第21話 何だか妹の雰囲気がいつもと違った日。
「お兄ちゃん、本当に変わったよね…」
妹は部屋の装飾をしながら、ポツリと呟いた。
「ん? どのあたりが?」
ボクはキッチンで今日のパーティーのための調理を行っている真っ最中だ。
折角、遊里さんの誕生日パーティーなんだ。美味しい夕食を用意したい。
時計の針は4時半を過ぎたところだ。
遊里さんは、『5時半過ぎにはそちらに向かう』とLINEにあったので、それに合わせてボクたちの準備も大詰めに入っている。
「お兄ちゃんってさ、誰かのために誕生日パーティーなんて、開いたことなかったじゃん」
「そう? 楓には毎年してあげてるよ」
「そう。私にはね! でも、家族でもない人の誕生日パーティーなんて絶対にしない人じゃない」
「まあ、今回は誕生日でもあるけど、中間テストの祝賀会も含みだからね」
「そう。それもよ! 打ち上げなんて陽キャがやることじゃない! 絶対に、お兄ちゃんは神代さんに洗脳されちゃったのよ!」
「何てこと言うんだよ。神代さんがそんな失礼なことするわけないだろ…。そもそも洗脳ってなんだよ」
「きっと、あの豊満なスタイルでお兄ちゃんを手籠めにして、おっぱいでフニュフニュさせて、お兄ちゃんをどんどん神代さん色に染めていってるのよ…。エッチっ!!」
「いや、意味わかんないから…。最近、楓は妄想力が付きすぎてるよ…。雑念を消すためにお寺に入信させようかな…」
「ひ、ひどい…!!」
ボクはそう言い捨てると、キッチンの方に再び振り向く。
夕食を御馳走するわけだけど、そのあとは誕生日恒例のケーキもある。
となると、夕食のボリュームはそこそこにしておかなければ、お腹いっぱいになってしまう。
今日のメニューは、サンドイッチ、ロティサリーチキン、カップサラダ、クラッカーのオードブル乗せ、フルーツカクテル(お酒は使ってないよ!)。と、まあ、取り分ければ、フォークや片手だけでも食べられるものにした。
遊里さんの事前情報で、今日は神代さん姉妹(遊里さん、茜さん)のみが来ることになっている。まだ、勇気くんは年が離れていることもあって、神代さんおお母さんが面倒を見てくださることになった。
驚いたのは、なかなかこういう交流に姿を見せないと妹が言っていた茜ちゃんが今回の誕生日会に参加するということだ。
オーブンからは少しずついい匂いがし始める。
朝から下味を付けておいたロティサリーチキンがグリルモードでジワジワと焼かれている。鶏の皮の部分からはフツフツと脂が程よく湧き出て、その脂が熱でこんがりと焼きあがっていく。
「よし、い感じだ…」
「こっちもいい感じだよ~」
飾りつけを担当していた妹がキッチンに顔を出す。
キッチンに拡がる良い香りに妹も惚れ惚れとする。
「お兄ちゃん、この匂いは反則だよ…。もう、楓の胃袋はキュウキュウ言っちゃってる!」
「いや、ダメでしょ。今日は神代さんの誕生日なんだからさ…」
「じゃあ、今度、私の誕生日の際には、ローストビーフを作ってくだせぇ~」
「え~~~、あれもそこそこ面倒だけど…。まあ、分かった。メニューの一つに入れておくよ」
「やったーっ! 持つべきものはお兄ちゃんだね☆」
だから、お兄ちゃんの存在意義ってなぁに?
妹がキッチンに来てくれたから、ちょっと手伝ってもらうか。
「楓殿…?」
「ん? 何だね…?」
「料理してみない?」
「えええぇぇぇぇぇぇぇっ!? お兄ちゃん、マジで言ってるの?」
「うん。マジのマジで大マジだよ」
「神代さんの誕生日が台無しになっても良いっての?」
「いやいや、そんなことするわけないだろ! 楓の色彩センスの良さとボクの色々な食事を食べているからこそ、お願い仕事なんだよね」
「うーん…。何するの?」
「そこにクラッカーがあるだろ?」
「ああ、これね」
妹が材料を入れてある棚から、箱に入ったクラッカーを取り出して持ってくる。
そこでボクはオードブルを並べる用の四角い平皿を用意する。
そこにラップを敷いて、準備万端。
「ここにクラッカーを並べていってよ。で、並べられたら、買い出しの袋の中にある、『クリームチーズ』とか『スモークサーモン』、『キャビア』とかを並べて欲しいんだ。もちろん、感覚としては『自分が食べたい』、『人に食べてもらいたい』って感じでいいよ」
「お、OK! 全身全霊を掛けて取り組みます」
「うん。いい心がけだね。楓も料理ができるようにならないと、好きな男の子が出来たときにお菓子作ったりとかしなきゃいけないもんね」
「え!? う、うん…。そ、そうだよね…」
ん? 何だか、楓の動きが一瞬止まったような気もしたけど…。ま、いっか。
楓はサンドイッチを作るボクの横でうんうんと唸りながら、オードブル乗せクラッカーを作っている。
クリームチーズの上にブルーベリーのジャム。
玉ねぎとスモークサーモンのマリネにキャビアをちょい乗せ。
クリームチーズにレモンの砂糖漬けを細かく刻んだものをちょい乗せ。
………………………………。
色々と創作料理的に生み出される『楓式オードブル』―――。
どれもかしこも美味しそうな組み合わせのトッピングだ。
妹はこういったセンスは抜群だ。
ボクの方はサンドイッチの作成だ。
シンプルな卵サンドも作るのだが、ボクの卵サラダは茹で卵の触感を若干残す荒つぶしタイプのものだ。口の中でベチャベチャするのではなく、若干、茹で卵の触感も味わいながら、食べていただきたいと考えてある。
クリームチーズが若干残ったので、それとフルーツカクテル用の果物を使って、フルーツサンドも作った。
こうやって見てみると、バリエーションが豊かだ。
「できたーっ!」
楓はそこまでずっと息を止めていたかのような深呼吸をして、両腕を高らかに上げた。
「おおっ! 綺麗な色合いだね。やっぱり楓に任せて正解だったね。食材の組み合わせもいい感じだよ。いいお嫁さんになれるね」
「え!? い、いや…そんなことは…な、ないよ……」
うーん。やっぱり何か様子がおかしいなぁ。
妹が中間テストで首席になって以来、ちょっと雰囲気がおかしいんだけど…まあ、いっか。
ボクにベチャベチャする回数も減ってきているし、でも、別に兄離れを起こし始めているっていう感じでもないから…。
ピーピーピーッ!
オーブンが完成の合図を告げる。
そろそろ時間は、5時半になる。
ちょうどいいタイミングの完成だ。
さて、今日は少し羽目を外してお祝いをしようかな。
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