第36話 本物は偽物を退治する。
「いい加減にせんか――――――――――っ!!」
スパパ――――――――ンッ!!
突然、現れた人物の叫び声とスリッパでの後頭部叩きで遊里さんはフローリングの上で悶絶している。
ボクが見上げると、そこには―――、
「遊里!?」
遊里さんが二人いる!?
ええっ!? どういうこと!?
スリッパで勢いよく後頭部を叩いた遊里さんは、悶絶をしている遊里さんに近づき、
「全く…。家に帰って自分の部屋入ってみたら、荒らされていて、自分の制服のスペアが無くなっているから、不安になって来てみたら…。お母さん! そういう悪い趣味は止めてよね!」
「お母さん!?」
「そうよ…。この人は神代遊里じゃないの! 神代早苗…! 私のお母さんよ!」
「ふふふ…バレたら仕方ないわね…。そうよ、私は隼くんの遊里ちゃんじゃないの! 分からなかったでしょ~? エヘヘ☆」
えへへ☆ってアンタ、反省してないでしょ。
「だから、横に並ぶの止めてよね…。さすがに40代にもなって、娘の制服着て、娘の彼氏を襲うのは犯罪行為だと思うわよ」
「ふふふ、まだ襲ってないから、未遂事件よ!」
「どちらにしても犯罪です!」
そこはボクも突っ込ませてもらいます。
「て、隼くん、どこでバレてた?」
「まあ、かなり話の内容がふんわりとしてるなぁ…ってところあたりからですかね…。まず、遊里はぼくのこと「くん」付けでは呼ばないんですよ。それにウチの家の合鍵を持ってますので、勝手に入って待っていられるんですよね」
「え!? もう合鍵持ってるの!? ヤリまくりの変態さんね」
「え? 何でそれだけでヤリまくりでさらに変態扱いされんの!?」
遊里さんのツッコミを華麗にスルーしつつ、ボクは続ける。
「あと、下着ですね…。遊里はそんなエッチな下着は付けてません」
「しまった! 制服ばっか気にしてたから、そこら辺のことは一切に気にしてなかったわ…。いっそのこと、遊里ちゃんの下着まで借りればよかったのね!」
「お母さん、それも止めてよ…。私、嫌よ。私のブラジャーを付けてるお母さんなんて見たくないよ…」
「くっ! 仕方ないのよ! これは隼くんを襲うため!」
「え、寝取られちゃう状況だったんだ…」
ボクは危うく恐ろしい悲劇を生むところだったようだ。
しかし、その横で腕を組んで、胸を張る本物の遊里さん。
「ふふふっ! きっと、隼が最後に見破る要素になったのは、きっとその垂れ乳よ!」
「だ、誰が垂れ乳よ!?」
「だって、隼は私のおっぱいが大好きすぎて、よく攻めてくれるの…。そんなおっぱい好きの隼が私の立派なものとお母さんの垂れたそれとを見れば絶対に違いは分かるわ!」
あ~、そのために腕を組んだのね。腕で胸を強調したかったのね…。
ボクは、彼女の母親に自分の
早苗さんはギリギリと
それにしてもよく似ている。
遊里さんと早苗さんは身長もほぼ一緒、同じ金髪で、同じスタイル、同じ顔、同じ声…。これじゃあ、全く同じ格好でシャッフルされたら、本当におっぱいで見分けるしかないんだろうか…。
いやいや、それ脱がしてるからダメじゃん!
ボクは自分の心にツッコミを入れる。
て、さっき遊里さん、お母さんの年齢を40代って言ってなかった!?
こんな40代いる!?
旦那さん、最高過ぎかよ!(何が!?)
「でもね、遊里ちゃん、あなたもあんまり彼氏におっぱいを
「―――――――――!? それは嫌かも…。隼、これからは控えめにお願い!」
「いやいや、母親の前でお願いするなよ!」
「あ、あと、遊里ちゃん、隼くんから聞いたわよ。最近、『エッチが激しい』って…。もう、ウチの子ったら、誰に似たのかしら…」
そりゃもう間違いなく、アンタでしょ! というツッコミを入れる余裕すら与えずに、遊里さんの怒りの瞳をボクにぶつけてくる。
うあ…。修羅場やね…。(ボクの)
「お母様! ボク、そんなこと言ってません! ボクは、『少しエッチ過ぎる』と言っただけです!」
「いや、それほぼ一緒だから…」
お母様!?
どうしてそこで火に油を注ぐの!?
「隼~~~、何でお母さんに私たちのエッチ事情をお話しするのかなぁ~~~~?」
「いや、だって、訊いてきたのは早苗さんの方で、その時はまだ遊里さんじゃないと判断できていなかったものだから…」
「でも、ホイホイと喋るもんじゃないの!」
「私は別に構わないわよ! いつでも聞いてあげちゃうし、相談に乗ってあげるから!!」
「いや、アンタはややこしいから出てこないで!」
もう一度、スリッパでお母様を叩く遊里さん。
もう、ネタを超えてしまってますよ。半分本気で叩いてません、遊里さん?
