第52話 ココチヨサ(2)
肩を揺らしながらの激しい呼吸。
本当に避妊具がなければ、今日、ベイビーが宿る日だったかもしれない。
初めての媚薬だったからだろうか、ものすごく遊里さんは効き目が出ている。
と、いってももしかすると本人にすでに記憶がないかもしれない。
そもそも早苗さんがあんなものを遊里さんが飲める場所に置いていたことがそもそもの問題だ。
遊里さんは、ボクをギュッと抱きしめると、
「私は子どもが欲しいの! これから、隼とずっと一緒にいられるために!」
「でも、まだ高校生なんだから…。ボクもちゃんと結婚できるように準備がしたいんだよ。じゅ、順番は間違えちゃダメだよ…」
「そんなこと言っても…私は隼と離れたくないよぉ…」
ボクは彼女の顔を両手で優しく包み込む。
表情がさっきまでの媚薬に侵されていた時よりも、何だか表情が柔らかくなっている。
もしかしたら、効果が切れ始めているのかもしれない。
「ボクは絶対に遊里と結婚したい…。だから、焦らなくて大丈夫だから…。今はお互い学業にしっかりと励んで、大学に行って、法律で認められる時が来れば結婚しようよ。ボクもずっと遊里と一緒にいたい。だから…」
「だから…?」
「結婚するまでずっと離さない。そして、その時が来れば、きっちりとボクと遊里の子ども作って、幸せな家庭を築こうよ」
「うん。嬉しい…。隼からその言葉が聞けて、本当に私、幸せ! 好き! 好き! 大好き!!」
遊里さんは涙を流しながら、微笑んでいた。
ボクは軽く唇を重ねた。
「あ、ありがと。優しいよね…隼って」
「え? そうですか?」
「うん、自覚ないんだ…。雪香と二人でいるときにも、ちょっと怒られたんだ…。あんたは彼氏にすべてを助けてもらい過ぎているって、自分で何もできてないんだって…。そんなつもりも意識もなかったから、ちょっとショックを受けちゃったんだ…」
「社会見学中にそんなことが…」
「でもね、私も改めて考えたら、確かに隼に色々としてもらえている自分がいてさ…。成績が向上したのも隼のおかげだし、料理を作るのも頑張ろうと思えたのも隼がいたからだし、こうやって心の落ち着ける場所があるのも隼が近くにいるからだし…。何だか、隼って彼氏が出来てから私の生活は凄く変化したんだなって…」
「そんなぁ…褒め過ぎですよ…」
「ううん、これは本当。隼って、すごく私を大切にしてくれているなって、すごく伝わってくるのよね…。私って結構、後先考えずに行動しちゃうときもあるんだけど、隼ってそういうときに私を律してくれる。私に一度止まらせて、何か間違っていることがないかどうかを見つけさせてくれる…。本当に凄いよね…。私、感謝しかないよ…。本当にありがとう」
遊里さんはゆっくりと起き上がり、ボクを抱きしめてキスをした。
さっきの欲望に身を任せたキスではなく、いつもしている愛を確認し合える優しいキス。
ボクらはシャワーを浴びてすっきりした。
ちょっと浴室でもエッチなことをしてしまったけど、それは遊里が可愛すぎて、ボクの本能が負けてしまっただけ。
再び部屋着になって、ボクの部屋に戻ってくると、ボクのスマホが着信音を鳴らしながら、震えていた。
遊里さんは画面を見るなり、着信ボタンを押す。
え―――――っ!? だ、誰からの電話!? こんな夜中に…。
『隼くん! どうだった? そろそろ媚薬の効果が切れてると思うんだけど…』
スピーカーからは能天気な早苗さんの声が聞こえる。
うーん。タイミング最悪だなぁ…。
『まあ、あなたのことだから、ちゃんとキャップはつけたまましてくれたとは思うんだけど…。やっぱり媚薬の飲んだ女の子ってすごいでしょ!? 遊里もすごかったんじゃないかしら…。今回は偶然飲んじゃったんだけど、もし必要なら、分けてあげるわよ! って隼くん、聞いてる?』
