第50話 ボクと遊里のミライノカタチ
食後、勇気くんはボクと小学校のことを色々と話した。
授業のこと、友だちのこと、先生のこと、最近の流行りの遊びのこと……。
時間はあっという間に過ぎ、時計は22時を過ぎようとしていた。
勇気くんが「ふあぁ…」と欠伸をし始めている。
「そろそろお風呂に入りなさい…。明日が土曜日で休みだといっても、お風呂に入らずに寝るのはダメよ。茜、一緒に入れてあげて」
「えー!? 私が入れるの?」
「そりゃそうでしょ…。お母さんはお片付けがあるし、遊里は隼くんと一緒に入るんだから」
え!? 何でそうなるの!? 遊里さんも何か抗議してよ!
ボクが遊里さんの方を見ると、頬を赤らめながら、ボクと目線を合わせないボクの彼女。
ねえ、何で目線を逸らすの!? 口ニヤけてない!?
早苗さんに対するそのサムズアップは何!?
「分かったわよ…。さ、勇気、お風呂入るわよ」
「はぁ~~い…」
勇気くんは本当に眠いのか、素直に茜さんに連れられてお風呂に行った。
リビングにはボクと遊里さん、そしてお母さんの早苗さんの3人になった。
早苗さんと遊里さんは一緒に食器の片づけをしてくれている。
何だか、ボクは手持ち無沙汰になる。
ティロロン!
ちょうど、LINEの通知音が鳴る。
スマホを見ると、楓からだった。
『ごめん。遅くなっちゃって、瑞希がもう一日泊っていって良いって言ってくれてるから、今日も帰れません』
二泊確定かよ!
これ、ホントにそのうち孕むんじゃないだろうか…。
この年齢でおじいちゃんになるのは嫌すぎるでしょ。
そもそも倫理的な問題の方が大きいんだけれど…。
「ところで、二人は大学への進学はどうするの?」
早苗さんがいきなり『お母さん』になった。
ボクらももう高校2年。
そろそろ大学進学に関して、考えていかなければならない時期になる。
「ボクはまだ悩んでいるんですけれど、親からは国公立を目指せと言われているので、現状の成績では、地方の国公立は目指せれそうなので、自分の好きな学部があれば、行きたいとは考えています」
「そうなんだ…。隼くんはそのあたりまで考えているのね…」
「遊里さん…? どうしたの? 何だかボーっとして」
「あ、ごめん…。何でもないよ…。そっかぁ、地方の国公立かぁ…。隼の成績ならマジで行けそうね。私もウカウカしてらんないなぁ…」
遊里さんは頭をポリポリと掻きながら、何かを誤魔化すように返事した。
「遊里も成績が急激に伸びてきているんだから、国公立とか目指すの?」
早苗さんが訊くと、遊里さんは少し寂し気な表情をしながら、
「まあ、一応、担任の先生からも合格できる可能性はあるとは言われてるよ。でも、1年の頃の勉強とかがあんまりだったから…ね」
「そこは復習しないとダメですよ。高校3年は学校でも大学進学に向けた形式になるそうだから、むしろ遊里にも助かるよね」
「う、うん…」
歯の奥にものがつまったような返答をする遊里さん。
明らかに何かおかしい。
と、いうよりも気づいてほしいって感じが見え見えだ。
「でも、遊里…、さっきから何か隠してない?」
「本当に何もないって! あ、勇気とかお風呂から上がったみたい。お風呂入ってくるね」
遊里さんはボクの腕を引っぱりながら、お風呂に向かった。
脱衣所で、服を脱ぎ始める。
彼女は俯き加減な感じで無言のまま浴室に入る。
ボクも何も言えないまま、浴室に一緒に入った。
「この間みたいに背中、流しましょうか?」
「あ、うん…お願い…」
ボディソープをスポンジに泡立て、背中から洗い始める。
彼女は背中を洗っている間に髪の毛を洗い始める。
「ね、ねえ…さっきの話、本当?」
「え? 何の話ですか?」
「っと…大学進学の話…」
「ああ、地方大学への進学ってことですか?」
「う、うん…」
「まだ、決まったわけじゃないんで、分からないですけど、まあ選択肢としては考えられるってだけですよ…」
「そうなん、だ…」
「それが原因で少し落ち込んだんですか?」
「あ、いや…そんなことは……」
「絶対ないといえる…?」
「ううん…。本当は落ち込んじゃった。隼と離れ離れになるのかぁ…って」
遊里さんはぼんやりと浴室の天井を見上げながら、ポツリと呟いた。
泣きそうになっているのかもしれない。それを隠すためかもしれないけれど、角度的に確認することはできなかった。
