第29話 先輩への告白。
昨日のことが頭にこびりついていて、一睡もできなかった。
今日も試験明けの休みで良かった…。
何度でも私の脳内で先輩たちの昨日のことをリプレイすることができる。
とはいえ、今日は、授業はないけれども水泳部の活動はある。
もうすぐ記録会が近いから、高等部の先輩方と一緒に練習だ。
私は後ろ髪を、楓先輩のようにポニーテールにして、パンパンッ!と二度頬を叩いて、洗面台の鏡を見た。
少し顔がやつれている。自分のメンタルの弱さに嫌になる。
リュックを背負うと、玄関に向かう。
姉は部活動はしていないから、今日も休み。お気に入りの抱き枕を抱きながら、クネクネと気色の悪い動きをしていた。頭の中は彼氏のことでいっぱいなんだろうな。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃ~~~~い」
姉が面倒くさそうに自室から言ってくれた。
この後も彼氏とイチャラブするんだろうか…。ま、私には関係ないことだけど。
聖マリオストロ学園高等部の正門から今日は入る。
室内プールの「アクアセンター」は体育館(高等部では「センターアリーナ」と呼んでいるらしい)の横にある。
途中で楓先輩を見つけて、心臓が跳ね上がる。
「あ! 茜ちゃん! こんにちは~」
「楓先輩、おはようございます!」
「今日も、茜ちゃんは固いねぇ~。もう少し、気持ちも柔らかくしないとダメだよ~」
さすがに先輩の前でダラダラとできるわけがない。
そ、それに私は昨日の目撃者なんだから…。
当人を目の前にしたら、緊張して固くもなります。
「楓~、今日のメニューって楓と茜が一緒だったっけ?」
水泳部の陽キャ代表こと宮村先輩が、楓先輩に抱き着くようにしながら、訊く。
楓先輩は、笑顔で「そうよ」と返す。
え――――!?
今日、私と楓先輩、ペアなの!?
楓先輩とペアの時は、正直大変だ。
何が大変って…。精神的に…。
アクアセンターの更衣室には、すでに高等部の先輩方が着替えていらっしゃって、ストレッチなど軽い運動をしている人も居た。
楓先輩が入ると、いつも高等部の先輩から羨望の眼差しが送られる。
そりゃそうだろう…。
中学2年で全国大会を優勝し、本人はそのまま高等部への進級を願っているのだから。
先輩たちも水泳部は安泰とでもお思いのことだろう。
「茜ちゃん、私たちも着替えよっか」
「あ、はい!」
ブレザー、スカート、インナー類を脱いで、競泳用の水着に着替える。
今日も先輩は長い髪をポニーテールにくくっていて、それをたくし上げてピン止めをして、スイムキャップに収める
「そういえば、今日は茜ちゃんと髪型お揃いだね~」
いつも通りのはにかんだ笑顔。
私の
「あ、はい。先輩の真似をしてみました…」
「きゃーっ! 真似なんて可愛いことしてくれるねぇ~」
「いえ、あの先輩のこと好きなんで…」
私がそういうと、先輩は真顔で私を見つめる。
え、何かマズいこと言ったかな…。
私は「好き」を勘違いされたのか、気持ち悪がられたのかと不安になる。
しかし、先輩は舌をペロリと舐める仕草をして、
「私も茜ちゃんのことが好きだよ。何だか怯えているチワワみたいで…」
それって褒めてるの? それとも
すっごく不安になる。
着替え終えると、プールサイドの広いところで、ストレッチをし始める。
ストレッチをしておくと、足を吊ったりとかしないし、身体の柔軟性を生かしてタイムを上げることも可能なのでとても大事。
もともと楓先輩は新体操もできそうなくらい体の柔らかな人だから、ストレッチというよりどっかのサーカスの人のような体のくねらせ方もストレッチの中でしてしまう。片や私は少し体が硬いので、いつも楓先輩とのペアだと、楓先輩の身体全体を使ってストレッチを手伝ってくださる。
前屈の時は、身体ごと押し付けるから、二つの膨らみが私の背中で直接つぶれるような柔らかさを感じる。
正直、鼻血ものだ。
ストレッチを終えると、順にレーンに分かれて泳ぎ始める。
まずはウォーミングアップ。そして、徐々にスピードアップを始める。
