第55話 凜華お嬢様は認めたくない!
「もしもし、橘花さん? 橘花さん、聞いてる? ちょっと、橘花さん!」
「は、はい!」
私は
どうやら、入山先生に何度か呼ばれていたようだ…。
「橘花さん、どうしたの? 何だかボーッとしてるわよ? 体調でも悪いの?」
「あ、いえ…。そんなことはありません…。至って健康です」
「そう…。何だか顔も少し赤らんでいるから、熱でもあるかと思ったわ…。もし、体調が悪いようなら、ここで話は切り上げるけど、どうする?」
「あ、いえ…。大丈夫です。お話を続けてください」
私はどうしてしまったというんだ…。
先ほど、早乙女に助けてもらって以来、明らかに私自身がおかしくなってきている…。
いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
社会見学実行委員の仕事を全うしなくては…。
「基本的なスケジュールは、今配布した通りね。こちらは佐竹先生がある程度組んでくれているみたいだから問題ないと思うの。そうね…。あとは、クラスの班分けをしないといけないわね。普段であれば、好きなもの同士くっつければ、それでいいんだけど…」
そこで先生は目を細めて、私たちの方を見てくる。
何かを含み持った笑みを浮かべながら…。
「あなたたち…、最近、ウチのクラスで一部の生徒同士で仲があまりよくないことは知っているわよね…?」
「「…えっ!?」」
私と早乙女は一瞬息が出来なくなる。
それほど表立って争っていたわけではないから、先生たちに知られているはずがないと私たちは思っていた。
しかし、入山先生の目は絶対に何かを掴んでいるかのような目をしている。
ゴクリ……
私は唾を何とか飲み込む…。
「その無言の時間からいうと、知ってるっていうわけよね…。それに…他のクラスから聞いた話だと、5月の初旬にあなたたちが朝礼前に言い争っていたそうね…」
ああ、今理解したわ。
この人はすべてを知っているんですわ…。
「あ、あの、あれは……!」
「まあ、いいわ。私は生徒たちの問題にかかわるつもりはないの」
「え……?」
入山先生はふっと口元を緩ませ、席に深く座り、背もたれに大きくもたれた。
私は呆気にとられる。
「だから、あなたたちの問題はあなたたちで解決することなんだから、私たち大人が関与することではないの。もちろん、どうしても関与が必要になるならば、相談に来てくれれば、相談には乗るけどね…」
「「……………………」」
私たちは何も言えなくなる。
まあ、確かに私たちの問題であることには違いない。
そして、別に命にかかわる問題ではないので、先生が絡んでくることはないだろう。
私たち自身で解決しなければならない問題となると、結局は、早乙女と私の問題なのね…。
「さてと、じゃあ、クラスメイトの班分けを考えてもらいましょうかね」
「でも、すでにみんな帰宅していると思うんですけれど…」
私は至極当然のことを言う。
だって、今日は金曜日で明日と明後日は学校は休みでみんな出てこない。
と、なるとみんなの意見を取り合うことは不可能だ。
「そんなの分かってるわよ。先生もバカじゃないんだから…」
「じゃ、じゃあ、どうしろと仰るのですか?」
「決まってるじゃない。あなたたちで考えるのよ。組み合わせを」
「「ええっ!?」」
私たちは気持ち的に引けてしまう。
みんなの意見を聞かずに班分けをするなんて、そんなの絶対に批判の的にされてしまう。
「それくらいあなたたちはやってくれるわよね? 今回の争いの首謀者のお二人さん?」
先生の顔は笑っているが、声には怒気が含まれている。
反論することは絶対に不可能だ。
先生はすべてを知っていたうえで、私たちが実行委員になるように進めていたのだと今、知った。
「条件を言うわね。二つの派閥を織り交ぜて4人1組の班を作ること…。たったこれだけよ」
たったと言う割には、かなり面倒くさい。
派閥を織り交ぜてなんて正直争いのもとだ。
「はい、これ資料ね。担当している係とか部活動のデータが載っているから、班分けを提出するときには一緒にこれも返却してね」
「は、はい。お預かりします」
「で、締め切りは月曜日ね。じゃあ、これで今日はおしまい」
「え? 先生、月曜日って、私たちも話し合う時間がないじゃないですか?」
「あるじゃない。土曜日と日曜日に…」
「いえ、学校に出てきていないんですけど…」
「どこかで話し合うことは可能だと思うわよ。そもそも今回、こんなことになったのは、あなたたち二人のいい争いが原因なんだから、それくらい飲み込みなさい。これは教師からの命令です。反対意見は認めません! 以上!」
名取先生は言い切ると、準備室の自身の席に戻り、書類の整理を始めだした。
もう、最悪―――――!?
