第38話 前途多難な社会見学ー奈良ー

 ボクは朝食を食べながら、目の前に座っている妹の楓に話しかける。


「今日と明日は泊りがけで社会見学だから、食事とかは自分で何とかしてね」

「あ~、それは大丈夫。何とかなるよ~」

「ん? えらく軽いね…。ちょっと深堀させてもらってもいいかな?」

「え…。な、何よ…」

「いや、今朝ね。、楓の部屋の中が見えてしまったんだけど…」

「ど、どうしたのよ…お兄ちゃん? 私の部屋はあれだけ覗いちゃダメだって約束だったのに…」


 楓の表情に焦りが浮かぶが、ルール違反をしたボクを攻め立てるようにその表情を隠す。

 ま、ボクの洞察力からいえば、そんな小細工では騙されないけどね。


「部屋の中にあった、登山にでも行けそうなあの大きなリュックは何?」


 ピシィ―――――――ッ……

 あ、楓がフリーズしちゃった。

 が、その瞬間にパキィィィンとフリーズは解け、


「社会見学の2日間、水泳部仲間で学校の宿泊施設に泊まることにしたのよ」

「あ、そうなんだ…。それは大変だねぇ…」

「でしょ~でしょ~?」

「茜ちゃん、そんなこと一言も言ってなかったけどね…」


 ブゥゥゥゥッ!

 ボクからのツッコミに思わずコーヒーを噴き出す楓。

 ボクは、コーヒーを飲んで一息つき、コップをテーブルに置く。


「楓…。嘘はいけないよ? 社会見学中にどこに一泊するのかな? 嘘を付いたら、奈良名物の『ジャンボ三笠』買ってきてあげないよ」

「ゔ……。」

「ボクの予想では、橘花くんの所にお泊りするんじゃないかなぁ…って。凜華さんも社会見学だし、家にいらっしゃるのは執事の方だけでしょ?」

「な、何がいいたいの?」

「瑞希くんとイチャイチャしまくれるね」

「そういうこと妹によく言えるわね…。サイテーだよ…お兄ちゃん」

「否定はしないんだね」

「しないんじゃなくて、できないだけ。だって、イチャイチャはするだろうからさ…」

「じゃあ、避妊具コンドーム持っていく?」

「―――――――!?」


 楓は顔を真っ赤にさせながら、小さく頷く。

 ボクは自分の部屋から、避妊具コンドーム一綴り(6個)を持ってくる。

 それを楓に手渡そうとした瞬間。


「おはよう、隼! そろそろ行こ………」


 ボクが妹に手渡そうとしているところを見られた…。

 しかも、楓は顔を真っ赤にした状態で。

 こ、これは違うんだ―――――っ!!

 遊里さんは、ボクの方に近づくと両肩を鷲摑みし、


「隼…。妹をそういう目で見ちゃダメだよ…。そんなに抱きたいなら、常に私がそばにいてあげるから…」

「「ち、違うんです!」」


 当然、ボクらは否定した。全否定しましたとも。

 ボクが事情を事細かに説明したところ、遊里さんも分かってくれたみたいで、ニヤニヤしながら、楓の胸をツンツンしながら、


「まあ、そりゃ必要よねぇ~。一泊を彼氏の家で過ごすとなると…。帰ってきて妊娠してましただと笑えないもんねぇ…」


 楓は中学生だから本当に笑えません。

 てか、遊里さん、「中学生なのにお盛んだなぁ…君たちも」なんて言ってる場合じゃないでしょうに。


「でもさあ、隼」

「どうかしましたか?」


 遊里さんがボクに訊いてきたので問い返す。


「一泊で一綴りはやり過ぎじゃない?」

「そういう問題ですか? それと遊里はその辺の自覚ある?」


 遊里さんも顔を赤らめて、「な、何の話!?」ととぼけようとする。それがまた可愛い。

 そんな話をしている間も、楓は顔を赤らめたまま、避妊具コンドームを握りしめたままなのであった…。

 て、早く片付けましょうね、楓。



 学校に着くと、出欠をとり、そのままバスに乗り込んでいく。

 席順は事前に決められていた班同士で横一列に並ぶようになっていた。

 あ、だから4人一組なのか…。

 遊里さんは一足先に学校に到着して、陽キャ仲間の二葉さんとすでに乗り込んでいた。

 遊里さんの通路を挟んで反対側がボクと山寺くんの席になる。

 山寺くんはまだ来ていないらしく、ボクが窓際に座る。

 学校では離れておくのが今のうちのクラスの状況下での最適解なのだ。

 遊里さんと二葉さんが観光ガイドを見ながら、キャアキャアと盛り上がっている。

 こういうのを見ると、遊里さんって陽キャなんだなぁ…と感じる。

 ボクはボーッと遊里さんと二葉さんのやり取りを眺めていた。

 二葉さんはボクの視線に気づき、


「あれ~? 清水くん、今、ユーリのこと見てた~?」

「え? いや、二人のやり取りを見てたんですよ。すごく熱心に観光ガイドを見てるなぁって思って」

「ああ、これ? 自由行動の時間があるじゃない? その間にどこを回ろうかなってユーリと相談してたんよ」

「へぇ~。で、どの辺を回ろうと思ってるの?」

「清水くんには内緒! 答え次第によっては交換条件で教えてあげれなくもないぜ~」


 これ絶対やべーやつ訊いてくるわ、この子。

 俺は最初から嫌な予感がして、顔を引くつかせる。

 結論から言うと、山寺くんは来なかった。

 周囲の陰キャな子たちに訊くと、彼は基本的にこういう集団行動を伴うイベントには参加をしていないらしい。

 てことは、ちょってと待って!?

 ボクの班って、男一人だけじゃないの!?

 後ろの陰キャな男からは、


「神代さんと二葉さんとか陽キャの中でも女神中の女神…。そんな二人と一泊二日一緒に過ごせるとかどれだけ、幸せ者なんだよ」とか。

「絶対に手を繋ぐとかするんじゃねーぞ」とか。

「あのおっぱいツインズに挟まれて~」とか。


 明らかに一部犯罪臭の漂うコメントも見受けられるが、概ね羨ましがられたのは間違いない。

 二葉さんは何を考えているのか分からないキャラなので、ボクとしては今回の社会見学でつかめればと考えている。

 二葉さんはハーフなので海外での生活経験もあり、英語もペラペラだ。

 日本人の父とロシア人の母のハーフで、透き通るような白い肌が特徴的だ。

 出発時間となり、教師が乗り込んでくる。

 担任の入山先生だ。


「さあ、これから出発するが、くれぐれもバスの中では暴れるなよ。あと、今日は副担任も一緒だ」

「は~い、みんなの美由紀先生だよぉ~。みんな、先生の言うこと守ってね♡」


 え、米倉先生(現代文担当)ってウチのクラスの副担任だったの!?

 男どもがそんなこと気にせず、「は~い」と緊張感のない声で返事している。

 てか、米倉先生ってサキュバスなの!? みんなの脳みそ、溶けてそうなんだけど…。

 え? ボク!? ボクは大丈夫でした。

 隣に怖~~~~~いお姉さんがボクを鬼のような目でガン見してましたので、決して緩んだ表情などしてませんでした。

 うぐぅ…。実は遊里さんってヤンデレ属性もあったりするのかな…!?

 ボクの心配を他所に、バスは無情にも出発し、ボクらをいにしえの都に連れだったのである。


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