【外伝】凜華お嬢様は告られたい!【橘花凜華side】
第53話 凜華お嬢様は引き金を引く!
知らない? あら、そう…。
では、まずは自己紹介からしないといけませんわね。
私、橘花凜華は橘花財閥の創始者・橘花源一郎の孫に当たり、現在、財閥を束ねる橘花一郎…つまり、お父様の次を担うことが約束されている3代目の後継者となります。
橘花財閥は、宝急電鉄を中心とする公共交通事業、そして、電気やガスなどのインフラ事業、宝急アイランドでおなじみのアミューズメント事業などを運営しており、財閥を束ねるということはこれらの事業を管理し、何億というお金を動かすことになるわけ。
私は生まれてからこれまで後継者として育成され、そのための帝王学すらも小学校の頃から学ばされてまいりましたわ。
弟の瑞希も同様に育てられてきたのですけれど、あまり財閥に関することを言われると嫌な顔をして自分の部屋に引き籠ってしまうから、両親やおじいさまは私にばかり財閥に関する指導を行うようになりましたの。
それが4月からあって、私もカリカリしていたのかもしれませんわね。
5月に入ってゴールデンウィークが明けたころに、クラスでちょっとしたいざこざがありましたの。
私のクラスの2年3組に少しずつ登校してきたものが席に座っていっている。
私も教室に入る。別に学校では家業のことを表には出してはいないけど、どうしても人前では背筋を伸ばした姿勢で歩いてしまう。これが幼少のころから教え込まれた『教育』のひとつだ。
今日の私はひと際、不機嫌だったのを表情に出ないように噛み殺しながら通学しておりましたの。
今朝、弟の瑞希の態度があまりにも私をこのようにイライラを募らせる状況にまでもっていった原因でもありましたの。
瑞希には最近、意中の女子ができたようで、その子とのLINEばかりしていて、食事もまともに食べておりませんでしたわ。
それにこちらから話しかけても、気のない返事ばかり。
さすがに私も堪忍袋の緒が切れてしまいましたわ。
でも、今の瑞希は、意中の女子のことしか考えていないようで、家のことなどどうでもいいといった感じで本当に何を言っても暖簾に腕押し状態なので、私にもやり場のない怒りがこみ上げてくる。
まあ、そういうわけで、今日の私はとても不機嫌な状態でしたの…。
それなのに…。
「葵、これ見てよ。この作品がなかなか斬新な路線のものでさぁ~」
陰キャの中でも『もやし(太陽を避けて生きている人のことをここでは指す)』の代表格である早乙女が、友だちの百合山にタブレットを見せながら、何かを紹介している。
しかし、百合山も微妙な反応をしていて、作品との相性が合っていないようにも見受けられる。
「ボクはあまりこういうのは好きじゃないから…。ボクはどちらかというと隼と同じで純愛好きだから」
「そうなん? 結構、こういう激しいシナリオのほうが興奮はするんだけどなぁ~」
コイツら、頭おかしいんじゃないですの!?
なぜ、進学校のしかも、高校2年という時期に、Hなゲームの話で朝から盛り上がってらっしゃいますの!?
