第39話 内心ドキドキな社会見学ー奈良ー

 バスの中ではボクに対して、二葉さんは攻めに攻めまくった。

 陰キャの恋愛事情というものを知りたかったようだ…。


「清水くんはさぁ…。陰キャの中でもそれほどヲタクでもないから、まあまだ単に根暗って感じなのかな?」


 まだあんまり話もしたことのない人に突如『根暗』ってなかなかの思い込みで言ってそう。

 ボクがははは…と乾いた笑いをすると、二葉さんがそれがお気に召さなかったのか、


「じゃあ、清水くんに色々と質問をしていって、陰キャの恋愛事情を暴いていきたいと思いまーす」

「でも、ここで答える内容は、他の人には言わないでくださいよ。それだけでも虐めに繋がるんですから…」

「うんうん、分かった分かった…。そこは約束する…」


 それを聞いて隣の遊里さんがホッとしているのをボクは見逃さなかった。

 じゃあ、ある程度答えても良いってことかな…。


「まずは~、清水くんって付き合ってる人いるの?」


 え!? どストレートに訊いてきたね…。

 これはイエス? ノー? どっちで答えたらいいの!?

 ボクはそっと目だけを遊里さんに合わせる。

 遊里さんはどっちでも良さそうな微妙な表情をしている。


「つ、付き合っている人はいます……」

「ふふふ、そうなんだぁ~。陰キャを好きになる人ってどんな人なんだろ…。その人も陰キャなのかな…。陰キャ同士のカップルとかって、どう思う? ユーリ?」


 遊里さんは二葉さんのボクへの棘のある返しをすべて食らっていた…。

 うあ…。大丈夫かな…。

 遊里さんは苦しそうに微笑みながら、


「まあ、自分たちの好きなことで話が盛り上がれたりしていいんじゃないかなぁ…」

「ま、そう考えることもできるのか…。じゃあ、次の質問!」


 遊里さん、結構精神的に参ってない? まだ一問目なのに。

 一発目からストレートすぎる質問を投げつけてくるなぁ…。

 次もどうせヤバいのがくるんだろうな…。


「清水くんって童貞?」


 ゴンッ!

 ボクは仰け反り、そのままバスの窓に頭をぶつけた。

 そんなの答えられるわけないだろ!?


「それは黙秘ではダメでしょうか?」

「黙秘ということはイエスということにいたしますが、よろしいでしょうか…」

「うえっ!? それは何か色々な憶測で物事を語られてしまいそう…。それも嫌だなぁ…。じゃ、じゃあ、ノー!」


 瞬間に、二葉さんの真っ白なお顔が赤らむ。

 しかし、その赤らんだまま二葉さんの顔は、悪魔が降り立ったような顔をし始めた。

 絶対に今、ボクは最悪な選択肢を引いていっている!


「じゃあ、そのお相手との初めての時の自身のお気持ちは?」


 もう、完全に飲み屋の泥酔セクハラオヤジじゃないか…。

 訴えたら、賠償金が貰えるレベル!

 二葉さんの後ろで、遊里さんが少しずつ焦ってきているのが伝わってくる。

 当然、二葉さんは気づいていない。


「そ、そりゃ…普通に考えても気持ちよかったですよ…」


 あぁ…二葉さんの後ろで顔真っ赤にしながら恥じらうの止めてもらえないかな、遊里さん!?

 徹底して、ボクと目を合わせないでおこうと今努力してますよね!?


「まあ、そりゃそうでしょうね…。じゃあ、次、お相手のご様子は?」


 遊里さんの目が大きく見開き、その後恥じらうように俯く。

 あんまりそういう行動すると、二葉さんにバレますよ…。

 ――――――――!?

 そ、それは答えれない!

 でも、答えなかったら色々な憶測で勝手に語られてしまう!

 ど、どうすればいいの…? 遊里さん!? これの答えって何が正しいの?

 遊里さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 俯いちゃったら、どう答えたらいいのかわからないじゃないですかー!?

 まあ、当たり障りのないように答えておけばいいか。


「お相手の方も気持ちよさそうでしたよ。二葉さんはご経験はないんですか?」


 質問返しをすると、二葉さんは頬を紅潮させながら、


「わ、私はそういうことに対して興味持ってないので、まだ純粋な恋愛がしたいの! 君みたいな『陰キャハイエナ』とは違うのよ!」


 うわ。ひっでー。

 『陰キャハイエナ』とかなかなかのパワーワードじゃね?

 その『陰キャハイエナ』ことボクに喰われた可愛い『シマウマ』ちゃんの遊里さんは、ボクの発言に悶絶していた。


「あとさぁ…。相手の子ってどんなプレイが好きなの?」

「え!? プレイですか…?」

「うん、そうそう。体位とかいろいろあるじゃない?」


 さすがに遊里さんとは変な体位はしていない。本当にシンプルな体位しかしてない。

 今度、色々体位があるなら、試してみようかな…ってそうじゃなくって!


「いや、ボクらは本当に普通ですよ…。アブノーマルではないですから。まあ、ちょっと気になりはしますけどね」

「そうなの?」

「ええ、まあ、どういうのがあるのか知らないんですけどね…」


 はいそこ! アブノーマルって言葉に反応してるんじゃないよ!

 ボクからしても痛いのダメだから、SMとかはなしよ! せいぜいコスプレくらいかな…。あ~、ちょっとそれは興味あるかも…。遊里さんのコスプレ姿とかエッチっぽくて…。


「ところで、さっきからユーリの動きが不審なんだけど、あんたどうかしたの?」

「い、いや…。私もそういうの、興味はあるけど、分からないことが多くってさぁ…」


 いやいや、あんたベッドですっごく激しい濡れ場となってましたよ。

 身も心もエロエロだってのは知ってるよ、ボクは!

 豊満なボディでボクの身体を洗いに来たのは、どこの誰だっけ!?

 エロエロボディでボクを朝まで寝かせてくれなかったのは、どこの誰だっけ!?

 今すぐにでも声に出して抗議したかった…。

 いや、抗議したら色んな意味で終わってしまうからしないけどさ…。


「ふーん…ユーリってやっぱ見た目と全然違うもんね~。超が付くくらい初心うぶって感じだわ…。そんなことよりも次の質問しちゃうよ」

「お、おう…」

「そのお相手って、どんな子?」


 ホラね、最終的にはプライバシーの領域(今までのも十分にプライベートなものだけど)に踏み込んできたよ…。

 どう答えよう…。

 思案するボク。

 ニヤニヤが止まらない二葉さん。

 生きている心地のしない遊里さん。

 おぞましい質問にどう答えればいいのか…。

 ボクは一つの答えが閃いた。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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