第63話 妹との外食 with 彼女

 ボクと遊里さんは今一緒にリビングで横並びに座らされている。

 目の前には仁王立ちになっている妹・楓がいる。

 まあ、正直言うと、ボクが悪いんだけどね…。


「お兄ちゃん? 遅くなる時はLINEしてって言ってたよね?」

「あ、はい…」

「それと食事もすべてお兄ちゃんに任せていて悪いとは私も思うけど、私はテスト前でも関係なく部活動は行われているわけなの…」

「あ、はい…」

「晩御飯が遅くなるなら、ぜひ言って欲しかったなぁ…」

「うう…ごめん…」


 でも、どうして遊里さんがボクの横で一緒に怒られているかというと…。


「で、遊里先輩はどうしてここにいるんでしょうか?」

「えーっと、今日はウチの家族が全員で食事に行く予定だったんだけど、私がそれを全く忘れてて、学校で勉強していたので…。食事にありつけないので、こちらのお宅にお邪魔していたわけです…」

「ふーん。で、妹が帰ってくるまでお兄ちゃんと一緒にイチャイチャ、チュパチュパしてた、と?」

「あ、はい…ごめんなさい…」


 遊里さんもシュンと萎れている。

 まさか、家に帰宅後、そのままキスになだれ込んでしまうとは思わなかった。

 しかも、玄関入ったところで。

 それを帰宅してきた楓が見てしまったのだ…。

 ああ、何てタイミングで帰ってくるんだよ!


「で、ちなみに晩御飯だけれども…」

「えーっとまだできてません…」

「もう、お兄ちゃんしっかりしてよ! もちろん、お兄ちゃんも大学受験とかいろいろあるだろうから勉強が優先されるのは当然だけれど、私のスタイルや筋肉はお兄ちゃんの整った食事で作られてるんだからね!」

「あ、はい…」


 うう。何度目かの「あ、はい…」だよ。

 もう、何度目かなんて数えてないよ。


「遊里先輩もウチの家だからって、キスとかセックスとかしていいわけじゃないんで…。もう、玄関でするなんて止めてくださいね! そのうち、玄関でセックスとかしだしたら、それ単なる変態カップルですからね!」

「う、うん。変態カップルは嫌ぁ~。セックスはちゃんと隼の部屋かお風呂場でする~」

「いや、そういう問題じゃなくて…。節操をわきまえてやってほしいってことです。あとウチの家はブティックホテルじゃないんで…。いつも、あんな艶やかなお声を出されても困ります。ウチにもご近所付き合いがありますので…」

「あ、はい…」


 楓にも聞かれていたと思うとたまらなく恥ずかしくなる。

 二人とも顔を赤らめて俯いてしまう。

 だ、だって仕方ないじゃないか!

 遊里さんの身体を見てしまうと、ボクの身体の奥底から素直に力が盛り上がってきて、下腹部が熱くなっちゃうんだから!!


「お兄ちゃんもきちんと考えておかないと、そのうち、成績下がっちゃうよ」

「あ、大丈夫大丈夫。さすがにテスト一週間前はそういうことしないから」

「あ、そうなんだ。でも、隣の人はそう思ってなかったみたいよ…」

「ええっ!? 遊里!? さすがに一週間前なんだから雑念と煩悩は捨てて取り組まなきゃいけないでしょう!?」

「そ、そうよね…。ああ、私ったら…。ちょうどストレスたまるとムラムラしちゃうから、たまにはいいかなぁ~なんて思ってないからね!」


 ボクと楓は遊里さんを顔を引きつらせながら見るしかできなかった。

 この人、付き合いだしてから変わったなぁ…って。


「で、話は変わるけど、晩御飯どうするの?」

「うーん、ありあわせのもので作るか、今日は外食にするかって感じかな…」

「ねえ、隼、今回は私たちが悪いんだから、外食にしましょ。とはいえ、今の時間帯からだから、近くのファミレスでいいでしょ? 楓ちゃん」

「うん。いいよ~♪」


 外食(しかも奢り)と聞いて、テンションを上げてくる妹。

 明らかに狙われていたような気がしなくもない。

 明日からは家でちゃんと作ることに専念して、そのあと遊里さんのイチャイチャに付き合ってあげることにしよう。



 マンションから数分の所にあるファミレスに着くと、店員にボクたちは席に促された。

 楓は気分が高まっているのか、ウキウキしながらメニューを眺めている。

 と、いっても、スタイルや筋肉のことを考える楓のことだから、サラダやチキンステーキのページを見て喜んでいるようだ。

 ボクらは定番のハンバーグステーキのページなどを見ている。


「じゃあ、そろそろ頼んじゃおうか…。私、お腹減っちゃったぁ~」

「いいよ。店員さん呼んでも」

「あ~~~い」


 楓はすごく気分が良くなったようだ。

 店員はボタンを押すと数秒でやってきた。このシステム、いろんな店で導入されているけど、本当に店員がやってくるの早いよなぁ…とボクは感心して店員を見る。


「私は、この大盛シーザーサラダとチキンソテーのオニオンしょうゆソースでお願いします」

「遊里は?」

「えっと、私はハンバーグステーキとエビフライのディナーAセットでお願いします」

「ボクは、牛タンを使ったビーフシチューのディナーBセットで」

「では、ご注文を繰り返します。大盛シーザーサラダがお1つ。チキンソテーのオニオンしょうゆソースがお1つ。ハンバーグステーキとエビフライのディナーAセットがお1つ。牛タンを使ったビーフシチューのディナーBセットがお1つ。以上でよろしいでしょうか」

