第60話 凜華お嬢様は告られたい!

 社会見学は無事に終わった。

 まあ、色々とプライベートな面では問題がありましたけど…。

 で、週末の日曜日を迎えた。

 私は今日も翼と一緒ですわ。

 な、何が悪いですの!? 今日は単にお疲れ様会として一緒に宝急アイランドに来ているだけですの。

 まあ、無論、我が家が経営しておりますから、私にとってはある意味福利厚生的なサービスを受けることができますの。

 オープン1時間前から、パーク内で一緒に遊び始める。

 昨晩はパーク内にあるホテルに一緒にお泊まりをしましたわ。

 すっごくロマンチックな夜景を一緒に見て、そのまま一緒に夜を迎えましたの。

 あ、でもどんなことがあったかは言いませんわ。

 いえ、言えませんわ!

 まだ付き合い始めて…、その…3日しか経っていないのに、も、もう……。

 ああ! 今思い出しても、恥ずかしいですわ…!

 翼もまさかすごくヤル気になってしまっていたのは予想外でしたわ…。

 お互いの温もりを感じながら、たくさんの愛を感じあいましたわ。

 そして…改めてプロポーズをしていただけましたの。

 私は右手の薬指に付けたリングを改めて見つめる。

 高校生だからってことでそれほど高いものではないけれど、お互いのリングをパーク内のお店で購入しましたの。

 

