第47話 謎のマウントを取る社会見学ー奈良ー
正直に言おう。
二日目のボクと遊里さんはさらに憂鬱な一日となった。
いや、だって―――――、
「ねえねえ、何でボクらの班に翼と橘花さんが一緒に付いてくるの?」
「な、何でだろうなぁ…」
翼はバツが悪そうに答える。
「ゆ、ユーリが変なことをしないか監視しておかないといけないからね」
「え!? 私が!? そのままその言葉は凜華にお返しするわ…」
「いや、あなたたち、どっちもどっちよ…」
遊里さんと橘花さんのやり取りに手厳しくツッコミを入れる二葉さん。
二葉さんはすでにお互いに何があったのか知っている。
いや、二葉さんお得意の『事情聴取』を受けてしまったのだ。
今朝のホテルの中庭で行われていたのは、ボクと遊里さんが奈良町でしたのと同じように『濃密なキス』をしていたのである。
それをボクと遊里さんが覗いてしまい、キスをしている最中の橘花さんとバッチリと目が合ってしまったのだ。
その瞬間の橘花さんの顔は今でも脳裏に焼き付いている。
翼が橘花さんの腰を抱き寄せ、橘花さんはそれに身を任せて、唇が奪われることを許している。
舌が絡み合い、唾液がちゅぱちゅぱと音を立てながら、気持ちよさそうにキスをしている。
何だか、見ているボクと遊里さんが悪いことをしている気持になってしまう。
とろりと蕩け、瞳をうるわせながら、ボクらと目が合った……。
刹那、橘花さんには焦りと恥ずかしさの両方が見開いた目と紅潮した顔から伺える。
ボクらに背を向けている翼は気づいていない。
「ん~~~~~~~!?」
唇を奪われたままなので声を出せない状態で、翼に気づいてほしいために抗議する。
だが、翼の気持ちも籠った状態だから、橘花さんの抗議に気づこうとしない。
橘花さんは無理やり、翼の唇を剥がすと、
「翼…。見られてますわ…。ちょっと厄介な人たちに…」
「ん? げっ!? 隼と神代さん!?」
「「……や、やあ……」」
ボクと遊里さんが気まずそうに手を挙げる。
翼と橘花さんは気まずさというよりも恥ずかしさでいっぱいのようだ。
顔が真っ赤になり、今にも悲鳴をあげそうな顔をしている。
「ど、どこから見てたの!?」
「だ、大丈夫よ…。ちょっと、ベロチューしてるところだけだから…」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
涙目になりながら、橘花さんは髪を振り乱しながら、泣き叫んだ…。
まあ、そんなこんながあり、そこに一番目にかけつけたのが、二葉さんだったという何ともトラブルが起こればなぜかいるジャーナリストぶりの能力を発揮したのである。
ま、教師に最初に見つからなくて済んだのはありがたかったけどね…。
でも、橘花さんはそのあとみっちりと『事情聴取』を受けたんだけどね…。
「ユーリ…。雪香の事情聴取っていつもこんな感じなの…?」
「え…、うん…そうだね…」
ゲンナリとしている橘花さんの横で肩を撫でてあげる遊里さん。
橘花さんは半泣きの表情をしたまま、遊里さんを見ると、
「ところで、ユーリ…。清水くんとはどういうご関係ですの?」
「ゔ…。な、何でもないよ…」
「じゃあ、雪香が言ってたことは嘘ってこと? あなたと清水くんがイチャラブしているところ見かけたそうよ」
「ゔ…。雪香…余計なことを……」
「その反応から見ると、あなたも清水くんと付き合っているようね…」
「ま、まあね…」
「いつからですの?」
「ゴールデンウィーク明け…。私から告白したの…」
「ゴールデンウィーク明けって…、まさか!?」
「あはは…派閥闘争が始まる直前……」
「うあ…。最悪ね…。で、学校でできない分、家の方でイチャイチャしてたってわけね…」
「言い方に棘があるって……」
「てことは、付き合い始めて2か月ってところかしら…」
「まあ、そうなるわね…」
「で、ユーリよ…。恋愛の後輩としてお聞きしたい…」
橘花さんはニヤリと遊里さんを見て、
「関係はどこまで進んでんの…?」
「んなこと言えるわけないでしょ…」
遊里さんは顔を真っ赤にしながら、抗議する。
そりゃそうだ。
ボクとしてもこんな外でそんな話をされた日には卒倒してしまいそうだ…。
てか、すべての会話がボクに丸聞こえなのは何とかならないですかね…。
「もう、ヤっちゃったの?」
「ぶぅっ!!」
「その焦った様子だともうすでにヤったみたいね…」
遊里さん、演技下手すぎます…。
もう、バッレバレです…。
て、エッチネタになったら激しく聞き耳立てるの止めないか、翼よ…。
「な、なあ…隼…」
「ん? どうしたんだ?」
「どういう雰囲気でヤったんだ?」
お前もそっちが気になってんのかよ…。
でも、ボクと遊里さんの初めては何だかそういう雰囲気にお互いがなってしまって、自然とした流れで…、本当に衝動的にやってしまった…というのが正直なところ…。
誰にも教えられるものではない…。それに参考にしてもらえるわけではない…。
「うーん。そういう時の流れっていう感じだったかな…」
「何だそれ?」
「まあ、だいたいエッチするときなんてそんなもんだよ…」
「そ、そういうものなのか?」
「うん。そういうもの…。焦ってもできないけれど、どこかでそういう雰囲気に自然となっちゃうからその時にお互いが納得したうえでやればいいんじゃないのかな…」
「なんか、余裕だな…」
「あはは…。そんなことないよ…」
ボクは頭をポリポリと掻く。
正直これ以上訊かれるとこっちが恥ずかしくなる。
もちろん、もっと言えないことを二人でやっているけど…例えば、お風呂で背中流し事件とかさ。
でも、そんなことこんなところでは言えないよ。
「ええっ!? 一緒にお風呂…!?」
あ……、お喋りな彼女が喋ってしまいましたね………。
「そ、それはちょっと変態すぎるのではありませんの…!?」
あ……、洗い方まで喋ってしまったのか………。
うん。さすがに、ボクもあれはアブノーマルだと思う。
普通にやることではないと思う。
「も、もう少し詳しく教えてくださいます?」
ややはしたないことに興味津々な橘花さん。
いや、あなた、橘花財閥の跡取りでしょ…。
ちょっと子孫繁栄に興味津々なのはどうかと思いますよ!?
それに対して、耳元でゴニョゴニョと伝えているそこのエロ女!
さすがにいい加減にしなさいよ…。
「あんたたちね…。ちょっとはTPOというものを
「「ごめんなさい…」」
遊里さんと橘花さんはショボンと落ち込みながら、二葉さんに謝罪する。
まあ、二人ともそっち系の話をし過ぎたから、社会見学という学習の場で関係ないということで怒っているのだろう…。
さすがですね、二葉さん。
「あなたたち、リア充2組に囲まれてボッチ食らっている私の気持ちがわかる!? 私だって…私だって……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
結局、そっちなんですね…。
二葉さんは、さめざめと泣きだすと、走って行ってしまった。
うーん、まあ確かにさっきから話に入る気のない男2名とそっちの話をしたくて仕方がない女2名という構図だったなぁ…。
「雪香ったら、彼氏が欲しかったのね…」
「そうならそうと仰って下されば良かったのに…」
と、こちらも若干ズレた認識で謎の彼氏マウントを取ってしまう二人なのであった…。
あぁ…、本当に憂鬱だよ…。
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