「ふっ! でも、遊里ちゃんの彼氏は良い子ね」
「「え………?」」
「『もしも、学校で遊里が攻撃されてもボクが守りますよ』なんてそう簡単に言える言葉じゃないわ…」
「ちょ、ちょっと、隼…。そんなこと言ったの…?」
ボクを見る遊里さんの顔は真っ赤だ。
さすがにあのセリフを復唱されると、ボクも恥ずかしさでいっぱいだ。
ボクは小さな声で「うん…」と頷く。
「す、すっごく嬉しいけど、すっごく恥ずかしい!!」
「あらあら、二人そろって顔を真っ赤にして~。可愛いわねぇ~。私にもあの人とそういう時代もあったわねぇ~」
早苗さんも顔を赤らめる。いや、こっちは単なる思い出して照れてるだけだ。
ボクら二人は互いの視線すら合わせられていない。
「この子なら、合格ね…。隼くん、ウチの娘を末永くよろしくね~」
「あ、こちらこそ…」
「お母さん? すっごく良いシーンなんですけど、カッターシャツから真っ黒なエロエロブラジャーを出したままで、言わないでほしいわ…」
確かに…。
早苗さんはカッターシャツからブラジャーが半チラしたままだ。
谷間にボクの目がいってしまう。
遊里さんはボクの耳を引っ張り、
「何見てんのよ! あんなのより、張りのある私の方がいいに決まってるじゃない!」
「え? あ、ゴメン…」
「いいわよ…いくら見ても。何だったら触らせてあげても♡ 唇はあの人のものだから、ダメだけどね」
だから、さっき、キスをあんなに拒んだのか。
そりゃ、大好きな旦那さんの唇を誰か他の人に奪われるなんて冗談でも嫌だろうからね。
「あ~~~でも良かった。お母さんの誘惑に惑わされて、本当に寝取られてたらマジで立ち直れなかったかもしれないもの」
「ふんっ! もう隼くんをいつでも襲えるんだから…。隼くん、遊里ちゃんと喧嘩したら私にLINEを頂戴ね。あ、もう登録してあるから…」
え!? いつの間に!?
どうやって登録したの!? ボクのスマホ、乗っ取られてるの!?
「ぜーーーーったいにダメ。お母さんなんかに私の隼をあげるわけないじゃない!」
そういって、遊里さんはボクをギュッと抱きしめる。
形のいい胸がボクの身体でフニュンと潰れる。
あ、これ好き…。いや、大好き!
「ふ―――――んっ! 何てイヤらしい身体なの! 何を食べればそんなにおっぱいが育つのかしら!」
「ふーんだ! お母さんの食事を美味しくいただいて適度な運動をすれば、こうやって育つのよ。茜もそうよ!」
「え? 私がどうかしたの…? ゲッ! マ…お母さん、何してんの!?」
「ただいま~~~。ん? どうしたの~~~? うあっ! 遊里さんが二人いる!?」
タイミング悪く帰宅してきた楓と茜ちゃんのお二人。
楓にとったら衝撃的なことだと思う。
だって、同じ制服を着た遊里さんと遊里さんのそっくりさんが並んでいるんだから。
「え? どっちが本物!?」
「抱き着いている方が本物だよ、楓先輩!」
「え? でも、そっくり過ぎない? どうやって見分けるの?」
そこで、茜ちゃんは腰に手を当て、右人差し指をピーンッと立てて、言い放った。
「そんなの簡単よ! お姉ちゃんのはロケットオッパイ! お母さんのは垂れ乳!」
「茜…今日の晩御飯抜きね」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ウソ、嘘でございますぅ~~~~! お母様はいつもお美しうございますぅ~~~~~~!! だから、飯抜きだけはご勘弁くださいぃ~~~~~~!!」
早苗さんの美脚に
何だか哀れ過ぎる…。
茜ちゃんや遊里さんがお母さんに向き合うときにいつも覚悟をしているっていうのが何となく分かった。
この人、本当の意味で『美魔女』なんだよ…。
これからも会うときは相当気を付けて合わないと、ボクも絶対に何かに巻き込まれる可能性が十分にあると悟った。
それにしても、賑やかな家族だなぁ…。
あれ? 何か忘れてるような…。
「お兄ちゃん? 賑やかなのは嬉しいんだけど、晩御飯は出来ているんだよね? 楓ご所望の魚料理は?」
「「あっ! 晩御飯作らなきゃ!!」」
ボクと早苗さんは同時にそう叫ぶと、早々の解散を促す。
そして、大慌てで晩御飯の支度にとりかかる。
1時間後―――。
本日の献立に大満足の楓様は、天ぷらと鯛めしに舌鼓を打っていた。
「やっぱり、お兄ちゃんは私のお嫁さんになるべきだね」
また、同じことを言っている。でも、これからはボクも言い返せる。
「何言ってるんだよ! 楓は瑞希くんのいいお嫁さんにならないといけないんじゃないの?」
「ぶっ!? み、瑞希は関係ないでしょ!?」
顔を真っ赤にして、「アイツはただの彼氏なんだから…」とブツブツと呟きながら、鯛めしを食べる楓。
「まあ、その気があれば、教えてあげるよ? 料理の基礎から…」
「え? ホント!?」
「うん。瑞希くんのためにね」
「なんか、お兄ちゃんが意地悪になっていくぅ~~~」
ボクら
「でも、高校デビューする前に教えておいてほしいから、本当にお兄ちゃんに弟子入りするかも…。そ、そのお弁当とかも作りたいし…」
彼氏に彼女が作ったお弁当かぁ…。いいねぇ。青春だねぇ~。
「いいよ。簡単にまとめて教えてあげるよ…。お兄ちゃん秘伝の技をね」
「ありがとう! お兄ちゃん、大好きだよ!」
「あはは、だからその言葉は、瑞希くんに言ってあげてよ」
「もう、そればっかり! 言ってるもんねーっだ!」
言ってんのかよ!
何だか妹の恋愛進捗度も進んでるなぁ~。
中等部生徒会の美男美女の恋愛かぁ…。絶対に誰にも割り込めない世界だな。
ボクも早くクラスの状況が改善すればいいんだけどなぁ…。
ま、ボクの思い通りに事が進めば楽なんだけどねぇ…。
そうならないのが人生だったりするんだよ…。トホホ…。
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作品をお読みいただきありがとうございます!
少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。
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