「ふふふっ…」

「どうしたんだよ? いきなり笑って」

「ううん…。何でもない。まだ付き合い始めて4日目なのに、私、凄く幸せだなって…」

「改めて言うなって、こっちが恥ずかしくなるだろ!」

「そうね…。ごめんなさい」

「そ、それにしても今朝は身体、大丈夫なのか?」

「え!? う、うん…。大丈夫ですわよ」


 翼が少し照れて訊くのを見て、私は何のことを心配してくれているのかに気づき、私も顔を赤らめながら返事をする。

 昨日、お互いの初めてを迎えて、ゲームでは経験豊富と言えども、リアルな面では経験のない翼が心配してくれたのだ。

 私自身が通常よりも出血が多かったことも心配してくれているのかもしれないが、別に今はなんてことはない。

 別に身体に不調をきたしているわけではない。

 むしろ、私は初めてののちに、朝まで二人とも生まれたままの姿で抱きしめ合いながら一緒に布団で夜を明かしたことの方が少し恥ずかしさを持っていた。

 朝起きたときに翼が私の寝顔を見ていたようだったから。

 遊里が言ったとおりだわ。

 私の方がエッチだったみたいですわ。否定する気はなかった。

 パーク内で午前中遊んだ後、午後からは関係者のみが入れるプレオープン状態のプールで一緒に遊んだ。

 混雑していないプールで水を掛け合い、戯れるなんてリア充のすることだと悲観的に見ていたのに、それをまさかの自分がやっているなんて、何だか変な気持ちですわ。

 その日は夕方にはお互いが帰路についた。

 翌日から学校も始まるし、社会見学やら何やらで疲れているのも事実だったし。

 それに明日はクラスにとっての大きな変化が生じる日…。

 私は少し緊張したまま、その日はとこに就いた。



 月曜日。週の始まり。そして、私のクラスにとって大きな変化になる日。

 私はいつも通り、学校の最寄駅である『学園前』から、歩いていた。

 周囲の目が少し気になる。

 周囲の人たちが私を必ず二度見してくるから…。

 別に何もおかしいことはない。ただ、髪型がいつもの巻き髪を止めて、ストレートにしているだけ。

 たったそれだけのことなのに、周囲からは何度も見られてしまう。

 教室に入るとさらにその視線は言葉へと変化した。


「ど、どうしたの!? 凜華ちゃん!」

「いつもの巻き髪を止めてみましたの…」

「えーそうなんだー! でも、そっちの髪形も似合うー!」

「うん。何だかお嬢様って感じじゃなくて、可愛い女の子って感じがしていいかも!」

「そ、そうかしら?」


 そう言われると、私もまんざらでもない。

 遊里や雪香も遅れて教室に入ってくる。


「凜華…どうしたの!? なんでいつもの巻き髪止めちゃってるの!?」

「はは~ん。これは男の匂いがしますね」


 二人は私が付き合っていることを知っているのに、そうやってからかってくる。

 私はちょっと顔を赤らめてしまう。

 女子はこういうのを目ざとく見逃さない生き物だったりする。


「えー、凜華ちゃん、カレシできたのー!?」

「マジで? 誰よ、大学の先輩とか…?」

「ち、違いますわ…」

「じゃあ、誰よ~! さっさと教えちゃいなさいよ~」


 私は友人たちの質問攻めに、さらに顔を赤くしてたじろいでしまう。

 友人たちはそれをさらにからかってくる。


「でも、本当に髪の毛をストレートにすると、凜華って可愛いよねぇ~」


 雪香が頬を赤らめながら惚れ惚れと見つめている。

 ま、まさか変な気を起こしたんじゃないですわね!?

 予鈴が鳴り、担任の入山先生が入ってくる。


「さあ、朝礼を始めるぞ!」


 いつも通り、凛とした姿でカッコいい。

 一瞬、私と目が合って、入山先生が吃驚していたようだが、私は気にせず自分の席に着く。

 水を打ったような静けさが訪れ、先生から連絡事項が伝達される。

 期末テストまであとわずかとなり、各教科の準備室及び職員室への入室が禁止されること。質問は質問日を必ず活用することなどが伝えられた。


「では、朝礼はこれで終わりだが、この後、社会見学の実行委員から話があるようだから、あとは任せたぞ、橘花」

「はい。分かりました」


 入山先生はそういうと、出席簿と封筒をもって、そのまま教室を後にする。

 私と翼は教卓に立つ。

 私は業務的な口調でクラスメイトに向かって話し始める。


「皆さん、先日の社会科見学お疲れ様でした。もちろん、まだレポート課題が終わっていませんので、期末テストの勉強含めて、大変かとは思いますが提出期限まで先日の班で取りまとめて提出をお願いいたします」


 そこまで言って、私は深呼吸をする。

 ゴクリと喉に唾を飲みこむ。

 正直、緊張していた。


「あ、あと…話は変わりますが、5月の中頃に私と早乙女くんが原因で、クラスの雰囲気が悪くなってしまったことについてです…」


 クラスの雰囲気が急に変わったように感じた。

 でも、私は頑張って言葉を紡ぎだす。


「あの後、早乙女くんとも話し合いました。今回の社会見学では一緒でしたので、今回のことについてしっかりと話し合いをする時間がありました。そこでお互いの言いたいことなどが理解できました…」

「そして、俺が悪意のある嘘の情報で勘違いしたまま、神代さんを傷つけたことも知りました」


 翼は神代さんの方に行くと、突如土下座をした。

 そ、そんなの私は聞いてませんわよ!?


「本当にごめんなさい!!」

「え!? ええっ!? べ、別にあの時すぐはムカついたけど、今はもう大丈夫だよ…!?」


 遊里も戸惑っている。

 ただ、クラスメイトもあのいい加減っぽい翼がここまで反省しているという気持ちが伝わるには彼の行動は十分すぎた。

 なかなか土下座を止めない翼に対して、遊里は、


「もう、顔を上げてよ。本当に大丈夫だから、私も色々と翼くんたちのことを誤解していたこともあったから、でも、社会科係を一緒にしている関係で、清水くんと話をしていくうちに分かるようになってきたの…。だから、お願いだから顔を上げて」


