第37話 ボクの両親は彼女の存在に驚いた。

「アンタ、それ、本気で言ってんの!?」

「しぃ~~~~~~~~、声が大きいよ」


 聖マリオストロ学園の食堂棟にあるカフェのいつものテラスでボクと遊里さんはランチをしていた。もちろん、持参したお弁当を食べるということだけなんだけど。

 そこで素っ頓狂な声を上げる遊里さん。

 ちょっとプリプリとお怒りのご様子なんだけどね。


「どうしてもその時の記憶がないんだけど…。何でなんだろう…」

「隼は多重人格者なの!? それともその瞬間だけ、どこかの世界に転生してた? スライムになってたの!?」


 遊里さんはよく分からないことを言う。

 なんでいきなり、転生したらスライムだったりするんだろうか…。

 そんなことはどうでもいい!

 ボクが一番問題にしているのは、ボクの記憶が飛んでいることではなく、そもそも社会見学がどこにいくのか? ということ。

 遊里さんが言うには、行くところはみんなで相談して決めたそうだ。

 ボクもその話し合いに参加していたのを遊里さんが自分の目で確認しているらしい。

 でも、ボクの記憶にはない。

 なんだそれ?

 どうなってんだ? ボクの脳みそは――――。


「もう、私とのエッチし過ぎで、脳がやられちゃったんじゃないの?」

「ええっ!? それならば、遊里の方がもっとやられてるはず…」

「ど、どういう意味よ…。私のエッチがそんなにヤバいって言うの!?」(ヒソヒソ)

「ええっ!? 自覚がないんですか!? あんなに濡らしてるのに…!?」(ヒソヒソ)

「ちょ…、それ以上はここでは言っちゃダメよ…!」(ヒソヒソ)


 ちょっとは自覚あるんだ…。

 メチャクチャ顔を赤くしてるじゃないですか…。

 ああ、恥ずかしがっている顔も可愛い。

 て、それもさておき…。まあ、そこの記憶が飛んだのはあとで考えるとして、


「もう…仕方ないなぁ…。今回の社会見学先は奈良よ。『古都奈良の遺産群の研究』ってことがテーマみたいよ。それも一泊してね」

「あ、そうだ…。思い出した…」

「え? 何を?」

「ボク、その話し合い参加はしてたんだけど、たぶん、本気で参加してなかったと思う…」

「え? それはどういうこと?」

「いえ、ちょうど話し合いを行っていたころ、両親からボク宛に連絡があったことで悩んでいたんですよ…」

「え…? それって家族関係のこと? あまり話せないなら言わなくてもいいのよ…」


 心配そうに覗き込む遊里さん。


「いえ、あの、最終的には今までの形で落ち着くことになったんですけどね…。実は、両親がボクに妹も一緒に両親のもとに引っ越さないか提案があったんですよ」

「えっと、確か、隼のご両親って…」

「はい。イギリスに住んでます」


 ボクはあっけらかんと答える。

 遊里さんは衝撃で固まってしまう。


「ホラ、こうなりますよね? だから、遊里には相談できないし、楓とも一緒にどうしようか話し合ったんですけど、なかなか結論が出なくて…」

「まあ、イギリスに引っ越したら語学留学のような感じで英語とか英会話はどんどん発達しそうね…」

「いやいや、そのレベルじゃないと思いますよ。だって留学じゃなくて永住のような形になるんで…」


 ピシッ!

 ホラ、また遊里さん固まっちゃった。

 意外とメンタル弱くないですか?


「そ、それはやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


 突如、泣き出す遊里さん。

 事態の深刻さをようやくご理解いただけたようですね。


「あはは…。やっぱりそういうことになるでしょう? まあ、ボクも楓もお互いちょうど好きな人が出来たころでもあったので、電話で両親と話をしたんですよ。ボクらは最近、将来を誓った人がいるから、申し訳ないけど、イギリスに住むことはできないってね」

「え………」

「まあ、嘘ではないですし、実際、これから色々とお互いの理解を深めて、最終的に結婚までは長いですけど、それまで一緒にいないとそれはそれで悲しいし、一緒にいるのが当たり前って言うくらいにならないと、結婚もできないでしょうから…。結婚ってお互いが支えあえないとできないとボクは考えているんでね」

「隼……」

「だから、イギリスに引っ越す件はなしにしてもらったんです。で、変な心配かけたくなかったから、遊里には伝えなかったんだよ。遊里に伝えたら、きっとパニックになると思ってね」

「うん、きっとなっちゃう…。自分の好きな人と会えなくなるって考えるだけで、涙が出てきちゃうもん」

「ちょうど、その頃と被っちゃったんだよ…。社会見学のころの話とが…」

「だから、社会見学に関しては、記憶にございません状態だったのね…?」

「まあ、そういうことで今回の社会見学の件については、ほぼ脳内から消えているので、色々と教えてください…。あ、学校で難しいなら家でお伺いしますので…。よろしくお願いいたします」

「ううん。いいよ。それくらい…。だって、隼は私と一緒にいたいってことをご両親に伝えたんでしょ?」

「そうだよ。二人とも吃驚してたよ! どうしてお前に彼女が!? みたいな感じでした…。写真を送ったらもっと吃驚してましたね」

「え、ちょ、ちょっと、写真送るんだったら言ってよね! ちゃんとしたのを渡したのに…」


 顔を赤らめてしまう遊里さん。

 ボクは、スマホの写真データから呼び出した写真を見せる。

 先日、家で一緒に勉強したときに撮ったものだ。

 私服姿で胸がちょいエロのやつだ。


「え、それ送ったの!? それ、胸が見えててちょっとエロっぽいから、隼だけならいいかと思ってたんだけど…」

「両親はこれを見て、しっかりと子作りできそうでいい奥さんになりそうだねって父親から返事がありましたよ」

「それ、どこで判断してんの!? 清水家って無類のおっぱい好きなの!?」


 え。何か今、お父さんをディスられてる!?

 まあ、確かにお母さんもお胸は大きい方かなぁ…。

 うーん。清水家は多分、おっぱい好きだな。


「でも、そんなことが最近あったんだ…。全然悩んでるって気づかなかった…」

「まあ、悩みすぎてるときってそんなもんだと思いますよ…」

「あと、そこまで思ってくれてるって思うとメッチャ、キューンッってしちゃった!」


 頬を赤らめながら、本音で言ってくれる彼女は可愛い。

 それに本当にボクも嬉しい。

 一緒にいて良いことを。


「来週の社会見学も一緒に楽しもうね♪」

「うん。まあ、他のペアの子には分からないようにしないといけないけどね」

「まあ、そこは何とかなるでしょ…。あ~今から本当に楽しみ♪」

「社会見学が終わったら、期末テストの勉強しないといけない時期になっちゃいますから、思いっきり楽しみましょうね!」

「うん♪ じゃあ、また後でね」


 今でも彼女とは時間差で教室に戻っている。

 遊里さんが先に戻って、ボクが後だ。

 席を立って、彼女がボクにはにかんだ笑顔でバイバイッってしてくる。

 やっぱりボクの彼女は最高に可愛いと思う。

 そして、いつまでも一緒にいたい。そんな存在だ―――――。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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