第46話 朝から反省会な社会見学ー奈良ー

 朝食は大変気まずい雰囲気の中で始まった。

 いや、クラス全体じゃなくて、ボクと遊里さんと二葉さんの3人の話なんだけどね…。

 もちろん、原因はボクたちにある。だって、遊里さんが二葉さんのもとに朝チュンしちゃったのだから…。


「ユーリ? 私はもっと早くあなたが帰ってくると思っていたんだけど?」

「んぐっ!?」

「まあ、私もで楽しくソシャゲやれたから、それはそれで満足なんだけど、あなたにはそれなりに色々と事情聴取…、まあ、いわゆるガールズトークもしようかと思っていたんだけどねえ…」


 女の子界隈では、性的な事情聴取のことをガールズトークっていうのかぁ…。勉強になるなぁ…。

 遊里さんは申し訳なさそうに顔を俯いて隠している。


「まさか…、彼氏と社会見学という教育の場で朝チュンするとは…、いい度胸よね?」

「ごめんなさい……」


 遊里さんは少し顔を上げて、二葉さんに謝罪した。

 二葉さんはニヤリと意地悪く微笑み、話を続けた。


「で、ユーリ。気持ちよかったの?」

「そりゃ、もちろん♡」


 にっこりと笑顔を浮かべて返答するお肌テッカテカの遊里さん。

 うあ、瞬間に二葉さんの瞳からハイライトが消えちゃったよ。怖ぇ…。

 てか、その回答、マズいですよ…。

 ボクが遊里さんに指摘するより先に、二葉さんがボソッと一言言った。


「私、何をしたかなんて言ってないのに…。へぇ~、朝チュンの原因はイチャラブエッチしてたのか…。いいご身分ね~~~?」

「んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? ご、ごめんなさい…」


 涙目になりながら、二葉さんに謝罪を繰り返す遊里さん。

 遊里さんって、絶対にボクよりも口が軽いと思うんだけどなぁ…。


「あ、あの、でも、これだけははっきりさせておくけど…」

「ん? 何なの?」

「セックスはしてない」

「そういうことを朝から言わんでいい…」

「う……ごめんなさい」


 ほら、また余計なこと言って、二葉さんに怒られてる。

 何だか、遊里さんってポンなところがあるよなぁ…。

 うーん。朝の味噌汁が美味いなぁ…。

 ボクはこの言い合いには入る必要はないと考え、朝食を楽しんでいる。


「でも、清水くんもユーリを甘やかしすぎよ」

「えぇ!? そうですか?」


 言ってたら巻き込まれた!?


「うん。だって、ユーリってあなたにゾッコンだと思うわけよ。で、何か失敗してもすぐにあなたが助けてあげるじゃない? それにエッチな気持ちになったら、すぐに慰めてあげる…。さすがにちょっと優しすぎると思うのよね」

「え~~、そこは良い彼氏ですねとか言ってほしいなぁ…」

「む~~~~。言いたくても言わない!」

「なんで、そこで怒るんですか…?」


 二葉さんも素直じゃないなぁ…。

 二葉さんが言いたいのは、遊里さんへの甘さが言いたいわけじゃなくて、甘えられる環境があることへのヤッカミだ。

 とはいえ、まあ、朝チュンさせてしまったのは、ボクも責任があるなぁ…。

 だって、遊里さんがエロ可愛かったから、ボクも我慢できなかったんだよ! て、単なる欲望じゃないか!?


「おい…ユーリ?」

「ん? な~に~?」

「お前の彼氏が何か思い出しているのか、顔がたるんでるんだが…」

「う~~~~ん、これはアウトの顔してるよねぇ…」


 て、ボク、どんな顔してるんだよ!

 ちょっと思い出しただけでどうしてダメなんだよ!

 ボクの彼女が可愛いのが何がいけないんだよ!



 朝食を終えると、二葉さんは「お土産見てくる」と言って、去っていった。

 なんやかんやで二人の時間を作ってくれてるのかな…。

 そんな優しさを感じるような気がしなくもない。

 ボクらは出発時間まで何もすることもない感じなので、ホテルの庭園に足を運ぶことにした。

 ホテルの日本庭園に生徒たちは誰もいないようだった。

 鳥のさえずりなどがよく聞こえて、気持ちも落ち着けるそんな空間だった。

 今日は飛鳥方面に向かって、古墳時代の研究だそうだ。

 今回の社会見学の企画って完全に、佐竹先生立案だな…。

 学校に戻れば大量のレポートが待っていそうだ…。

 今から恐ろしくて身震いしてしまいそうだ。

 ボクと遊里さんは鳥の囀り、川のせせらぎを感じることができる日本庭園を散歩していた。


「こういう日本庭園って人の手によって生み出されたものなのに、なぜか心が落ち着くよねぇ…」

「あ、そうなんだ…。これって人工物なの?」

「ええ、石に生え揃っているコケも人が植え付けたものなんですよ」

「へぇ~、そうなんだ。でも、上手く造られてるのねぇ…」

「まあ、そう考えることができますよね…」


 いつの間にか、ボクと遊里さんは手を繋いでいた。

 そういえば、外で手をつなぐことなんてほとんどなかった。

 だって、ボクらは学校で付き合っていることは知られていない。

 しかも、付き合い始めてから騒動が起こったから、それ以来学校では、普通に話すことさえ難しい。

 だから、地元で…といきたいところだが、地元にも当然、同じ学校の生徒もいるので、基本的には図書館とかボクの家とかで会うことが多く、外でデートなんてしたことがない…。

 それでもボクらは愛を育んできたし、いつの間にか彼女の家族ぐるみの付き合いも始まった。

 別に学校でイチャイチャできなくてもいいけど、でも、学校での遊里さんはどちらかというとボクに対して他人であり、疎遠な態度を取るようにしている。

 それが何となく寂しい。

 でも、今もこうして二人で一緒にいられることが幸せだと考えれば、寂しさを上回ってくれる。

 ボクらは庭園の中程まで来ると、竹林が広がっていて、周囲から死角となっている。

 そこまで近づくと、不意に官能的な甘い声が聞こえてきた…。


「…んんっ……んあっ……」


 え? 何で――――?

 ボクは遊里さんはと目を合わせるが、遊里さんも状況が掴めておらず、目をパチクリとしている。

 こんな朝から淫らなことをするなんて…。

 だ、誰ですか!? 君たちもしようと思っていたんじゃないかと考えていた人!

 そ、そんなわけないですよ!

 ボクと遊里さんは声の主を確認するために近づいていった…。



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