 遊里は凄く優しい。

 普通だったら恨んでもおかしくないようなことを言われたのに、もういいと、もう許すと言っているのだから。

 翼は立ち上がると、「ありがとう…」とだけ言って、私の横まで戻ってくる。


「あの時は陰キャと陽キャというくくりでお互いが何かを理解せずに勝手な思い込みだけで罵声を浴びせ合ってしまって、最悪の事態となってしまいました。でも、今回の社会見学をきっかけに、お互いのことが少しずつではあるけれど理解できて来たかと思います。これからは文化祭、体育大会…とクラス全員で取り組まなければならないイベントが数多く2学期以降は控えています。私たちは今回の原因を作った者として、反省しております。そこで、私たちはこのわだかまりに終止符を打ちます。簡単に言えば、仲直りをしたいと思います。きっと陰キャと陽キャではまだまだ理解できない壁などがあるとは思います。でも、それはお互いの性格などと同じでどこまでそれを受け止められるかだと思います。ですので、ゴールデンウィーク以降2か月間も期間が開いてしまいましたが、これから2年3組を1つのまとまったクラスへと皆さんで前に向かって進みたいと思うのですが、許していただけますでしょうか…」


 私が長々と思いを述べて、クラスはさらに反応しにくい雰囲気になった。

 そこで雪香が陽キャ代表のように口を出す。


「別に私は良いんじゃないかって思うよ。だって、私たちは陽キャだなんて言われているけど、私もスマホでゲームしたりもしているしさ。お互いでこれからだってすれ違いをすることもあると思うよ。でも、それを乗り越えてこそ、クラスが一つになるって感じじゃないのかな?」

「あ、それに関してはボクも同意できるかな」


 百合山くんが陰キャ代表のように一番後ろの窓側の席から話し始める。


「ボクらも陽キャに関してすごくイメージだけで捉えていたような気がするんだよね。でも、それってあくまでボクらが作った想像の中の世界観で実は違うんだなってのを今回の社会見学を通して理解できたことは大きかったかな。もちろん、最初は何ていう班分けなんだって苛立ちがあったけど、今思えば一緒に行動していると普通のクラスメイトなんだってお互いが気付けたよね。いいんじゃないの? 仲直りってことで」


 みんなから次第に拍手が起こり始める。

 みんなの顔は笑顔ばかりだった。上手く行けた。


「良かった! みんなありがとう! 良かったね! 翼!」


 私は目を潤ませながら、クラスメイトに謝意を述べ、そのまま翼に抱きつく。


「り、凜華!? ちょ、ちょっと…、ここでは……」


 あ、しまった…。

 私がそう思った時にはすでに時遅しでしたわ。


「へ~、凜華のカレシって~翼くんなんだぁ~」

「マジかよ、翼~!? どうやって橘花さんをものにしたんだよ!」

「翼くんってイケメンだもんねぇ~」

「凜華お嬢様って意外と面食いなの~!?」


 次々と冷やかしの声が沸き起こる。

 う。すっごく恥ずかしいですの。


「そ、そうですわ! 私と翼はお付き合いを始めさせていただきましたの! み、皆さんも、き、機会があれば、お、お付き合いを始められてもいいのではありませんの? ねえ? 遊里?」

「ええっ!? 何でこっちに振るの!? ちょっと意地悪くない!?」

「だって、遊里もお付き合いされているではありませんか?」


 周囲からは、「マジか!?」「俺狙ってたのに?」「遊里ちゃんの相手って誰なの!?」などと声が上がる。

 陰キャや陽キャが関係なく、恋愛トークに花が咲く。

 いや、恋愛トークではなく、これは単なる冷やかしと男の悲しい敗北が混ざり合っている感じですわね。

 でも、これから2年3組は普通のクラスとして、2学期を迎えることができますわ。

 そして、私もこれから最愛の彼氏と一緒にお付き合いをしながら、人生を楽しませて貰えることに感謝いたしますわ。

 本当に仲直りをしてくれてありがとう。

 それと、翼、心の底から愛してる―――!!



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作品をお読みいただきありがとうございます!

少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。

評価もお待ちしております。

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