「はい」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 そう丁寧にお辞儀をすると、店員は別のテーブルに向かっていった。

 平日であまり客が多い方ではないが、時間が時間なだけにそこそこ席は埋まっている状態だった。


「ところでさぁ…。お兄ちゃんたちって本当にラブラブよね」

「え? どうして?」


 ボクが訊き返すと、楓はコップに注がれた水を一口飲んで、


「だって、この席に案内された時に、何も言わずに二人で隣同士で座ったじゃない。座り方のパターンとして、私と遊里先輩が一緒に座るってことも出来たわけじゃない?」

「ボクが楓の横はないの?」

「お兄ちゃん、それは鈍すぎるよ。そんなこと、遊里先輩が許してくれるわけないじゃん。一時期はお兄ちゃんを狙っていた妹なんだよ。そんな要注意人物の横にわざわざ隣同士にするわけないじゃん。ねえ? 遊里先輩?」

「え!? べ、別に私は晩御飯の時とかだけならいいよ。そ、その…一緒にお風呂入るとか一緒に寝るとかは許せないかもしれないけど…」


 まあ、一緒にお風呂に入るくらいはあったりするけど、バレなきゃいいかな…。

 バレたらお仕置きが怖そうだけど…。


「何か、横にいることが当たり前な感じになって来てるよね?」

「まあ、確かにクラスの問題が解決してからは、結構学校でも横にいること多いかも…」

「それはきっと、楓ちゃんが中等部で瑞希くんと一緒にいてるのと一緒よ!」

「えっ!? 何でそこで瑞希が出てくるんですか?」

「ふふふ。茜から聞いてるのよ。最近は結構、校庭でも一緒に笑顔を振りまきながら歩いているって。でも、すごいよね。凜華が言っていたけど、瑞希くんってほとんど感情を表に出さない子だったんでしょ? それが何で楓ちゃんの愛の力があれば、そんなに変われちゃうのかしら…」


 遊里さんの言った『楓ちゃんの愛の力』というパワーワードに一瞬で打ちのめされる楓。

 顔を真っ赤にしながら、ボクたちの方を見ると、


「きっと、感情表現がしにくい家庭環境だったんですよ。ほら、瑞希って御曹司だから、跡継ぎのための教育とか色々されていたみたいです。でも、彼としてはそういうのが嫌だったみたいで、逃げ出したかったようなんです。生徒会長も面白くなければ、途中からは惰性でやってもいいかぁ…みたいな感じで。でも、副会長が私だったので…」

「楓ちゃんにメロメロにされちゃったの?」

「ゆ、遊里先輩!? 話が飛躍しすぎです!

 そんなんじゃないです。私だったので、逆に最初はもっと話をしてくれなくて…。でも、私がしつこく話しかけたり、定期テストで彼を追いついたりして、無理やり意識させ始めたっていう感じなんですよ。で、生徒会室で二人きりで仕事していた時に、私、ちょっと眠っちゃって、その寝顔見られちゃったんです。それまではキリッとした言動をしていたんですけど、すっごく焦っちゃってアタフタしていたら、彼が初めて微笑んだんです。もしかしたら、私も構えていたから話しかけにくかったのかもしれないですね。だから、彼の前では私も素の自分をさらけ出すようにしたんです。そしたら、先日、告白されちゃって……」

「まあ、断ることはないわよね…。そこまで意識させてたということは、楓ちゃんも好きだったんだろうし…」

「あう…。まあ、そうですね…」

「で、その数日後に茜に見られちゃったってことね…?」

「あれは本当にやっちゃいましたね…。私たち二人とも周囲のこと忘れちゃってて、今でも思い出すと恥ずかしいです…」

「まあ、しっかりと繋がってるとこ見られちゃったんだからね…」

「遊里先輩、その言い方止めてください。セクハラで訴えますよ」

「ああ、ごめんごめん。怒気含んでるよ…。まあ、お似合いだと思うよ。私が見ていても二人とも容姿端麗、才色兼備。将来子どもが生まれたら、どんな子が生まれるのか気になっちゃう!」

「かなり先の話だね…」


 ボクはたまらずツッコミを入れる。

 こんな早く子どもが出来たらだめでしょ。

 それでなくとも、二人は先日のお泊まりでも何度かヤってるみたいだし…。

 そんな楓の恋愛話を聞いていたら、頼んだ商品が届く。


「「「いただきま~す」」」


 ボクたちは届いた食事に舌鼓をうつ。

 遊里さんはボクの頼んだビーフシチューが気になっている様子。


「ちょっと食べてみますか?」

「え? いいの?」

「ええ、いいですよ」

「お兄ちゃん、遊里先輩に対して優しすぎ~~~。ぶ~~~!」


 楓がボクに対して抗議をしてくる。

 とはいえ、楓は夜の外食では、基本的にサラダとグリルチキンと決まっているので食べられない。量は食べるんだけどね…。

 そんなことを気にせずに遊里さんはボクのビーフシチューをスプーンに一掬ひとすくいして口に運ぶ。

 何も言わずに目を閉じて、その美味さを実感しているように身体をプルプルと震わせている。

 それを見て、楓はジト目でボクの顔を見てくる。

 うーん。やっぱり怒ってるなぁ…。

 やっぱりボク達の普通って他の人たちから見たら、イチャイチャしているだけにしか見えないんだなぁ…。

 まあ、止めないけど…。

 また、楓と二人きりになったら、甘えてきそうだなぁ…。

 そう思いながら、ボクは自身のビーフシチューの味を楽しんだ。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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