「遊里……」
「ダメだよね! こんなんじゃ! あはは…。いつも一緒だから一緒にいられることが当たり前だと思ってたよ……。弱いな…私……」
そう言いながら、シャワーのお湯で髪の毛を洗い流す。
さらに手際よくコンディショナーで髪を整え、さっと洗い流した。
浴室に湯気が充満する。
ボクは自然に後ろから抱きしめていた。
エッチな気分ではなく、彼女のことが、遊里さんのことが好きだから…。
同じくらいの身長の遊里さんだけど、身体は華奢だった。
キュッと絞られたウエストをボクの腕が抱きしめ、そのまま抱き寄せる。
遊里さんはボクの方に振り替える。
目尻からうっすらと涙が零れ落ちている。
いつもちょっぴり強気な遊里さんが切なそうな顔をしている。
ヤバいくらい可愛い。
「ごめんね…。私、隼の人生のこと何にも考えてなかった…。ダメだなぁ…私……」
「大丈夫だよ…。まだ、2年も先の話だから…」
そのままボクは遊里さんの柔らかい唇と重ねた。
キスを止めて、そっと唇を離すと、彼女の頬にははっきりと涙の筋が出来ていた。
「だって…私…私……離れることなんて全然考えてなかった……。何だかワガママだよね…」
「そんなことないよ…。ボクもずっと遊里と一緒を望んでいるよ。もちろん、これからも、ね」
「えぇ…、でも大学どうするの? そろそろ調べたり、考え始めたりしないと間に合わないよ」
「うん、分かってるよ…」
ボクは彼女の目尻の涙をスゥッと指で拭いてあげる。
二人で湯船につかる。
もちろん、ボクが遊里さんを後ろから抱きしめているままで。
「大学には行きたいと思っているよ。色々と未来を見通すためには大学で専門的な学びを得たほうがいいのは分かっているからね…」
「うん…」
「だからさ、週明けから進度指導室に大学の情報を一緒に見に行こうよ」
「え……」
「たとえ、学部が違っても同じ大学で学ぶことが出来れば、同じ場所で学ぶことは可能なんじゃないかな? 特に地方の国公立大学はキャンパスが同じ場所に固められていることが多いからさ」
「でも、私…間に合うかな……?」
「だから、これからだよ? まだ、大学入試のための勉強なんてボクもしてないよ! これから一緒に積み上げれば一緒の大学に行くことだって可能だよ」
「そうなのかな…。まあ、隼がそういうならば、私も頑張ってみようかな」
「そう、その意気ですよ。2年後、一緒の大学に進みませんか?」
「う、うん。頑張ってみる! もしダメだったら、大学行かずに隼のお嫁さんになる! で、下宿先でご飯作ったり、生活費稼いだりして一緒に生活できるように頑張る!」
「ええっ!? それはもったいない! 遊里ほどの呑み込みの早さなら大学に本当に行けるから、その先のために頑張っていこうよ」
「うん、わかった…。隼……」
遊里さんは、振り返り、目を閉じる。
キスをご所望の様子。
今度は嬉しさからか、遊里さんの目尻から涙が零れ落ちる。
ボクはそっと唇を再び重ね合わせた。
いつものような激しいのではなく、彼女を包み込むような優しい優しい口づけを。
「…ふふふ……。いつまで入ってるんだ! ってお母さんに怒られちゃいそう」
「そろそろ出ましょうか…」
「そういえば、今日、楓ちゃん帰ってくるの?」
「楓は今日は帰宅しないみたいです」
「あ、そうなんだ。じゃあ……」
「ボクはお風呂をお借りしたので、自宅に戻ってゆっくりしたいと思います」
「え…、うん…、だから、今日は私も隼の家にお泊まりしたいなって…。ダメかな?」
遊里さんはボクに上目遣いで訊いてくる。
ボクが遊里さんを見ると、遊里さんの顔の奥には大きな膨らみも一緒にフニュンと柔らかそうに揺れる。
ボクの下腹部にも熱が入ってしまうよ!
くそっ! 今日は歩き疲れて、身体がボロボロのはずなのに、どうして…どうしてボクの身体は素直なんだ!
「えへへ…。隼の身体はちゃんとOKしてくれてるよ」
遊里さんはそのままボクの耳に口元を近づけてきて、
「先に帰ってて、後で行くからさ…」
ストレートに夜這いかけられることが確定したのであった…。
明日、身体がボロボロになるんじゃないだろうか…。
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