【外伝】茜ちゃんパニック狂騒曲!?【神代茜side】

第27話 中等部ツートップの関係

 私は神代茜くましろあかね―――。

 聖マリオストロ学園中等部に通う2年生よ。

 部活動は水泳部に所属していて、清水楓先輩の後輩にあたる。

 私にとって、楓先輩は憧れの存在であり…、後、その…恋愛レズの対象でもある……。

 自分にとっても、こういう性癖があるとは思いもしなかった。

 まだ実際身体の関係を持ったことはないけど、私は同性愛者なのだと思う…。

 男などは、恋愛対象にすら入らない。

いや、そもそも興味すらわかない!

自分にとっては、神のように崇拝している楓先輩さえいらっしゃれば、それ以外何もいらなかった。 

 でも、そんな楓先輩の「女」であるところを私は目にしてしまった。



 6月×日、生徒会室準備室―――。

 私はテスト明けという普段2~3日ほど学校が休みになる期間に、担任の山澤先生に呼び出されていた。

 山澤先生は生徒会担当の先生で、私をよくコキ使う。


「神代~、昼飯代出してやるから、生徒会準備室の掃除頼むわ~」

「え…。私一人ですか?」

「まあ、将来の生徒会長様なんだから、準備室を好きなように整頓しておいてくれればいいよ。来年使いやすいようにな~」


 昼飯代はありがたいが、私が来年度、生徒会長に立候補するかなんてまだ決めてもいない。

 にも、拘わらず、先生はすでに私が会長になったかのような言い草だ。


「分かりました。自分のタイミングで職員室に食事前にお伺いすればいいですか?」

「あ~、そうしてくれる~? 先生もテストの採点しまくってるから、時間気にしないでやっててくれよ~」

「分かりました」


 何とも緊張感のない先生だ。

 私に対してだけではなく、誰に対してもだ。


「よく、あれでクレームが出ないものだ…」


 私はそういうと周囲を見渡す。

 さすが、生徒会準備室――。これまでの過去の書類やらがうず高く積み上げられたものもある。

 私は年度ごとにそれらの書類をファイルに綴じ、年度ごとに段ボール箱を準備して、そこに入れていく。


「おいおい、この書類今から10年も前のものだぞ…。先輩たちは何をしてたんだ…!?」


 きっと手つかずのまま、先送りした書類をどんどんと整理していく。

 準備室といえども、もともとは先生たちの待機室などに使われていた場所なのでエアコンが設置されてある。6月と言えば、徐々に蒸し暑くなる季節だ。

 私はエアコンをオンにして、冷房の25度に設定する。

 快適な冷風が私の汗ばんだ額をぐ。


「これで少しは作業がはかどりそうだ」


 そういって、次の書類に目を向ける。

 文化祭。

 体育祭。

 校庭でのコンサート。

 どれもかしこもイベントごとの書類が山のようにある。

 ファイルにまとめつつ、段ボール箱に整頓していく。

 すっごく地味かつ地道な作業を繰り返し行う。

 でも、生徒会に志願するしない関係なく、この作業は本当に良い経験だ。

 学校の運営側の膨大な準備を手にして見ることができるのだから。


「それにしても、山澤先生は絶対に私にこれを次年度に押し付けるためにやらせているな…」


 書類を机でトントンと整えつつ、ちょっと笑みがこぼれてしまう。

 明らかにこれだけの膨大な仕事量を見せつけられたら、誰もやりたがらなくなるのは当然だろう。

 でも、私はそれを楽しんでしまっている。

 まんまとめられた感が否めない。



 気づくと作業を始めて、3時間ほど経っていた。

 もう、12時だ。

 私は集中すると本当に周りが見えなくなるのが欠点だ。

 たぶん、周囲が火災であっても集中していたら気づかないようなちょっとポンコツなところがある。

 書類があらかた片付き、生徒会準備室の長机の天面が見えてくる。

 その時だ――。

 隣の部屋から人のいる気配を感じた。


「あれ、隣りって生徒会室だけど、誰か先輩が来てるのかな…」


 私は準備室と生徒会室を繋ぐドアのうっすらと開ける。

 そこには生徒会長の橘花瑞希先輩と生徒会副会長の清水楓先輩の両名が、こちらも書類の整理に追われていた。


(何だ、私だけじゃなかったんだ…)


 ちょっとホッとしつつ、そして楓先輩が目の前にいるのを見て、少し興奮してしまう私。

 今日も綺麗…。今日の髪形は、ポニーテール。水玉のシュシュがこれまた可愛い。

 スラリとスカートから伸びる足は生々しくて、今にも飛びつき…、いやいや、モデル体型でお美しい。


「この書類って、この上に書棚よね?」

「ああ、確かそうだったと思うよ」


 楓先輩が橘先輩に確認して、椅子の上に立ち、そこに片付けようとする。

 そして、横開きの戸を開けた瞬間!


 バサバサバサッ!!!


「きゃあっ!?」


 突如、押し込んであった書類の束が、楓先輩に降り注いだ。

 楓先輩は受け身を取るけど、そのままバランスを崩して床に落ち…なかった。

 落ちかけた瞬間に、橘花先輩が楓先輩を受け止め、そのまま床に崩れたのを――。

 橘花先輩が楓先輩を床に三角座りをしたような状態で受け止めていた。

 

「あ、痛たたたた…。て、瑞希! 大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫。水泳部のエースにケガなんかさせたら、お前のファンに殺されちまうからな…」

「あはは…。そんなの大丈夫だって…。て、それよりもいつまで抱いてるのよ…。そっちの方が問題よ…」

「あ? ああ、悪い。でも、このままじゃダメか?」

「そ、そりゃ、ダメでしょう…。だって…」

「だって?」

「だって、私たちまだそういう関係じゃないもの…」


 楓先輩の言い方、歯切れが悪い…。


「これまでも、何度もキスはしてきたけどな…」

「そ、それは…雰囲気に乗せられて…」

「嫌だった?」

「…………………」

「俺はさ、橘花家の子どもだけど、別に将来継ぎたいとかいう気持ちはあんま無いな…。大好きな楓と一緒にいれば…、それでいいと思ってるし…」


(え………!?)


 今、何て言った? 橘花家の長男が家を継がずに、大好きな楓先輩と一緒になりたい!?

 橘花先輩、サラッと凄いこと言ってるんだけど。

 それにこれまでにもキスを何回もしてるって!?

 それ、恋人同士じゃん!

 私は興奮のあまり、心拍数をバクバクとさせながら、状況を見つめていた。


「へ~、私を好きになるために覚悟があるって言うんだ…」

「ある…」

「ふーん。もう…しょうがないなぁ……。じゃあ、その言葉の真意を私に証明して見せてよ……」


 楓先輩はニヤッと笑いながら、橘花先輩に言った。


「…………ああ」


 少し間があったのちに、橘花先輩はそのまま、楓先輩と唇を合わせる。

 私はもしかして、今、凄いものを見てしまっているのではないだろうか。

 聖マリオストロ学園中等部の美男美女のツートップはキスしているところを目の前にしている。

 私は本当に動けなくなってしまった。

 だって、それはあまりにも美しすぎる光景だったのだから。


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作品をお読みいただきありがとうございます!

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