机に置かれていたタブレットの画面が視界に映り込む。
「―――――――――!?」
私はそこに映し出されたイラストに絶句した。
いや、たぶん、憎悪、吐き気、怒り…あらゆるものが混じった感情が全身を駆け巡った。
「ちょっとアンタたち、何てもの教室で見てるのよ! 気持ち悪いのよ!!」
私の突然の大声に、クラスがシーンと静まり返る。
まあ、確かに私が大声を出すなんてそうありませんから、クラスメイトにとっても驚きでしかないと思いますわ。
いや、でもさすがにまだ未成年の私たちの前で、女性の局部などが露わになった画像が公開されていることだけでも気持ち悪いですわ。
きっとクラスの女子生徒の9割以上(ほぼ10割ですわ!)は私の意見にご賛同いただけると思うのですが…。
早乙女は自分のことを言っているのだと気づいたのは、私と目が合ってからでしたわ。
「何だよ!? 俺のこと言ってんのか?」
「そうですわ! あなたのそのタブレットに映し出されているもの、公序良俗に反しますわ。汚らわしい!」
「は!? この艶めかしい肉体の曲線をなぜ理解できないんだよ!」
「そういうのがキモイって言ってんのよ!」
いつの間にか、私の後ろには遊里や雪香も来ていた。
やはり、二人とも私と同じように、タブレットの画像に嫌悪感を示している。
「何がキモイんだよ! これはな、芸術なんだよ! どうして芸術がキモイ扱いされるんだよ!」
早乙女は視界に誰かを見つけると、そこへ白羽の矢を立てる。
「あ、隼! 隼もコイツらに言ってやってよ! ギャルゲーが芸術だって!」
隼? ああ、清水くんのことね。
あの子もよくわからない捉えどころのない子なのよね。
陰キャグループと一緒に行動しているようだけど、そもそも、彼らと同じようにゲームの話をしているところはあまり見ないし…。
「隼、コイツらにギャルゲーの良さを伝えてやってよ!」
「いや、それはなかなか難しんじゃないか? そもそも土俵が違い過ぎるだろ…」
清水くんは早乙女が打った白羽の矢を速攻でツッコミにして返した。
「私、聞いたことがあります。そういうのを英語では「HENTAI」って言うって」
雪香が急に海外譲りの知識でぶっこんでくる。恥ずかしいのか、顔は真っ赤に染まっているぞ!
「ヘンタイ」という言葉にクラスメイトがざわつき始める。
私にできることは本人に確認することくらいしかない。
「清水よ。お前もそっち系の人間なのか?」
私は腕組みをした状態で、憤怒の表情を崩さずに問い質す。
清水くんは無言のまま答えようとしない。
「その無言は、同意と捉えてもいいんだな?」
「まあまあ、隼は問題ないよ…。たぶん、こっち系じゃないし、それにサブカルチャーは1つの経済を動かしている源なんだよ。確かに翼が持ってきたのが道徳的にどうかは賛否つけがたいものだけど、サブカルチャーそのものを否定するのは、僕も許しがたいことだね」
「あんた、麻衣ちゃんがいるのに、こういうのやったりするの!?」
「まあ、モノによるけどやったりするね。麻衣もそれは理解してくれているし…」
「信じらんない!」
陽キャと陰キャの間で、言い争いがこの後も続いた。
そして、早乙女のかんにん袋の緒が切れた。
「キモイキモイうるせーよ! そもそも文化。・芸術を認められない時点でお前ら陽キャはクソなんだよ! お前らなんか、みんなビッチじゃねーか! 神代なんか、スカート短くして、おっさん誘ってお小遣いもらうパパ活やってんだろ!」
「こらっ! お前…それは……」
バシィッ!!!!
激しく頬が
遊里が早乙女を叩いたのだ。
「そ、そんなことしてない! ひどい! 酷過ぎるよ!! 絶対に許せない!!」
遊里が目にたくさんの涙を浮かべながら抗議し、教室を走って出ていった。
雪香は、後ろを追いかけていく。
「早乙女、お前、ユーリに対してよくもそんな酷いこと言えますわね…」
「ふん。メチャクチャ噂で流れてんじゃん! 俺は噂に従っただけだよ…」
私の抗議に翼はフンッ!と突っぱねる。
「陽キャをクソビッチ扱いして何が悪い! 陰キャをキモイ扱いしてんのと一緒だよ!」
遊里のことは雪香に任せておけばいいが、早乙女のことはさすがに許せない。
親友のろくでもない噂をソースがろくに分かっていないにもかかわらず、この状況で発言したのだ。遊里はメチャクチャ傷ついているはず。
絶対に許しませんわ…。
教室内が一気に不協和音が鳴り響いたような空気感となり、そのまま授業5分前を告げる予鈴が校舎内に鳴り響いた。
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