第59話 凜華お嬢様は見られてる!

「もう、私の部屋に戻ったのは、こういうことをするためじゃありませんのよ」


 私は翼から唇をはがすと、少しムッと頬を膨らませて言った。

 社会見学の初日は問題なく終了した。

 すでに夕食も取り終え、みんながホテルの館内でお土産物を見て回ったり、温泉に浸かったりとそれぞれが羽を伸ばしている。

 就寝時間は22時30分だ。だいたい、22時くらいから徐々に先生方の見回りが始まる。

 それくらいまでには、生徒は徐々に部屋に引いていくであろう。

 今はまだ20時30分。

 まだまだゆっくりと時間がある。

 明日の相談もしたかったから、翼を自室に招いた。

 他の子たちはミーティングの話をすることを話したところ、快く部屋を開けてくれた。本当に助かりますわ。

 部屋に入るなり、翼は私の唇に重ねてきたのだ。

 最近は社会見学のことでお互い気が高ぶっていたから、あまり恋人同士の行為…といってもまだキスだけだが…それも行っていなかった。

 だから、こうやって『好き』を確認したくなる気持ちもわかる…。


「でも、まずは話し合いをしないと…」

「話し合いが終わるころには、他の子が帰ってきちゃうからだよ」

「ふふふ…。まあ、確かに言われればそうですわね…」


 私は翼の言葉にはなぜか弱い。

 逆らえないわけではないんだけど、どうしても逆らいたくなくなってしまう。

 私は翼の首の後ろに手を回し、再びキスをする。

 久しぶりの蕩けるような口づけ。

 翼は強引だけれど、でも、とても優しく私の腰を抱き寄せ、サポートしてくれる。


「「…ちゅちゅ…ちゅぱちゅぱ…れろれろ……」」


 舌を絡ませ、お互いの唾液がいやらしく絡み合う。

 最近、こういうキスをすると、心がキュンッとすることがある…。

 私は翼に身を任せながら、濃厚なキスを繰り返す。


「つ、翼…」

「…ん? なあに?」

「私、最近、濃厚なキスをするたびに心がキュンキュンというする違和感がありますの…」

「それってさぁ…。感じてるんじゃないの…?」

「や、やっぱり、そうなのかしら…」

「触ってもいい…?」

「え…でも、まだお風呂に入っていないから汚いですわ…」

「ん~、あんまり気にしない…」

「そ、そこは少し気にしてほしいですわ…」


 翼は私を優しく抱きしめ、そして、私とキスを交わした。

 何だか身体がふわふわする…。


「だ、大丈夫か? 凜華…」

「う、うん…」

「もしかして、初めてだったのか…?」

「と、当然ですわ…。あなたが初めての人なんですから…」

「そうだったな…。俺も初めてだから、色々と分からなくてごめんな…」


 翼は力の入らない私を抱き起してくれて、そのまま抱きしめてくれた。

 そして、軽い口づけをした。

 翼、メッチャ優しいし、カッコいいじゃないの…。

 だけど、翌朝にまさか…あの人たちに見られてしまうなんて…。



 翌朝、朝食後、私と翼は中庭の少し陰になっているところで、キスをしていましたの。

 だって、私、翼のことが好き過ぎて、はしたない女になってしまっていましたの♡


「朝から…ちゅぱ…エッチね……翼は……」

「ふん…。嫌がらない…れろちゅぱ…凜華もな……」


 お互い抱きしめ合って、熱くキスをしあった。

 舌も絡めて、朝からはしたないキスをした。

 昨日もそうだったけど、気持ちのいいキスをしていると脳がビリビリと刺激されて蕩けていきそうになる。

 閉じていた目を開くと視界がぼんやりとだが見えてくる。

 何か人影を感じる…。

 ん…? あそこに見えるのは…遊里……?

 ついにキスで脳まで侵されて、クラスの友人の姿まで見えて…。

 あれ? 隣にいるのは、清水くん…?

 て、これって現実!?


(み、見られてる!?)


 私は翼に訴えるために身悶えするが、がっちりと抱きしめられている私の抵抗は虚しくなるほど無意味だった。

 いや! いやぁっ! 遊里たちにメチャクチャ見られてますわ!


「ん~~、ん~~~~~~!?」


 私は唇を剥がそうと必死になる。

 翼が私の訴えに気づいてくれ、唇を離す。

 私は顔を真っ赤にしながら、翼に訴えた。


「翼、見られてますわよ。遊里と清水くんに!」

「え!? うわっ! 本当にいる!?」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 私は半泣きになりながら、恥ずかしさのあまり翼の胸に顔をうずめた。

 て、しまった…。こんなことしたら、もっと怪しまれるだけなのに…。


「り、凜華…ゴメン。私たち決して覗こうと思っていたわけではなくて…」

「じ、じゃあ…何でこんなところにおりますの?」

「あはは…まあ、ちょっと散歩っていうか…」

「で、どうしてその散歩に清水くんが一緒に、しかも手を繋いでおられますの!?」


 そう。私の前で覗きをしている遊里は清水くんと手を恋人繋ぎなんかにしている。

 まさか、お二人の関係って……。


「かなり仲が宜しいようですわね…。その辺たっぷりと―――」

「私が聞かせていただきましょうかね…。凜華?」


 突如、遊里の背後に現れた人影…。

 全く気配感じなかったんですけど!?

 そこには雪香が腕組みをして仁王立ちをしていた。


「先生は来ないよ…。私が遮ってきちゃったから…」


 雪香はニヤリと意地悪く微笑みながら、私たちの前に近づく。

 私の顎をくいっとつかむと、


「アイツらはもう付き合ってるの…。そうね、見ての通りラブラブよ…。昨日の夜もキス三昧だったようだし…。で、凜華のほうはどうなのかしらね…」

「ひぃっ!?」

「事情聴取、始めるわよ……」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 集合時間までの短い間、ホテルの中庭が取調室となり、私たちは洗いざらい喋らされた。

 も、もう恥ずかしすぎて死んでしまいそうですわ…。

 私は、遊里、雪香、清水くんの班に同行することにした。余計なことを喋らないか監視するために。

 心配するほどのことでもなく、彼女たちは他のクラスメイトに話すことはなかった。

 でも、遊里たちも私たちの言い争いが原因で、学校で辛い思いをしていることを知らされた。

 まあ、地元に戻って、やることやっているみたいですけど…。

 い、いやらしいですわ…!!

 聞いちゃうと、私たちも意識してしまうじゃないの…。

 まあ、翼も初めての恋愛だから、手探りで進めて行ければいいの…。

 私たちには私たちのペースってものがあるの!

 それはさておき、クラス内でのわだかまりを解消させなきゃいけない気持ちはさらに強くなった。

 社会見学が終われば、週末も迎える。

 週明けにクラスのみんなと話が出来れば、そんな思いがこみ上げてきた。

 この闘争は終わりにしますわ…。

 誰も得をしない闘争なんですもの…。




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