何で、休みまで奪われちゃうの!?
しかも、二人で話し合えだなんて…。街中のファストフード店なんかでやった日には、絶対に生徒とか学校の関係者に会ってしまう…。
私と早乙女は、鞄を持って英語科準備室を後にする。
生徒昇降口に来ると、もう誰も残っていないのか、下駄箱は上履きだらけだ。
私と早乙女の靴だけが残っていた。
「ね、ねえ…」
「ん? 何だよ…」
ああ、そりゃ不機嫌になりますわよね…。
明らかに私が巻き込んだようなものなんですから…。
「あの、週末、お時間ありますかしら…。班分けをしないといけませんし…」
「ま、出かける用はないから、別に構わねーけど」
「では、どちらかの家で話し合いを進めたいですの…」
「うーん…。じゃあ、俺の家でやるか? 俺がお前んちに行くのはちょっと引けるし…」
べ、別にそんなの気にしなくてもいいですのに…。
て、私が男性の家に行くことは問題ないって言うですの!?
わ、私、こう見えて男子生徒の家に行ったことなんてないですのよ…。
「わ、分かりましたわ…。じゃあ、明日、どこに行けばいいですの?」
「俺んち、駅の反対側にあるから、駅で待ち合わせでいいよ」
「じゃ、じゃあ、朝の9時に駅でお待ちしておりますわよ…」
「うん、いいぜ。あ、連絡できるようにLINE交換しておこうぜ」
「わ、分かりましたわ…」
スマートフォンを取り出し、LINEのIDを交換する。
表示欄にすぐに「早乙女翼」という文字が出る。
これで連絡が取れるから、明日安心して来ることが出来る。
「つ、ついでに期末テストの勉強もしません?」
「う…。嫌なことを思い出させんじゃねー。やりたい気持ちはねーなー。でも、これ以上点数を落としたら、留年確定路線だなぁ…」
「そ、そんなことになったら、大変じゃない!?」
「まあ、そうだな…。じゃあ、班分けが終わり次第、勉強を教えてもらえれば助かる…」
「よろしくてよ…」
ちょ、ちょっと、どうして私の提案がすんなりと通ってしまってますの!?
さすがに「いやだ、帰れよ!」って言われると思っておりましたのに…。
こ、これは予想外の展開ですの…。
「まあ、明日は両親ともに夕方までいないから大丈夫だぞ」
「そ、そう…。それなら安心して行けますわ」
て、今なんて言いました!?
ご両親がいらっしゃらない!?
そ、それってつまり二人きりになってしまいますの!?
私の心臓がバクバクと早打ちをし始めてしまう。
ひょ、表情に出してはいけませんわ…。
「じゃあ、明日な…」
「ええ、また明日……」
先に昇降口を出て行く早乙女の後ろ姿を私は見つめていた。
私は何を考え、思っているんだろう…と。
私は家に着くと、自身のスマートフォンを眺める。
そこには「早乙女翼」の文字がディスプレイに映し出されている。
私のLINEのIDで初めての男性のもの…。
「あ~~~~~~! 何を考えているのよ!? 違う! 断じて違うわ!!」
私は髪の毛を振り乱しながら、モヤモヤを吹き飛ばそうとする。
何も考えないでおこうとすればするほど、早乙女が私の腕を引っ張って助けてくれたときのことを思い出してしまう。
陰キャとバカにしていたのに、すごく力強かった…。
言い争っている相手なのに、すごく優しく接してくれた…。
キュン………
「――――――!? な、何なの!? 今の胸の痛みは!?」
私の今日はおかしい。自分でもそう思う。
私は制服を脱ぎ捨て、楽なワンピースに着替える。
そのままベッドに仰向けに倒れる。
スマートフォンでYouTubeを開ける。
私もゲームは昔から好きで、今でもたまにはやったりする。
特にお気に入りのゲームプレビュー動画を上げてくれる配信者の方はチャンネル登録をしてある。
最近のお気に入りは、「Wings of MAIDEN channel」のウィングさん。
すっごく丁寧で優しく教えてくれるから、私みたいなど素人のゲーマーであっても、最低限クリアできるように導いてくれる。
それにウィングさんのゲーム紹介はちょっと辛辣だけれど、周囲からもド正論とコメントが溢れたりする。その辛辣さが面白さだったりする。
そんな動画を見て、私は昼のドギマギを幾分か和らいだのであった。
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