第56話 凜華お嬢様は胸キュンしちゃう!
(しまった…やってしまいましたわ……)
私の屋敷の最寄り駅である『学園前』から、学校の最寄り駅である『ひばりが丘』まで3駅ほどの区間で、15分ほどで着く。
で、今の時間は…8時過ぎ。
かなり早く着いてしまいましたわ。
6月末の日差しはかなりキツイ。駅前にまで出てしまうと、30分待つだけでも日焼けしてしまいそうなので、駅のコンコースで待つことにする。
駅のコンコース内に小さな噴水があり、待ち合わせ場所としてよく使われている。
私はそこに縁に腰かけて、待つことにした。
周囲からの視線が何だか気になりますわ…。
今日は髪を編み込みをするのではなく、普通に髪を下ろした状態のまま。
こちらの方がお嬢様感がなくて良いって執事やメイドに言われるのだけれど、私としては威厳というものも必要だと思う。
まあ、こう考えること自体、橘花家の帝王学に洗脳された状態と言えるのかもしれないけれど。
さすがにオフなんだから、オフくらいは髪を女の子らしくしたいとも思ってしまう。
それに今日は早乙女と会うんだから……。
て、何でそこを気にしてんのよ!?
別に早乙女は私の何でもないじゃない!?
あ、でも、今日の服装もちょっと意識しすぎてないかしら…。
今日はギンガムチェック柄のワンピース。
まあ、今の季節にはピッタリじゃない!
あ、でも、肩の部分がメチャクチャ出ちゃっているじゃない! 露出高すぎるかな…。
まあ、大丈夫よね。
今日は普通に、実行委員のことと勉強を教えてあげるだけなんだから…。
少し喉の渇きを潤すために、トートバッグから水筒を取り出し、お茶を流し込む。
スマートフォンを取り出し、LINEを立ち上げる。
トークから『早乙女翼』をタップする。
『早めに着いちゃった…。コンコースの噴水の所で待ってます』
そう打ち込むと、送信アイコンを押す。
すぐに既読が付く。
『メチャクチャ早っ! 迎えに行くから待っとけよ』
と、返信が表示される。
私は可愛い猫のイラストの『OK』というスタンプを送る。
これでよし、と。
家から徒歩10分くらいって聞いているから、もう少しすれば早乙女が迎えに来てくれるに違いない。
私は不安が少し安堵へと変わる。
自分がいつも学校に行くときに下りている駅だけど、今日は私服だし、それにいつもと髪型が違う。
行き交う人たちとも目が合うが、私のことに気づく人もそういない。
たまに高校の知り合いと出会うけど、逆にいつもとのギャップがありすぎて、驚かれるくらいだ。
そんなに違うんだ…、私。
あと少しの待ち時間は、YouTubeでも見て、待つことにしよう。
いつものお気に入りウィングさんのゲーム紹介動画なら、5~10分くらいで終わるから、ちょうど持って来いだ。
ワイヤレスイヤホンを取り出し、耳に付けて再生する。
最新のFPSの紹介だ。
装備をバシバシと変更して、敵陣に突っ込んでいく。
突っ込んでいくのだが、その動きに綻びはなく、相手の攻撃もサクサクと避けながら、アジトらしきところにグレネードランチャーをぶち込む。
敵陣が一気に破壊されると、霧散する敵をショットガンで1発ずつ倒していく。
玉切れになると、タガーを取り出し、切りかかる。
ものの始まって5分ほどで敵陣を壊滅させた。
こんな動き、私にはまだまだ無理。相変わらず惚れ惚れしてしまう。
うっとりと動画を見ていると、私の前に複数名の人影が立ちふさがる。
顔を見上げると、そこには見知らぬ男性が2人立っていた。
どちらもちょっとばかりチャラそうな男。
何かしゃべろうとしているので、イヤホンを外す。
「な、何か御用かしら?」
「ふふふ。気が強そうな女だね、アニキ」
「ああ、そうだな。遊びがいがありそうだ」
クチャクチャとガムを耳障りな音で噛んでいる。
見るからに育ちが悪そうで、すべてから滲み出ている。
「ですので、何か御用かしら?」
「ああ、暇なら一緒に遊ばねーか?」
アニキと言われている茶髪の背高の男が私の手を触ろうとしてくる。
「お生憎様。人を待っておりますので、暇ではありませんの」
アニキの手を払いのけながら、そう応える。
「かなり長い間待ってるじゃん。お友達も来ねーんじゃねーの?」
「そうそう。それなら、一緒に遊べるじゃん」
う…。ちょっとばかり早く来ちゃっただけですの!
