞬間に下着が見え隠れする。

 楓は無意識で恐ろしいことをしてるよな。もう少し自分に自覚を持ってほしい…。

 楓の色気はほんのりではなく、ガッツリと出ていることに…。


「ま、明日はお兄ちゃんから癒してもらえるから、別にいいわ。じゃあ、お風呂、先に行ってくるね~」

「はいはい」


 ボクは食器を片付け、妹がお風呂を上がるまで、ぼんやりとスマートフォンを眺める。

 LINEで遊里さんとのトークを表示し、デートの日について結果を報告する。

 すぐに既読がつき、返信があった。


『日曜日ね、OK! 楽しみにしておくね~。私もちょっと行きたい場所とかがあるから、行く場所に関しては私に任せてもらってもいい?』


 ボクは、『いいよ~』と返信する。

 すると彼女から可愛いスタンプで「ありがとう!」と返ってきた。

 明日の妹の提案について敢えて言わなかった。

 いや、そもそも楓がどこまで本気か分からないから、どう判断すればいいのか分からなかった。

 ボクはスマートフォンをリビングのテーブルに置き、少しだけ目を閉じる。

 期末テストの一週間は本当に心身ともに辛かった。

 お風呂に入る前に少しでも体の深い部分の疲れを少しでも癒したかったのかもしれない。




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