「聞いてるわよ…お母さん……」
『え? あれ!? そ、その声は遊里…かしら?』
「そうよ…。最近のスマホって音質が向上されてるんだから、さすがに自分の娘の声を聞き間違えることなんてしないわよね?」
『そ、そうね。まあ、さすがに聞き間違いはしないわ』
「そう、それは良かったわ…。で、私に何を飲ませたって?」
『飲ませたんじゃないわ。私が飲もうと思っていたものを、あなたが勝手に飲んだだけよ』
「そもそも、あのコップ、私が普段使ってるやつじゃん。あんなのに入れて、リビングのテーブルの上に置いてあったら、親切に入れてくれたのかと思うじゃん…」
『そ、そうね…。確かにあなたのコップに入れたのは悪かったと思うわ…』
「わざとでしょ?」
『――――――――!?』
早苗さん…。遊里さんとそっくりです。
ウソがバレそうになった時の反応が。
「私が隼の家に泊まりに行くって言ったから、絶対にヤると思って、飲ませたでしょ!? こっちは大変だったんだから!」
『まあ、凄い効き目ね…。でも、満足は出来たんでしょ?』
「え!? そ、それは…まあ……そうなんだけど…」
『ふふふ。じゃあ、今度はもっと分からないように仕込んでおくわね』
「だから、いらないって! 私たちには私たちのタイミングがあるの! そのタイミングで結婚もして、子作りもするわ! お母さんは余計なことしないで! これ以上したら、楓ちゃんに悪趣味な道具を借りて、お母さんがこっちの世界に戻れないようにしてあげる…」
『え…。楓ちゃんってそんな趣味があるの? 茜は知ってるの? って、何であなた、涙流しながら震えてるの!? 遊里! 状況は分かったわ。私も愛しのダーリンから嫌われることはしたくないから、それだけは嫌…。だから、勝手な真似はしないわ…。あと、本当に今回は偶然が重なっただけで、ワザとじゃないから…』
「ま、まあ、分かればいいのよ…。じゃあね、私たちももう遅いから寝るわね」
ピッ!
通話を切り、スマホをボクに返してくれた。
「ま、ワザとじゃないと思うけど、身体に異変が起こったのは事実だから、今後は止めて欲しいものね。こういうことは…」
「ボクらはそういうものがなくても、愛し合えるんですけどね?」
「ふふふ…。聞いてて恥ずかしいよ、そのセリフ…。あ~明日と明後日は休みなのよね…。派閥の問題が解決してたら、一緒にショッピングにも行けるのになぁ…」
「きっと、夏休みはできそうですね! プールとかにも行けそうですしね」
「あ~楽しみ~~~。あ、そうそう。あのね……」
遊里さんはボクの耳元でボソボソと呟く。
「えーっ!? それ、本当ですか!?」
「うん。夏休みはもしかするとそれの関係で一緒に学校に行かなきゃいけないかもしれないけど、一緒に頑張ろうね。文化祭実行委員の相方さん♪」
ボクにとっては、これまで馴染みなんて何にもなかった文化祭実行委員にいきなりさせられていた。
これは翼と同じで衝撃的だなぁ…。
まあ、二人で一緒にいられる時間が増えるんだから、それはそれで、ま、いいか。
「分かったよ…。頑張らせていただきますよ」
「ふふふ。隼ならそう言ってくれると思ってた! 一緒に頑張ろうね…。ふあぁぁ…」
急に睡魔が襲ってくる。
そりゃ、そうだ。
朝から夕方まで社会見学で酷使した身体をさらに酷使したんだ…。疲れも出てくる。
ボクらはベッドに横になり、布団に潜り込む。
睡魔には勝てず、二人ともすぐに寝息を立てて寝てしまった。
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