てか、どのくらい前から見てたのかしら…。全く。
「もうすぐ来るって連絡がありましたから、ご安心を。生憎、あなたたちと遊ぶ気にはなれませんわ…。もう少し人間を磨かれてからいらっしゃってくださいます?」
「この女言わせておけば!」
弟分が手を上げようとする。
が、アニキに制止させられる。
「おい、殴ったら綺麗な顔が台無しになるだろうがよ」
「そうだけどよぉ…」
「てめぇ、気が強ぇーのはいいけど、力づくで脅迫してやってもいいんだぞ」
「その場合は、私がここで悲鳴を上げればいいだけですわ」
「その前にお前の口さえ閉じてしまえば問題ないさ。まあ、それよりもこの画像、バラまかれたくないだろ?」
男は私にスマートフォンの画面を見せてくる。
私を上から見下ろすように撮った写真だ。
ワンピースから胸の谷間が見えている。きわどいけど、それ以外は見えていない。
とはいえ、エロ画像として流出させられると後々面倒くさそうな画像だ。
「わ、私に何をしろというの?」
「まずは俺たちに付いてきてもらおうかな…」
アニキは私の腕を掴もうとする。
「あ、ゴメンゴメン。待った? 凜華?」
まさか、このタイミングで来るとは…。間一髪セーフでしたわ。
でも、写真データがアイツのスマートフォンの中にある…。
「ん? 誰だおめぇは?」
「え? 俺は凜華の彼氏だけど…? ゴメンね、遅くなっちゃって…!」
早乙女は自分の顔の前で手を合わせて、私に謝ってくる。
「おい、兄ちゃん。今から俺たちがこの女といいことするんだよ…。ほら、この画像をばらまかれたくなかったらな」
「ん? どれどれ? ちょっと今日、コンタクト入れてないから、しっかりと見せてもらってもいですか?」
言って、スマートフォンを手に取り、マジマジと早乙女は見ている。
正直、あんまり見られたくないんだけど…、その写真は。
「へ~、これはよく撮れてんなぁ。盗撮なんで犯罪ですけどね…。あ、消せないようにロック掛けてあるんですね、やっぱり」
早乙女はスマートフォンの画面を両手でペシペシとタップする。
「当り前じゃねーか。脅すために撮ったんだからな…。じゃあ、兄ちゃん、この女は俺らが貰っていくぜ」
「あ、いえいえ、凜華は俺とこれから行くところがあるんで、申し訳ないですが、お貸しすることはできません」
「だから、お前言ってる意味わかってんのか? この画像、バラまいてもいいのか?」
すでに画面には、SNSに画像を添付して送信アイコンを押すだけの状態になっている。
早乙女は「困ったな…」と頭をポリポリと掻いた。
「でも、凜華は俺の彼女なんで、渡すことはできません」
え!?
私の胸が昨日みたいにキュンッとなる。
恥ずかしさがこみ上げてきて、私の顔は真っ赤になる。
バレないようにするために、俯く。
「ったく、聞き分けのできねーバカだな。そんなにバラまいて欲しけりゃ、バラまいてやるよ!」
言って、男(アニキ)は送信アイコンをタップする。
ピィ――――――――――ッ!!
男のスマートフォンから警告音が鳴り出す。
「な、何だよ!」
男のスマートフォンの画面には、『画像にウィルスの感染が発生しました。ファイルの完全削除をすれば、ウィルス削除も実行できます。削除しますか?』のメッセージが表示されている。カウントダウンのオマケつきだ。
「おい! お前、俺のスマホに何かしやがったのか!?」
「何もしてないじゃないですか…、俺は。お兄さんが何か悪いソフトとかサイトを見ていたんじゃないですか? 確か、そのSNSアプリ、最近セキュリティーの面で問題があるって言われてましたしね」
「そ、そんなこと知らねーよ。どうすればいいんだよ!」
「言われている通り、ファイルを削除すればいいんじゃないですか?」
「だけど、ロックが解除できねーんだよ…」
「そう言われても…。俺にはどうしようもねーんだけど…」
カウントダウンはどんどん進んで、3、2、1、0―――。
ピピッとスマートフォンがビープ音を鳴らすと、ファイルが次々とアンドロイドの3Dイラストが食べていく画像が表示される。
食うたびに、アンドロイドのイラストが崩れていく。
そして、最後、画面が真っ暗になって、どのボタンを押しても起動しなくなった。
「お、おい! 動かねー! 何をしたんだよ、てめぇ!」
「だから、俺は何もやってないって…バグか何かでしょ…。お店に持って行って修理してもらいなよ…。じゃあ、俺らはこれで…。今後は俺の彼女に手を出さないでよ」
そういうと、早乙女は私の肩を手でつかみ、抱き寄せる。
呆然としているナンパ男2人を背に、学校へ行くための南口の反対の北口を出て行く。
ナンパ男たちは追いかけてくることはなかった。
てか、何なに!?
早乙女って、こんなにカッコいいの!?
ちょっと…ううん……メチャクチャ見直しちゃったんだけれど!
さっきから、何度も「俺の彼女」と言われて、私はすでに胸のドキドキが限界まで来ている。
この状況で、早乙女の家に行って、一緒に班決めとか勉強とかできるかわかんないわ…。
ったく、何てことしてくれちゃうのよ、この男は!?
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作品をお読みいただきありがとうございます!
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