お互いがタイムアップを図っていく。
正直、楓先輩だと私には勝ち目はない。
でも、近くで泳ぎを見れるのはとても勉強になる。
スラリと伸びた足がしなやかに動き、スピードに変えていく。
一見、簡単そうに見えるがやってみると、これがなかなか難しい。
それに今日は一睡もできなかった影響で、もはや心身ともにフラフラだ。
私は、プールサイドで楓先輩を待っているときにそのまま倒れ込んでしまった。
気づくと鼻孔に塩素の匂いがした。プールサイドの休憩室兼医務室のようなところらしい。
私は少し気を失っていたようだ。
頭に柔らかい弾力を感じる。足? あ、これ膝枕だ。
柔らかくて気持ちがいい。
「あ、目が覚めたようね…」
「あ、楓先輩…」
「もう、ダメだよ。きちんと練習の前の日は寝なきゃ…」
「す、すみません…」
楓先輩は心配そうに私を覗き込んでくれた。
私は顔が近くて頬を赤らめてしまう。大好きな楓先輩の唇が目の前にある…。
キスしたい衝動に駆られるが、さすがに今いきなりするのは節操がない。
そういうタイミングでないことくらい自分でも分かる。
私は思い切って、昨日のことを聞いてみることにした。
「楓先輩って、橘花先輩と付き合ってらっしゃるんですか?」
「え…………? ど、どうしてそう思うの…?」
今度は楓先輩が顔を赤らめる。少し目が泳いでいる。
それだけで「付き合っている」と言っているようなものだ。
「昨日、私、石澤先生に頼まれて生徒会準備室で片づけ作業をしていたんです」
「――――――!?」
ピシィッ!(固まる音)
明らかに動揺する楓先輩。
私が膝枕をしたままでなければ、逃走されていたかもしれない。
「き、奇遇ね…。私も生徒会室の片づけしてたんだよぉ…」
「ええ、存じ上げています。偶然、見てしまいましたから…。そ、その…橘花先輩としているところを…」
「――――――――――!?」
楓先輩の太ももの血流が早くなってきているのが、耳から音で伝わってくる。
「ど、どのあたりから見てたの…?」
「荷物が崩れてきていい雰囲気になって、橘花先輩が後ろから抱きしめて、……ああ最後までです」
「……………………………………それって全部じゃん。迂闊だったわ…。私も雰囲気に飲まれちゃって、周囲に気も使ってなかったから…。て、もしかして、それ見ちゃって、一睡もできなかったの!?」
「あ、はい…。その私も、好きな先輩がしてるのを見て、興奮してしまって…」
楓先輩はニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。
「そう…。オカズにしたんだぁ…」
ニヤニヤニヤニヤ…。
楓先輩の微笑み方が悪魔のようなそれに変わる。
何だか凄く嫌な予感がする…。
10分後――――。
私は涙を流し、痙攣していた。
たった10分なのに、もう力が出ない。
「うふふ…。可愛いわぁ…茜ちゃん…。これからは私と二人きりの時は、『楓お姉さま』って呼ぶのよ。いい?」
「は、はひ…。楓おねえしゃま……」
「どう? 自分で歩ける?」
「は、はい…楓お姉さま…」
何だろう…この気持ちよさ…。
特殊性癖を超えて、
「今度の日曜日に、あなたのお姉さんの誕生日会をウチでするらしいから、あなたも来なさいよ、いい?」
「いえ…私はさすがに邪魔なのでは…」
「いいから、来るの! 分かった? お泊まりして遊ぶんだからね…」
「は、はい…行かせていただきます…」
「いい子ね。良い子にはご褒美をあげるわ」
そういうと、楓先輩は私の唇にキスをした。
柔らかい感触が私の唇に伝わってくる。
な、何なんだろう…この気持ちは。
私はそんな頭の中のもやもやを消し飛ばすために、必死に午後の練習では必死に泳ぎ、楓先輩とタイムアップを図った。おかげで楓おね…先輩に僅差のタイムを叩き出し、私は先輩たちからも一目置いてもらえる存在となったのである。
ああ、でも楓先輩に襲われたの、本当に気持ちよかった…。
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